第8話 ゴールデンウイークとお嬢様とお泊まり(3)

 どうしても朝宮さんから目が離せない。

 顔と僅かに覗く肌は桜色に染まってて、とても色っぽい。

 ガウンの白さが余計に肌の色を強調していた。



「じゃあ、お風呂入ってくるね」

「うん。私はあっちで髪を乾かしますね」



 いつまでも目を離せそうになりそうだったので、俺は良い匂いを感じながら、急いでバスルームに向かった。



「ん?」



 着替えを入れるカゴがあったんだけど。

 その中には、既に誰かの衣服があった。



「ワンピースと……下着が入ってる?」

「きゃああああ! ダメです! 見てはいけません!」



 慌ててやってきた朝宮さんにカゴを回収されてしまった……。

 ばっちり見ちゃったけど。

 なんだろう。姉さんの下着を見ても何も思わないのに、不思議な気分だ。

 真っ白でリボンが付いたかわいい下着だったな……。



「あの、これ……お使いください」



 タダでさえお風呂入ってピンク色に染まった肌を真っ赤にして空のカゴを返してきた朝宮さん。

 ありがとうと言って受け取った。


 いつもはサッと汗を流して、サッと上がる。

 でも今日だけはしっかり全身を徹底的に洗った。

 特に意味は無いはずなんだけど……。

 そしてお湯に浸かる。


 さっきまで、朝宮さんがこのお湯につかっていた?

 そう思うとドキドキしてくる。

 いやいや、お湯を張り直したのかもしれないから、そうでもないかも。


 お湯はどこまでも綺麗で透き通っている。

 そのままなのか、張り直したのかどっちだ……?

 頭がぐるぐるして考えが停まらなくなって、のぼせそうだ。


 ……俺は考えるのを止めた。




 お風呂から上がった俺はぼーっとしてしまった。

 そんな俺を見て、朝宮さんが聞いてくる。



「いいお湯でしたか?」

「……うん」



 彼女の声で我に戻ると、なんだかとても美味しそうないい匂いがしているのに気付いた。



「たらこパスタと海老ピラフ?」

「はい。リモコンで注文できるみたいなのでしてみました」

「おおー。すごい! 使いこなしてる!」

「ふふっ。ありがとうございます。どちらを食べますか?」

「じゃあ……どっちも半分ずつ食べない?」

「そうですね」



 パスタとピラフを二人で分けて、楽しく話しながら食べる。

 朝宮さんの隣に座ったので、目のやり場に困ることもなかった。

 その分近いけど、意識しなければ結構平気だ。

 とはいえ、彼女と同じシャンプーの匂いが自分からするというのも不思議な感覚。



「ふぅー。食べたー」

「結構美味しいと思いました」



 そうなのだ。朝宮さんの言うとおり美味しかった。

 どこかのレストランと提携しているようだ。



「あの、少し横になっていいですか?」

「あーうん、いいよ」



 朝宮さんは、想像以上に疲れていたのかも知れない。

 彼女はごろんとベッドに横になり、布団にくるまった。

 ん? 半分以上のスペースが空けてあるけど……?



「食べてすぐだと、少しだけ苦しいですね。竹居君も……横になりませんか?」

「俺はここで寝るから」

「その椅子は固いですよ……私は平気ですから」

「え……? ううん……。朝宮さん、俺が隣だと怖くない?」

「いいえ。私のこと気遣ってくれてありがとう、色々迷惑かけちゃったから……竹居君がここで寝てくれないと、私が寝られません」



 これは……。

 あまりいつまで断っていたら怒らせそうだ。



「……分かった。指一本触れないから、安心して」

「ふふっ。竹居君。私は何も心配していませんよ?」



 そう言われると。

 信頼を裏切るわけにはいかないな。


 意を決して布団の中に入る。

 すると、同じタイミングで、朝宮さんが部屋を暗くした。

 真っ暗ではなく、うっすらと見える程度の暗さ。

 俺は当然、朝宮さんの反対側を向く。



「すっごくバタバタしましたね……」

「そうだね。でも、俺は楽しかった」

「はい……わたくし……も」


 !!


 頭に温もりを感じる。

 朝宮さんが、俺の後頭部に頭をくっつけているようだ。

 別の温もりを背中にも感じる……。

 それは、切ないくらいに温かかった。

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