第34話 姉


 姉の修行場を、私は毎日雑巾がけをしている。ほのかたちの前では、諦めているなどと言ったが、心のどこかで私は諦めていなかった。


いつ姉が帰ってきてもいいように、掃除をしている。また何か悩み事がある時もよく訪れている。姉は時々トレードマークの青いライダースーツに身を包み、よくバイクを乗りまわしていた。


私も後ろに乗せてもらい、いろいろな景色を見に行った。姉はいつも私に自由に生きろと言っていた。


巫女として生まれ、魔法生物を相棒にしていた姉は制約が多かった。姉の魔法少女姿は見た事はないが、なまじ魔力がある分良くないものに遭遇する事は多かった。


だが姉はそういったものから私を守っていてくれた。屈託のない笑顔も浮かべ、勾玉のイヤリングを片方につけ、巫女服で戦う姿は、美しかった。私はそんな姉に憧れて、髪も姉に似せて短くしていた。よく真似をする私を姉は呆れていた。


 もしも魔力がなくなったら姉だったらどうしただろうか。自由に生きろと言うのだろうか。


 道場に向かう足がとまる。道場の前に誰かがいる。ヘルメットをかぶって、バイクにまたがって道場見上げている。

「お姉ちゃ・・」

 いや違う。身長が私位で男のようだった。姉は私からもうらやましい女性らしい体型だった。誰だろう。向こうもこちらに気がつき声をかけてくる。若い声だ。


「お?もしかして君が噂のさきちゃんかい?」

 ヘルメット脱いだその人の耳には、勾玉のイヤリングがしてあった。


 その人はこちらににこやかに手を振ってきた。私は少し警戒しつつも少し手を振ってみた。


「いやぁ君は聞いてたより、ずいぶんかわいらしいね」


「えっと・・・」


「あぁ驚かしてしまったね。私の名前は蝶野。若葉の友人さ」


 若葉とは私の姉の名前だった。蝶野さんはニコニコと笑顔を向けてくるが、警戒は解けない。そんな私の心を見透かしたのか。


「あぁ悪い悪い。私は君のことを若葉から聞かさせていたけど、君はどうやら僕のことを知らないようだね。君のことなら何でも知ってるよ。若葉は君にデレデレだったからね。いつもいつも後ろをついてきたり、グリンピースが嫌いだったり、封印術が苦手でよく若葉がフォローしてたり、怖い話を聞いた夜は一緒に寝てもらったりね」


 顔が赤くなる。あの姉は他人に何をベラベラと喋っているんだろう。


「ははっ、さきちゃんはかわいいな。若葉の古代魔法少女の霊の半分を引き受けてたり、他にも色々聞いてるけど、やめておこうか。お友達も来たようだし」


 振り返るとほのかとカレンがこちらに向かって走ってきていた。


「えっと・・・」


 ふたたび振り返ると蝶野はどこにもいなかった。


「あれ?」




「ふふっ若葉。君の妹はずいぶんかわいいな」


 木の上から少女達を眺め、微笑をうかべる。イヤリングを触りながら呟く。


「あ、バイク!今から降りるとカッコ悪いな、、、あ、待って持ってかないで!」






「さっきは、悪かったよ」


 友人達に頭を下げる。


「いや、いいよ!大丈夫」」


 正直、あまり気乗りしなかった。私の不安は的中する。ミッキュ の姿も半分透けている。これでほぼ確定だ。


「なるほどッキュ。おそらく、さきちゃんとりゅうっちを結びつけていた契約がとけかけてるだっキュ」


 ちなみにこの声も聞こえていないので、ほのかが代弁している。でも語尾まで再現しなくてもいいのに、まぁかわいいからいいか。


「今のところ解決策は、思い付かないっきゅ。すまないっきゅ。でも、今魔法国は、てんやわんやしているから、今すぐ記憶を消されたりとかそういう事はないと思うっきゅ。」


「てんやわんやってどういうことカナ」


 カレンが真剣な顔で尋ねる。


「さちよがこないだ現れたことだっきゅ。彼女は魔法国では女王様と肩を並べるほどの実力があって、女王様をはめた裏切り者だっきゅ。だから、彼女は杖を没収されてたっきゅ。こないだ魔法騎士隊と戦ったことで、女王様の耳に入ったっきゅ」


「あと、ほのかの魔法が危険視されているんだっきゅ。伝説の魔法少女であるさちよがほのかの魔法を狙ってたと魔法国は考えている。それだけ危険分子だと思われてるんだっきゅ。だから、処刑するって、え~!!」


初耳だよ!とほのかが驚く。


「しょ、しょ、処刑ってどういうこと?」


 不安そうにほのかが言った。


「確かにさちよは、世界の平和にも大きく関与していたけど、問題児だったっきゅ。何かを起こす前にヤッちまおうっていう魂胆だっきゅ。言うことを聞かない巨大な爆弾は処理してしまおうという考えなんだっきゅ」


「そんなめちゃくちゃナ」


「魔法国は世界のバランスを第一に考えているっきゅ。だからどうしても保守的な考えが強いんだっきゅ。魔法国は、さちよだけではなくて、ほのかに対しても監視役の魔法使いをつけることにしているっきゅ。そいつらは、馬鹿みたいにつよいっきゅ。きをつけるっきゅ。特に魔法の私的利用は厳禁っきゅ」


「いや、じゃあその監視役の記憶をちょいちょいっといじるとかだめかな?記憶メモリーで」


「マイナス40て〜ん♪」

 突然現れた黒いゴスロリの小柄の子が意地の悪い笑顔で言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る