第13話 やばい!やばいよ!しっぽ焦げてるっきゅ!魔女の食卓だっきゅ
完全にノビてしまったさちよとミッキュを連れて、部屋に戻る。
ほのかたちの寮には様々な部屋があり、寮生は自由に使うことができる。談話室、キッチン、ランドリールーム、簡易図書館、ジム、多目的ルーム。
特に重宝されるのは多目的ルームで、ここは杖の一振りでなんでも再現することができる魔法の部屋である。希望する環境、物、室温、湿度、広さなどなどすべてが調整可能。ほのかたちは魔法の訓練やリラクゼーションに使うことが多いが、今回の目的は違う。奴らにお仕置きをしてくれるのだ。
暗い室内にグツグツと湧き上がる大鍋。鍋の中身からは刺激臭が漂ってくる。
「目があああああぁぁぁ目が痛いッキュうあああああぁぁぁ」
鍋の上には縄でしばられた緑のぬいぐるみが吊るされていた。鍋をかき混ぜるのはタンコブで頭を腫らしたさちよだった。
「ぐすん、ぐすん」
彼女らの前には腕を組み、修羅の表情を浮かべるほのかの姿があり、お玉を片手に様子を監視していた。
「ほら、次は、野菜と肉を煮るんだよ!」
「…はい」
裏山で行なわれた人悶着は晩御飯を代わりに作ることで、話は落ち着いた。
一通り作業が終わったあと、鍋で具材を煮込んでいる間、話をすることに
「で、さちよさん。あなたは何者なの?なんで、ミッキュと知り合いで、なんの目的で、わたしの町に来たの?」
「ガッハッハッ!小娘に語ることないわ…ってごめん!ごめんってば!包丁向けないで」
これ以上彼女のペースに乗るわけにはいかない。どうも彼女は自分のペースで物事を進めたがるクセがあるようだ。心を鬼にして話を聞かないとすぐに煙に巻かれてしまう。
「ん~あたしは、杖を奪われちまってて、それを探して、あちこち旅してるんだ。これまでもいろんなところにいってきたが、最近になって、このあたりで見かけたってやつがいてよ。里帰りってわけよ」
「奪われた?」
「あぁ、まぁ禁術をつかってしまったからって建前でな。魔法騎士隊やカウンターズ、最後は女王まで出てきたな。いやぁさすがに、カウンターズや女王には手を焼いたが、そいつらの総攻撃を相手に1人で立ち回るあたし!超ウルトラかっこいいだろ?」
ドヤ顔で語るさちよの自慢話には微塵も興味はなかったが、禁術は聞いたことがなかった。
「そんなことより、禁術って?」
「そんなことって、お前…。学園で一番初めに習うって聞いたぞ。『命の魔法』『時の魔法』『記憶の魔法』『倍加の魔法』4大禁呪と呼ばれる魔法だな。まぁ魔法は魔術と違って個人個人の固有のものだから、そこに善悪はねぇよ。たいていその魔法を使うやつらは、脅威対象になる前にカウンターズあたりに闇に葬られているんだがな」
ん?『記憶の魔法』ってわたしの魔法もやばいってこと?
「さ、さちよさんはどの魔法を使ってしまったの?」
「ん、『倍加魔法』っていってな。昔はみんな使っていた魔法だが、ちょっとわたしが天才的だったからか。ちょっと、ヤベェ使い方を思いついちまって。まぁ奴がいうには経済を破壊するとかわけのわからないことをくっちゃべっていたがな。がっはっはっは。実際経済なんてくそくらえだ。この魔法の本当に恐ろしいところはそんなところじゃねぇのさ」
そういうと彼女は水晶玉を取り出して、二つにして見せた。
「な、便利だろ?」
「ちょ、今こんなところで使ったら、わたしが消されちゃうじゃない!!」
「大丈夫、大丈夫!ガッハっハ」
「ほ、ほんとに?!」
「うん、まぁ、うん、大丈夫!だったらいいなぁ」
「やばいやつやん。めっちゃ目が泳ぎまくってるよ!!」
彼女の目は高速で反復横跳びでも決めてるんじゃないかって勢いだった。
「で、どんな杖なの?」
「あ?」
「その、とられちゃった杖」
めんどくさいがここまできたら聞いてやろうじゃないか。ふふふと含み笑いをする彼女の横っ面がイラっとしたが、まぁいいや。
「ガッハッハッ!聞いて驚くなかれ!わたしの杖は3本あんだよ」
指をずいっとたてる。え?3本?どうするの?どこぞの剣豪見たく、口にくわえるの?噛み砕かない?
「そうさ!『紅き杖は猛々しく燃え!黒き杖は古の扉を開き!白き杖は全てを統べる!!!』ってな!ガッハッハ!学生時代に考えたわたし天才だな。めっちゃかっけえ!!」
正直厨二病丸出しのセンスはいかんとするべきかリアクションに困ったけど、とりあえずわらっとこ。ははは。
「ん、なんだよ?そのうっすいリアクションは?もっとあたしのセンスを褒め称えてくれていいんだぜ?がっはっは!」
「…なんで、三本も杖がいるの」
「杖に選ばれたからな。さちよさんはモテモテなのだ。がっはっは!!」
「…オスにはモテないッキュ」
つるされたミッキュの一言はさちよさんのぐーぱんにねじ伏せられた。
「ただいま」
さきちゃんはカバンを背負ったまま部屋に入ってきた。室内で行われる異様な光景にもまゆひとつ動かすことなく、ほのかの方に近づいてきた。
「あ、さきちゃんおかえり!今からたぬき鍋を作るからね。昨日は唐揚げ作りそびれてしまったから今日は豪華にするよ」
「そんなことよりも今からラックさまの握手会に行こっ」
そんなことより?!驚くミッキュはほのかのひと睨みで静かになった。
「とっても楽しいからさ」
「いや、私はさちよさんのことがあるし」
正直杖の話なんて興味ないんだけど。
「そんなことよりも今からラックさまの握手会に行こっ」
さきちゃんがこんなに押しが強いことなんて珍しい。よっぽど楽しかったんだろうな。
「いってこいよほのか。ミッキュもつれて、さ。ガッハッハッあたしは鍋でも作って待ってるよ」
紐で吊るされていたミッキュをほのかのほうになげる。
「とっとっと!ん~。わかった!いこ!さきちゃん。いってきまーす」
「おう!いってこい」
誰も居なくなった室内でさちよは静かにつぶやく。
「くっくっく…ガッハッハッ!!お手並み拝見といこうか!現代の魔法少女よ!」
ひとしきり高笑いをしたあと、エプロンの帯を締め直す。
「…ふぅ、よし、アイツら帰ってきた時の飯作っとくか」
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