第39話 さきの夢

さきは夢見心地だった。

自分が今どこにいるのか。

自分が何をしているのか。

もうどうでもよかった。

蝶野さんがいてくれるだけでいい。

蝶野さんが私を私のまま受け入れてくれる。

魔法少女のことも、世界の平和のことも、家のことも、姉のことも、全部気にしなくていい。

蝶野さんがいてくれればそれで。



「あんたが蝶野一だな」

「おや?ここには結界がはってあったんだがな。」


柔和な表情を浮かべるが、優しさはなく、とても冷たい機械のような印象をうけた。彼がいたのは神社の奥にある祠であった。


「さきちゃんを返して」

「さき?あぁか」


虚ろな目でその場にへたり座る彼女を踏みつけた。


「若葉の道場に入るための鍵となるかと思ったがな、はじかれてしまい全く役に立たなかった。せめて、血筋に期待して、魔法少女の力をいただこうと思ったが、」


さきを蹴りつける。

「とんだまがいものだ」

「その子にひどいことをするな!!」

「はっ、どの口がいう。お前も加害者だろう。貴様も惨めな運命だな。天照天馬。せっかく俺が魔法を授けてやったのに。」

「・・・お前の魔法は人を傷つける。魔法は人を幸せにするためにあるんだ」

「こいつをここまで変えたのはお前か。宮内ほのか」

じろりとこちらを見た。ほのかは思い出す。天馬さんの記憶を覗いた時に現れた男はこの男だ。


「宮内ほのか。お前の記憶メモリーもいい魔法だよな。もっとも、があって役に立たないがな。腹が立つなら魔法を使ってみな」


ニヤッと笑う。


「副作用?」

「・・・気づいていないのか?お前」

「は!いっつも街の平和を守って働いてお腹がペコペコだよ!!」

「ちょっとほのかちゃん・・・。多分それ違うと思う」

静かに天馬さんが服を引っ張る。


「ははははっ!

「な?え?」

「敵の口車に乗るなっキュ!!」


ちらりとミッキュを見たが、冷たく言い放つ。

「あぁ魔法生物。御神木の分身どもか。どちらを信じるかはお前次第だが、つく相手は考えた方がいいぞ。その杖は誰に向けるべきか。もっとも、俺に使った瞬間、カウンターズの権限で貴様も仲間の魔法少女も処刑対象だ」


「ああ、そうかい!!」

にやつく横顔を拳でぶん殴る。

「・・・霊力なら、問題ないよな」

「あ?」

「今日だけは、霊装少女ほのかだ!!」

フードを投げ捨てると、そこには巫女服姿のほのかがいた。


若葉さんの秘密基地で見つけた巫女服。コスプレ?って聞いたらなぐられた。

「魔法を使わずに戦う?なら、この巫女服はどうだ?この巫女服は霊力でできているんだよ。つまりほのか、お前でも霊術が使えるようになる。だが、使えば使うほどなくなっていくから早めに決着をするようにな。」


たしかにそんなことを言っていた。

「ほのかちゃん、ちょっとスカートスカート!!」

天馬さんに言われてはたと気づく。

「って、いやああああ!!」

丈が袖が消えていった。もはやノースリーブのミニスカート。


「なんだお前、おれに喰われたいのか?」


蝶野が少しよろめきながらも立ち上がる。だけどこれで距離ができた、さきちゃんに触れることができる。彼女の腹部に手を当てて、意識を集中させる。


「さきちゃん目を覚まして!上級憑依アップロード!!」

若葉さんの魔法だ。あとは時間を稼ぐだけ。


「?はったりか」

蝶野はローブを纏い杖を取り出す。黒光する杖だった。彼が杖を振るうと黒い蝶が溢れ出る。


「・・・魔弾バレット追跡トレース爆発ボム強化パワー射程レンジ命中ヒット


魔法が掛け合わされていく。どんどんと黒い蝶が大きくなっていく。


「ふぅ・・・。これまで喰った魔法少女たちのお陰で、だいぶ成長したな。お前も俺の一部になるか?ほのか。魔法だけ見れば超一級品だからな。また誰か操って、その魔法で暴れてやろう。おれを殴ったことを後悔させてやるよ。なぶって、なぶって、なぶってやるぜ、蝶魔弾バタフライエフェクト


魔弾の射出とともに回避を試みる。が、黒い蝶はほのかの動きを追跡して炸裂する。とっさに身を屈めるも間に合わず吹き飛ばされる。霊装があるとはいえ、相当なダメージがある。

「ほのかちゃん!!」

「裸にひん剥いてやるぜ」

「やってみろ!」

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