第38話 竜崎若葉
ほのかはさきの家を訪ねていた。
「ほのか。さきちゃん知らない?」
さきが学校に来ていないのだ。明るく活発なさきは交友関係が広く、 無断で何日もいなくなることはふだんのさきからは考えられない。
家の呼び鈴を鳴らしても誰も何も反応がない。
「・・・ミッキュ 」
「わかったっきゅ」
ミッキュ が魔力感知を行う。
「・・・この家の結界が崩されてる。魔力と霊力が混線してて、はっきり分からないっきゅけど、」
「・・・行こう」
ほのかは杖をぬいて神社に入っていった。
玄関を入って、奥へ進む。部屋の電気はついておらず、人の動く気配はしない。リビングに出ると、テーブルがあり、卓上カレンダーが置いてあった。カレンダーには、花丸が書いてあり、今日の日付に家族旅行。と書いてあった。
「家族・・・旅行・・・?」
「ほのか!!!」
強い衝撃とともに後方に引っ張られる。
天照天馬がほのかを後ろに引っ張ったのだ。
「え?天馬さ・・・」
天馬はほのかを引っ張った手とは逆の手で杖を握り、
「
と魔法壁をはる。目に見えない衝撃が壁を殴りつける。魔法でできた氷の障壁は長くは持たずくだける。リビングの奥に何かいる。
天馬が杖を振るい、炎の魔弾を放ち応戦する。え?え?なんで天馬さんが魔法使っているの?
「変し・・・」
「だめだ。君は監視されてる」
杖で術式を練り上げ、氷狼と炎の刀を召喚する。氷狼を前に杖と刀を交差して構える。そして驚きと不安の表情を浮かべるほのかに対して、優しく微笑んで言う。
「・・・ほのか安心して。君の先輩たちから受け継いだこの力で、必ず君を守り抜く」
魔炎をまとった刀と杖による魔法で攻撃をさばいていく。防ぎきれないものは、氷狼がカバーする。一分の隙もない。
天馬の脳裏には、二人の魔法少女の姿がよぎる。
「しっしっし、いいか天照。私たちがお前の起こした事件の報告をするために魔法国に行っている間、必ず何か異変が起こる」
「そのときにみんなを守って欲しいの」
「僕が?」
放課後に2人の先輩に呼び止められた天照天馬は目を丸くしていった。
1人は犬歯がちらりと見えてワイルドに笑い、もう1人は眼鏡を触りながら恥ずかしそうにこちらを見ていた。
「僕はみんなにひどいことを・・・」
「そうだ。お前は間違った使い方をしただけで、魔法の才能が十分ある。・・・罪の意識があるなら、悔いて自己満足に浸ってもなんの償いにもならねえからな。世のため人のために力を使いな」
「お願い。天馬くん」
「・・・わかった。よろしく頼む」
「しっしっしお・ね・が・い・し・ま・すだろ」
「すまない、お願いします」
「しっしっし。さてと魔法少年!私からは氷の魔法と体術を」
「私は炎の魔法と剣術を教えます。」
「はい」
あ、こっちの先輩は優しそう。
「しっしっし、あ、体術もそうだが、こと剣術に関しては気をつけろよ。さくらは剣をにぎると性格変わるから。魔法少女99人斬りの実績がある化けものだ」
こんな大人しそうな彼女がそんなことをするわけないだろう。
「だ、だ、大丈夫ですよ。死ぬ気でやってくれたら、殺しませんから。」
柔和な困り顔でとんでもないことをいう。だけど、ほのかたちを守るためなら、やってやる。地獄の訓練だろうが必ず乗り切ってやる。
「じゃあ時間もないし、まずは魔力を底上げするため、生命の危機に瀕してもらおう。上空10000メートルからのヒモなしバンジーを」
杖を振るうかおり。目が点になる天馬。
「おまえは潜在能力は高いんだ。なんとかしな。魔法はイメージだ」
地面が消え、風の音が耳をこする。わあ、お空まっさお。
「あおああああおおああああああああ」
もうあんな思いはごめんだ。
「修行のせいか!みせちゃらああああ!!」
「て、天馬さん?!」
なんかすごいキャラが変わっているんだけど。私もうかうかしてられない。魔法少女になれない以上できることは限られている。いくつかの生活魔法や簡単な転移魔法などは通常使用は認められている。
天馬さんはああは言ってるけど、まだ魔法を使い始めて日が浅そうだ。魔法にかける魔力量が多すぎる。あれじゃあ、すぐにバテてしまう。
対して相手は、大技こそ使ってこないが、水の魔法をバランスよく魔法、物理攻撃、斬撃などに変化させ、こちらの出方を見ている。天馬さんの多様な技を、一つの魔法で押さえこんでいるのだ。
そして徐々に対抗から、制圧にむけて、攻撃がシフトしていっていた。
おそらく石橋を叩いて渡る分析タイプ。こういう相手には時間をかけるべきではない。魔力感知でだいたいの場所はわかった。
「天馬さん。私が合図をしたらあのテーブルに弱めの氷の封印を」
「・・・わかった」
「3.2.1!!」
「封印術 氷河原」「時空移動ワープ」
「ぬわっ!」
足元を這う氷の封印術は、転送された青いライダースーツの女を捕まえた。だが、すぐに杖を振り水弾で氷を破壊された。対応が早い。
「誰だおまえら」
片耳に勾玉のイヤリングをつけたライダースーツの女がこちらに杖を向けていた
「うちは貧乏神社だ!泥棒さんよ!うちに取るものなんてないぞ!」
ライダースーツの女はそういった。
「ま、まってください!私たちは泥棒じゃありません!てか、一般人だと思って魔法撃ってたんですか?」
「は?魔法?おまえ達魔法国関係者か?」
「はい。この町の魔法少女やっています。」
「僕は天照天馬、こちらは宮内ほのかです。杖を下ろしてもらえませんか。友人の家が結界が崩れてて心配で中に入ったんです。」
天馬さんは杖をおろした。
「そうなのか?それはすまなかった。今のは霊力使った霊術だ。問題にはならん。なんで魔法少女がうちに?話を聞かせてくれ。」
「えっとその前にあなたは何者なんですか?なんでここに?」
「質問してるのはこっちなんだがな。私は竜崎 若葉。この家の長女で、元魔法少女兼、元龍の巫女だ。」
「じゃあさきちゃんのお姉ちゃん?!」
「ん?ああそうだ。なんでさきのこと知って」
「さきちゃんも魔法少女してるんです」
「は?」
魔法でメチャクチャになった家の中を片付けていく。ひと段落をした後にことのあらましをさきちゃんのお姉さんに報告することになった。
「ということだッキュ」
「「なんでテメェが説明してんだよ!!」」
若葉さんと私の拳が柔らかなぬいぐるみをえぐる。
「さっきのイケメン出せコラ!」
「天馬さんは?天馬さん成分を補給させて」
床に打ち捨てられた妖精は血の涙を流していた。
「なんで!?ひどいッキュ!女子受けがいいのってキュートなマスコットじゃないかッキュ!」
「イケメンにまさるものなし!」
力強く若葉さんが言った。
「若葉さんわかってますね。今度闇オークションやってんで行きましょ」
「正義の味方のセリフじゃないッキュ」
「あたしは正義の味方じゃねぇよ。今は家族の味方だ。てか、さきが誰にも連絡をしてないのは気になるな。魔法玉を見てみるか」
「魔法玉?」
「竜崎の家系は代々神職の家系だからな。事件やら神隠しやらに巻き込まれやすい。だから生きてるかどうかを知るため、魔法玉をつくる。死ねば割れる」
こぶしほどの玉がテレビ台の上に4つ並べてあった。ひとつを取り、空中になげる。
「ちょ」
玉は空中で止まり、激しく振動しながら回る。見れば、若葉さんが呪符を浮かべ、手で次々に印を結んでいく。最後にテーブルにあったペットボトルの水を玉にかける。水が空中を漂い、一つの形をつくる。
「ちっ」
さきの赤い魔法玉の上に水でできた巨大な黒い蝶が現れ、そのストローのような口を玉に突き刺していた
「蝶野 一ちょうのはじめ。カウンターズの副隊長にして、実行部隊長。隊長である零番が現在所在不明だから、実質的なリーダーだ。カウンターズの選抜条件が、魔法の功績と魔法国への服従義務であり、見返りとして、金や魔道具の斡旋や様々な優遇措置が与えられる。癖の強い奴らをまとめる隊長と副隊長は別格の強さと権力をもつ」
そして、と一瞬迷っているようだが、切り出した。
「私の元カレだ。古代魔法少女の封印の件で弱っていた私を慰め、心の隙に漬け込み、金と魔法を奪っていきやがった。今度は元カノの妹に手を出すなんて、とんだクズやろうだ。」
机にこぶしをたたきつける。
「やっかいなのは、あいつは、幻覚の使い手で使い魔の蝶の鱗粉を媒介に術をつかう。さらに竜崎家が所持封印していた禁術を盗みだしている。特に対魔法少女用に作られた禁術は相手の容姿や技、知識なんかも会得してしまうんだ。龍喰らいと呼んでたが、今は魔法少女喰い《グラトニー》と呼んでいるらしい」
「ほのか悪いが私は霊力しかない。霊力は魔力と違って魔法生物がいなくても使える反面、発動に時間がかかるし、場所を選ぶ。一をここまで誘導してくれないか」
「私も魔法はあまりつかえないんです。事情があって」
「カウンターズの監視があるっきゅ。やつらの魔道具は魔力感知で見つからないっきゅ」
「あぁそれなら大丈夫だ。その魔道具私が持ってる」
ずるりと何もない空間から黒いローブを取り出した。
「私はカウンターズの元メンバーだ。
あとは、と言い、杖と呪符を使い、霊術を展開する。目の前の景色が変わり、広い空間にでる。
「ようこそ私の秘密基地へ」
杖を振るうと壁が裏返り、武器や魔道具が壁一面に飾られていた。
「罠を仕掛けて、花のように命を散らす。カウンターズNo.8罠華八、龍咲若葉様の秘密基地にようこそ!さぁ奴らに一泡吹かせようじゃないの!!」
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