第18話 ラックの本名どうでもいいっきゅ!

西区の屋敷から釘バットを引っさげて、中央広場にやってきたのは、カレンだった。


「う~ちのい~もう~とに、手を出したヤツはどこのどーいつデースか~!」


金髪が逆立ち、彼女の眼が爛々と輝いていた。


「ち~まつり~death!」


しかし、すでに中央広場は、さちよによってほとんど制圧状態にあった。


「ガッハッハッ!弱い!弱いぜ!!弱すぎる!!!」

いまや身長より長くなった杖をぶん回し、パン屋を昏倒させたところだった。


「敵?」


カレンは釘バットを捨てて、杖に手をかける。観察するに、あの赤毛の露出下着は、スピード、腕力、魔法耐性、全てが強い。だが、妹にかかっていたのは魅了チャームこんな直線的な暴力馬鹿であるはずが無い。新手か。


「お前はつよいのか?がっは」

突然目の前に現れた赤髪の女に対して反射的に迎撃する。

目の前が真っ二つに分かれ、かれんの手にはいつの間にか鎌が握られていた。さちよの2つに分かれた体は霧のように消えた。


「やっぱり二重ダブル。しかも合わせがけ?二重自体は誰でも使える基礎魔法デスが、自分や自分の筋力まで、倍加してるなんて、頭おかしいんじゃナイデスカ。下手すると人間に戻れなくなりマスよ」

くるくると誰に言うわけでもなく、鎌を回す。


広場を見ると何人もの赤髪の女が市民を襲っていた。スマホを取り出して、屋敷で待つ魔法生物に連絡をとる。


「Hey?セバス、戦闘デス。いきマス!変身!」


杖から放たれた黄色い光がカレンを包み込み、服が爆散する。都合よく、色んな所が見えない謎の光がふりそそぐ。あっという間に黄色の山高帽子をかぶった魔法少女が現れた。


「むほっ!妹✩妹✩妹!パンが無ければ妹のパンツを被ればいいのに!魔法少女カレン!ここに見参!」


彼女は自身の最も得意とする魔法を唱える。


「集え!絡め!成せ!我の求める形を作れ!創造クリエイト


彼女が杖を一振すると、地面から可憐な少女の胸像がせりあがってきた。


「ぶばっ!」


彼女の鼻血が飛び散る。


「ま、間違えまシータ。いまのは夜のお供。『妹風抱き枕27号改~小さな2つのお山ちゃん~』でシータ。いけませんね。創造クリエイト


彼女が杖を一振すると、地面から銃や剣、鎌など、様々な武器が生えてきた。さらに一振すると、武器たちが引き抜かれ、かれんの周りを回るのだった。


「さて…回れ!貫け!撃ち落とせ!鉄霰シルバーレイン


武器が射出され、次々に、さちよの分身たちを射抜いていく。




「ガッハッハッ!次々にアタシがやられてるな。誰だ一体?赫が通用しないとはやるねぇ!この町にもいるじゃねぇか。

強いのが。なぁ、ほのか、ラック、いや…天照天馬あまてらすてんま


さちよさんはくるくると杖を回し、ラックにむける。あまてらすてんま?


「私が数ヶ月前におまえに渡したのは、芸能事務所のオーディション用紙だ。たしかにお前には人を惹きつける何かがあった。だが、魅了チャームなんて、誰が教えた。魔法に頼らなくてもお前は十分活躍出来たはずさ」


「…あんたのことは尊敬してたさ。でも、何も教えてくれなかった。あの人は、僕になんでもおしえてくれた。魔力のこと!魔法少女のこと!破魔町の御神木のこと!」


御神木?御神木がなんの関係が?


「ガッハッハッ!知りたがりぼっちゃんが。でよ、あの人って誰だ?」


「…」


「あ、言わない系か。いいぜ!いいぜ!ガッハッハッ!だったら、これならどうだい?『紅…《クリムゾ…》』」


さちよの魔法がどのようなものか、分からなかった。ただ、ラックに向けた杖が正月の餅のように膨張し爆発したのだ。


「あ、すまん!魔力を込めすぎた。」


「ふぁ?わ、わたしの杖があああぁぁぁ!」


杖が爆発した隙にラックはほのかとの距離を詰める。


「おい、この目を見ろ!魅了チャーム


気が逸れたその一瞬を見逃さなかった。

ほのかは吸い込まれるような緑の瞳を見てしまった。

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