第4話 魔法の授業と少女の噂。ほのかの胸は成長しないって話っきゅ。みぎゅ!ごめんっきゅ!ごめっ!きゅぺ!

 私の通う破魔町立第二中学校は、普通の中学校だ。一般の中学校と同じように、数学や国語などの授業、給食や部活はもちろん、体育祭などの行事がある。ただ、破魔町の特別な事情もあり、この学校ならではのルールや特別な授業もあって、その一つが『魔法学』だ。

 毎日一時間魔法について、学ぶ。杖を振って奇跡を起こす。私のお気に入りの授業の一つだ。


「宮内ほのかさん!!またあなたですかっ!!」


「ひぃぃすみませんっ!!」


 まぁ、めっちゃ、やらかすんだけど。


「なぜ、透明になるはずの助運薬リトルラックが!!赤焦げ茶色になるのですかっ!!」


 薬と同じような色をして、怒るこの背の高い女性は、我が2年杉組の担任であるシダー先生である。担当は魔法学・薬術で、正確無比、人に厳しく、自分にも厳しく、規則の鬼のミス・ルーラー。片眼鏡の奥に光る緑の目がメラメラと燃える。


「見なさい!宮内さん!龍堂寺さきさんを!!助運薬リトルラックは飲んだら運気をあげる薬。なのにあなたの薬のあの子を見てみなさい!!どうなってますか!!」


「…ふふふ…わたしは役に立たない、めだか…ミジンコ…ミカヅキモ…ふへへ」


 虚空を虚な眼で眺めるさきちゃんは口からよだれを流していた。


「えっと…みごとな食物連鎖…ですね?」


 あ、やば、女教師の顔がみるみる顔が真紅に燃え上がる。


「宮内さん!!」


「ひゃい!!すみません!!」


「いいですか?魔法や魔術には正しい知識と正しい方法を使うことが一番成功するのです。」


「…また、始まったよ…」


「そもそも魔法というのは…」


 学校が終わるとくたくた。


「くっそぅ…あのモノサシオババ…だから、結婚できないんだよ。なんで、わたしは魔法を使っちゃだめなんだよ。わたしの魔法だったら完璧に真似ることができるのに」


私の魔法『記憶メモリー』は、一度見た魔法を模倣できる魔法だ。朝のようなちょこっとした生活魔法や、上級魔法、古代魔法なんてものも扱ったことがある。そうわたしはめちゃくちゃにすごい魔法少女なのだ。ほめたたえよ!


でも、授業中は使うことを禁じられている。本人の実力じゃないからだって。私の魔法なのにさ。


まぁ、正直いろいろと扱いが難しい魔法ではある。まず、一回は相手の魔法を見なければいけない。これは、必ず相手に先手を取られて、自分は出遅れてしまうということだ。二つ目に私の魔力量の問題だ。私自身の魔力量は2年生になってからこそ人並より少し少ないくらいだったが、はじめはもう、ほぼ0だった。だから町の御神木のミッキュから魔力を奪っ…借りて魔法を使うことが多かった。魔法をまねることができても、エネルギー不足では発動しないのだ。


 つまり、杖遣いや魔力のこめかたは真似できても、レシピ通りにできるかは違う問題なんだけど。わたしの魔法が使えるようになった当初、言われたことを思い出す。


 「いいですか。宮内ほのかさん。あなたの魔法は大変危険な魔法です。極力使わないように。生活魔法や基礎魔法の修得を目指しなさい。そして、自らのスキルの向上に努めなさい。あ、そうそう、最近身体強化魔法が使えるようになったそうじゃないですか。なんでも緑のぬいぐるみを爆散させたとか」

「…いや、それは我の運動能力です…」

「…ごほん、ともかく、魔力と魔法の向上に努めなさい。あなたならきっとうまく魔法を使えますよ」


 ため息が出る。基礎魔法かぁ。

 罰として、みんなの出来た薬をフラスコに入れ替える作業で疲れ果てていた。助運薬の効果で、幸福な気持ちが、私の鍋の片付けの時に一気に奈落の底へ。私の薬どんだけやねん。

 とぼとぼと校門へ向かう途中、何人かの上級生とすれ違う。

 あの話題でもちきりだった。朝の占い師のことだ。


「ラック様がこの町に来るんだって!!」


「えー!うそー!」


「なんでもドラマの撮影があるんだって」


「なんでこんな辺鄙な街に」


「細かいことは気にしない気にしない。重要なのはイケメンがやってくるってことよ」


「はぁ・・・」


 わたしだって、イケメンは大好物だ。イケメンを見かけると「眼福じゃあ」と拝み倒したい衝動にかられる一般女子の一人。ただ、何か引っかかるのだった。理由は決してわからないがどうにもこうにも体が受けつけないのだった。


「おいっす。ほのかー、今日はひどいめにあったんですけどー」


 さきちゃんが手を振りながら近づいてきた。学校指定のジャージに着替えて、部活なのだろう。いつも通りメモをもらう。


「ほんと、ごめん!!!」


「シダー先生の薬なかったら、私一生ネガティブ娘だったんだぞ!この世の終わりみたいな気分だったぞ!」


「まじすみません。今日はさきちゃんの好物いっぱい作るから」


「からあげは?」


「ささみは使わない」


「プリンは?」


「味変ありバケツプリン」


「ふ、わかってるじゃないか、相棒。じゃあ買い出しよろしくね」


「お任せあれ。さきちゃんも部活がんばってね」


「まかせなさーい。全国大会を目指して私は今日も突っ走るのだ」


 言うが早いが、さきちゃんはあっという間に体育館へ走っていった。かっこいい後ろ姿を見送り、メモに目を通す。野菜と飲み物と、後は洗剤だった。


日替わりで料理当番を私たちはしている。片方が買い出しをして、もう片方が料理を担当する。わたしの料理の腕は壊滅的だったが、今ではさきちゃんが苦虫をかみしめたような顔をする程度に収まっている。はじめのころは医療魔法を何度つかうことになったことやら、だいぶ上達したのだよ。本当に。



 さきちゃんの料理はとても美味しくて、寮で暮らし始めて体重が2キロ太った。こういう時に胸に行けば良いものを、おなかに回っていくのが腹立たしい。


「よし!走って商店街に行くぞ」

 商店街は寮と学校の間にあるので、とても重宝している。


 破魔町の商店街は、昨今の情勢と異なりかなり賑わっている。立地があまり良くないせいか大型のスーパーなどはなく、昔ながらの商店街が未だ活気に溢れている。少々建物古びているが、店主たちの目利きは確かである。大体の生活用品は揃うため私もよく活用している。


「よう、ほのかちゃん買い物かい?サービスしとくぜ」


「え〜いいんですか!?」


 恰幅の良い肉屋の店主が豪快に笑いながら言った。エヘヘ、ラッキー。声が若干ぶりっこする。


「おまけにこのラックさんの似顔絵焼印付きのコロッケをおまけするぜ?」


 コロッケの上には、キザな表情の占い師の顔が焼かれていた。


「あ、ありがとうございます」


 なんというか複雑な気持ちになったが、コロッケをありがたく頂戴する。まぁコロッケに恨みは無いわけだし。


「占い師様様よ。このコロッケを発売した途端女子学生にバカ売れでな」


「タピオカドリンクラック様チョコレート付きだよ」「幸運ブレスレットラックモデル入荷」「ラック様クラッカー発売中」


 至るところに占い師の顔顔顔顔!なんだか落ち着かない気分になってしまう。同じく帰り道の女子学生たちはキャーキャー言いながらそういった商品を買っていく。女子学生だけではない主婦やおばあちゃんまでラックとなのつく商品を買っていくのだった。

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