第3話 マイフレンドあんどマイタウン!英語力が残念ッキュ!
「いつまで寝とるんじゃい!」
スパーンッ
という小気味いい音で目が覚めた。
私はおでこの痛みにのたうちまわる。
「でこが割れる〜!」
「さっさと顔を洗ってくる!」
学校の制服をきっちり着たさきちゃんが腕を組んで仁王立ちで立っていた。右手には緑色のスリッパを持っていた。さきちゃんは私と同じ魔法少女。破魔町唯一の神社の娘で、学校に行くついでに、うちの寮に寄ってくれているのだ。
「おっはよぉ…」
「はいはい、早く朝ごはん朝ごはん!」
「いただきます…むにゃ…」
寮の共有スペースで、さきが作ってくれた目玉焼きや、サラダなどをもしゃもしゃと食べる。
ヒリヒリとするおでこをさすりながら洗面所に向かう。顔を洗って、歯磨きをして、髪を結んでポニーテールにする。毎日のルーティンだ。少し鏡の中の自分に微笑んでみる。
自信のなさげな地味な女の子がこっちを見つめていた。両手で頬を挟んでパンパンと叩く。よしっ
ふと、テレビから軽快なメロディが流れ出す。
『おはあさ!らっきーらっくぅちゃんねぇる!』
「お、ラッキー!今日はラック様じゃん」
「?だれそれ」
「はぁ?ラック様を知らないの!」
テレビの中で銀髪の男がウインクしている。
『今日のスーパーラッキーガールは・・・乙女座の君だ!ズッキュ〜ン』
ナニコイツアタマワイテルノ?
「はぁぁん」
で、さきちゃんはばかなのかな?胸を押さえ、天井を仰ぎ見るさきちゃんは幸せそうだった。たしかにイケメン?なんだろうけど…。てか、さきちゃんは、恋愛とか興味ないって言ってなかったっけ。ふとテレビの中の男と目があったような気がした。
「・・・ほのか!ほのかっ!」
分かるぞ〜分かる!っというふうにうなずきながら。
「ラック様に見惚れてたんだね!」
「ち、違うよ。私、占いなんて興味ないし」
「照れんなって」
「やめてよもう」
もう一度テレビを見る。つぎつぎと星座の運勢が発表されて、あの男は映っていなかった。
ジリリリリ、スマホがけたたましい音を鳴らし告げる。
「遅刻予備軍!遅刻予備軍!」
「「やばいやばいやばいやばい!」」
さきちゃんと一緒に優雅に朝ごはんと洒落込んで・・・いる場合ではなかった!寝ているミッキュを鷲掴みにし、カバンに詰め、大急ぎで、寮から学校へむかう。
「ほのか!こっちの道の方が近道!」
さきちゃんが裏路地を指差す。私は通ったことない道だ。なんか嫌な予感がする。
「大丈夫!大丈夫!自主練で、この辺りの道は全て把握してるから!」
薄暗い道を駆け抜ける。ダクトから流れるいろいろな匂いが鼻をつく。室外機が、ゴミ箱が、水晶玉、猫が、空き缶が、景色が流れてい、く?
一瞬人気のないはずの裏路地に人影を見た気がした。
「占い・・・師?」
山高帽子をかぶった赤毛の占い師が一瞬見えた気がした。
駆け抜けたあと、急いで振り返ったけど、そこには何もない。
「ほら、ほのか!」
そうだ!学校!学校!
登校するため、スカートで爆走してるうちにちょっと私の住んでいる破魔町について、ざっくりと紹介。日本の山間部にひっそりと町が現れる。周りを山に囲まれており、盆地となっている町だ。
その造りはシンプルで、東西南北を斜めに分断する形でズドンと二本のメインストリートがある。上空から見るとちょうどばってんになる形だ。
このメインストリートに面して、お店が立ち並ぶ。生活に必要なものはほぼ全て、ここで手に入るのだ。メインストーリートが重なり合う中心に大きな御神木が空高くそびえていて、街のシンボルになっている。また、区切られた場所をそれぞれ北区南区西区東区と呼んでいて、私たちの寮があるのはちょうど東区にあたる。
この破魔町には、普通の町と違う点が一つある。
それは…。
「ほのか!もうすぐ北区に入るよ!」
「よっしゃあ!さきちゃんよろしく!」
「駆けよ!駆けよ!風になりて!
さきちゃんが北区に足を踏み入れた瞬間に、胸の内ポケットから杖をとりだして叫ぶ。
前を走っていた彼女は空高く跳ね上がって、屋根の上に着地する。
「よぉし!私も!見よ!覚えよ!模倣せよ!
空高く跳ね上がる。風を切る音が耳に響き、髪がふわりと浮かぶ。すっっっごく気持ちいい!
そうここは、日本で唯一魔法が使える町なのだ!
今は実験段階であり、トラブルを避けるために、魔法国関係者は北区と東区、一般人は南区と西区と棲み分けがなされていて、魔法の使用も場所や時間が制限されている。
くるりと体を回転させる。御神木の近くには、役所や病院などのどちらの人にも大切な施設が集まって居るし、それぞれの区域には、魔法国出身者ならではのバザールや、電化製品の店など見るものに困らない!それが私の住む町!破魔町なのだ!
しばらく屋根から屋根へ、ホップ、ステップ、ジャンプを繰り返していたら、何やら謎の飛行物体が近づいてくる。
「ほーのーかーサーン!」
ぐっふぅ!正面から猪のように突進してきた物体に鳩尾を持ってかれる。
「やー!生ほのかサンだー!ぐへへへ!じゅるり」
その人物はあろうことか、片腕でがっしり私の体をホールドしたかと思うと、もう片方の手でわきわきと手を動かし、全身を撫でまわしてきた。
「ちょ、やめ、ん!はぁん!」
だんだんとエスカレートしていく。脇腹だけでなく、腰や、それか
「ここか?ここがエエノんか?」
「やめんかっ!」
顔を真っ赤にしたさきちゃんが、チョップで変態を叩き落とす。
ガニ股の体勢で地面に叩き落とされた彼女は、すぐさま立ち上がる。私たちも地面に降りたつ。
「ご機嫌よう。マーダ、イギリス時代のハグのクセが抜けナクテ」
と、穏やかに微笑んできた。額で分けて、ウェーブがかった髪が美しい。とても先程まで、よだれを巻き散らかしていた変態とは思えない、優雅な動きで服を整える。
「カレン!!イギリス人はそんなことしないっての!いつか捕まるぞ。で、それは何キャラなんだよ。こないだはフランス人で昨日はアメリカ人。お前はいったい何人なんだよ」
ジト目でさきちゃんが責める。全くだ。
「いやぁさ、高貴に行けば許されるかなーって、ご機嫌YO!ほーのかサーンっ」
いまいち国籍はわからないけど、恐らく海外にいたのだろう、この変態も私の友達だ。金髪は太陽の光で、煌めき、お人形のような可愛らしい顔立ちをしている。DJの動作をしなければだけど。
こんな感じで私の友達と私の町のざっくりとした説明はおしまい!さてと勉強頑張るぞ!
「おいお前たち、遅刻だぞ」
バイクで横を通り過ぎた男の先生が無情にもそう告げたのだった。
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