第2話 エピローグと見せかけたプロローグッキュ!

 常世から離れし魂よ

 巡り巡りて輪廻の果てに

 我が使役に応えたもう

 畏み畏み申されん


 幾重に放たれし魂よ

 我が問いかけに応えたもう

 赤毛の乙女の魂よ

 忘却せし悲しき運命を思い出さん。


 森に栄えし魂よ

 死してめぐりて盛者の果てに

 迷える娘を

 導かん


 海に眠りし龍神よ

 古の夢果たさんがために

 犠牲にせしは現世の従者


 空に封じし大魔法

 鍵を失い彷徨える

 雲を纏いて

 目覚め待つ


 魔法を使いし乙女たち

 覇道を極めし魔女を討たん

 挑みて散った数千年

 討ち滅ぼせたものはなし




 魔法少女。それは女の子なら、一度は憧れたであろう夢。ぶっ飛んだ語尾の相棒の謎の生物と一緒に世界の危機に立ち向かう。絶対プライベートでは着れないようなフリフリのドレスを身に付けて、星やらハートがついたステッキを振り回す。魔法を使うみんなの味方の愛の戦士。でも、その秘密は絶対にバレてはいけない。

 何を隠そうこの私、宮内ほのかも魔法少女の1人。転校してきたこの町で仲間と一緒に世界の平和を守ってきたのだ。


 中学1年生の春、謎のモンスターに襲われて、魔法少女に助けられたの。そしたら、変な語尾のぬいぐるみみたいな妖精から声をかけられて、魔法少女になっちゃった。


 それから中学生と魔法少女の二重生活!仲間との出会いと別れ、厳しい修行に、強敵との死闘・・・。世界征服を企む悪の組織や超危険な魔法を使う古代魔法少女を退けて、世界を救ってなんとか中学二年生に。憧れの先輩の天照あまてらす天馬てんまさんは今年で卒業。私の恋はどうなっちゃうの〜?


「素晴らしいまとめッキュね。ほのか」


寮の自室にて、ベッドに寝っ転がって天井を見る。ほんとに色々あったなぁ。相棒の方を見る。この煎餅かじりながらスマホをいじってる緑色のぬいぐるみが、ミッキュ。


 私を魔法少女にした張本人。くまなのかたぬきなんなのかいまいちつかみどころがない、この緑色のぬいぐるみの姿は仮の姿。


 本当は森の主で、厳格で高潔、魔法の番人たるスーパーイケメンらしい・・・んだけど、人間界では魔力が足りず、省エネモードでこの姿らしい。


 そんな説明を聞いていたんだけど、私は本当かどうか怪しんでいる。

 今やバーチャルアイドル ニッキュとして、動画投稿サイトを運営している売れっ子である。

 今も編集作業に勤しんでいる。そこで稼いだお金はどこにため込んでいるのやら・・・。


「ほのかも魔女っ子ほのちゃんとして、動画投稿してみたらどうッキュか? ほら、『灼熱魔法でマシュマロ焼いてみた』とか『凍結魔法で、かき氷作ってみた』とかいいッキュね。再生回数伸びるっキュよ」


 厳格な森の主はどこへやら、世俗にまみれすぎである。


 はじめの頃は


『魔法少女は、一に鍛錬、二に鍛錬、三四は筋トレ、五は、スパーリング!はぁ?恋がしたい? 色恋に浮かれてる暇はないっキュよ!!魔法少女は質素たれ!高潔たれ!っキュ!!』


 なーんて、言ってたのに・・・。世界の危機が去ったと思ったらこのありさま。


「あっ、このやろ、チャンネル登録数抜かしやがった。脱げっ!ほのか変身シーンを撮るっキュよ!ちょっと色気が足りないまな板だけど、これで登録数と広告収入いただきッキュ」


 もはやゲスである。どこいったのよ高潔とか質素とか。ん?ちょっと気になるワードが聞こえてきたんですけど。


「ていうか、そもそも正体知られたらダメなんでしょ?魔法少女って。さんざんトイレやら、物陰やらで変身させられたんだけど!!」


「あ、そのことなら心配ないッキュ」


 ごほんと咳払いして私に耳打ちをする。


「バレなきゃいいんキュよ」


 1度女王様に処されたらいいと思う。


「でも、なんか拍子抜けだな」


「何がだっきゅ?」


 ミッキュの食べている煎餅を奪い取ってかじる。


「じょ・お・う・さ・ま!!あんな言い方しなくても…」




 最終決戦のすぐ後、私たちは魔法国に召喚され、女王様に謁見した。何度か魔法国には行ったことはあるけども、女王の間に行ったのははじめてだった。広い空間に玉座が一つ。豪華絢爛な女王の間に、1人佇む女王は、欠伸をしながら、ほのか達を出迎えた。


「ん?ああ、ご苦労であった我が魔法少女たちよ」


「はいっ!」


「町を魔の手から救ったそうじゃな」


てっきり褒めてもらえるのか、何だったらご褒美でも貰えるのかと思っていたのだが、女王から出た言葉は予想外のものだった。


「杖の長さは?」


「…は?」


「杖の長さは?と申しておるのじゃ」


「えっと20cmほどで…」


「さがれ」


「はい?」


「さがれと言った。せいぜい励め」


「いや、私たちは町を救って」


「町を?あぁ、そうか。褒めてほしいのか。よちよち、よく頑張ったな。満足か。小娘たちよ。町を救ったと申しておったが、貴様らは魔法も魔力も貧相。そこの馬尻女など、胸も貧相ではないか」


扇をたたんで私のほうを指す。そして、勝ち誇ったようにゆさゆさと自分の胸部を揺らして見せた。


「んだと、こら。てめぇのメロンもぎ取って収穫してやろうか!」


「ちょ、ほのか!相手は女王よ!」


「ふん、たかだか町を1度守ったくらいで。わらわは、もう寝る。さがれ」


 女王がその身の丈はある白い杖を振るうと、ほのか達は破魔市の神社にいたのだった。


 今思い出しても腹が立つ。あの言い草。悪の組織を倒すまでの1年間どんだけ大変だったか

「女王様は忙しいんだっきゅ」


「忙しい?どこが?」


「魔法国を1000年以上治めている女王だっきゅ。偉大ッキュ!」


「偉大ねぃー?」


 スマホのアラームが盛大に鳴り響く。ってやば。もう消灯時間か。


「ミッキュ。寝るよ」


「おやすみっきゅ」


納得いかないことはあったけど、とりあえず、ひさしぶりにぐっすりと眠ることができた。

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