第27話パンチラから始まる魔法生活③

 はぁ、はぁ、は、ん、あん、はぁ、はぁ


 乙女の荒い息遣いが聞こえる。


 汗ばんだ体をぬぐって、天を見上げる


 小さく息を吐き出してから、たっぷりと空気を吸い込む。


 薄い胸がつんと空に向かう。


「こ・ろ・す・気・かああああああ!」


 腹の中の空気で私史上最大の声をだす。

 怖かった怖かったマジで走馬灯ってあるんだな。


「ん?魔法少女には目覚めなかったか。しっしっし」


「なんで私は、街のど真ん中でパンツ丸出しで墜落しなくちゃいけないのよ!」


「あー、あー、うるせぇうるせぇ。さっさと変身すばよかったんだよ、なんでしないんだ?」


「できるか!」


 まだ身体に浮遊感が残っている。首も痛いし。


「・・・さくらちゃんはどこ?あの子に教えてもらう。あんたじゃ。わたしの命が何個あってもたんないから。」


「あんだ呼ばわりしてんじゃねぇよ。こちとら先輩だぞ」


「かおり、ほのかちゃん、大丈夫?」


「大丈夫なわけあるか!さくらちゃんたすけて」


 私の涙と鼻水だらけの必死な表情を見て、少し気の毒そうな顔になった。


「手っ取り早い方法があるにはあるんだけど…」


「早く言えよさくら。ノリと勢いの我流でやっちまったじゃねぇか」


 なんかとんでもない言葉が聞こえてきたんだけど。この際どうだっていい。安全な方法があるならそれが1番。


「それをやってよさくらちゃん。」


「本当にいいのね?」


 念押しが過ぎるぞ。さくらちゃん。もったいぶってないで早くやって、じゃないとあの怖い先輩が「今度は宇宙空間から落としてみるか」とか、とんでもないことをつぶやき始めたから。


 さくらちゃんはぽんと私の頭に手を置いた。彼女の小さくあったかい手が心地よい。


「じゃぁ123で私の魔力をほのかちゃんに流すから」


 彼女は神経を集中させているようだった。目をつむり何か見えない力が手のひらに集まっているようだ。


「1.2.3!!」


 私の服が爆散した。


「・・・え?」

「・・・あれ?」


 目の前に広がるのはバラバラになった布切れ。吹き付けるまだ肌寒い春の風。ゆっくりと自分の身体を見下ろす。


「いやああああああああああ」


 私の服が爆散した。私の服が爆散した!私の服が爆散した!?

 スカートに続きブラウスまでがお亡くなりに。


「あーはっはっはっはっは!ふ、服が!服が!ひー」

「ごめんなさい!ごめんなさい!ほのかちゃんの器を見誤って、魔力が溢れてしまったみたい」


 え?暗に私の器が小さいって言ってるの?いやいや、それよりもこんなにも早く皆様に私のセクシーシーンをお届けすることになるなんて想定外だよ!水着回やら、せめて温泉回やらで見せたかったよ!


「見せるほどのプロポーションじゃないッキュ」


 幻覚か幻聴か、傍にあった、緑色のぬいぐるみから少年のような声がした気がした。なんでこんなところにぬいぐるみが?とか思ったけど、一度呼吸を整え、50cmほどのそのぬいぐるみを鷲掴みにし、今日一日に起こった様々な不条理のストレスを一気にぶつけた。


「だぁれが幼児体型ちんちくりんじゃあ!!」

「そこまで言ってなギュッ!!」


 地面にぬいぐるみを叩きつける。轟音とともに吹き上がる土埃。ひび割れるアスファルト。あり?私ってこんなに力あったっけ。右手がわずかに光ってるような?


「ちょっ!ほのか下がれ!」


「・・・小娘が調子に乗るなっきゅ!いや」


 声色が変わり、尊大な声で私に告げる。


「・・・人間の小娘があまりなめた真似をするんじゃないぞ」


 存在感にびびっていた私だったが、その一言にプチっときた。


「乙女のデリケートな悩みを指摘しやがって!なーにが舐めた真似をするなだと!」

「ぬ…」

「そっちこそなめんなよこのやろー!!」

「いや…」

「女の子がかわいさのために頑張ってんのはテメェに見せるためじゃないんだよ!!」


 魔法生物は目をパチクリさせながら、みるみる小さくなっていき、最終的に正座させられていた。


「…はい、すみませんだっきゅ。すみませんでした」

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