第28話パンチラから始まる魔法生活④
わたしのパートナーがこんなセクハラゲス野郎だと言うのならこっちから願い下げだ。
「チェンジで」
かおり先輩のほうを向いて言い放つ。魔法少女のパートナーってのはもっと役に立ってもっとかわいらしいものだ。
こんなおっさん丸出しのぬいぐるみなんてぜったいヤダ。
「おいおいおい。一応ミッキュって魔法生物マジカルのなかでは5本の指に入るほどの人物なんだがな」
え?こいつがぁ?
ぐにぐにと正座するぬいぐるみを踏みつける感覚を楽しみつつ、さらにかかとに力を入れる。
「きゅきゅきゅぎゅううううう。」
足元から雑音がするけどきっと気のせいだよね。
自分の右手を見る。白く輝いている。うえぇぇ気持ち悪い。元の戻し方がわからない。
「う~ん。こんな中途半端な変身のしかたなんてないよな。なにか気がかりなことがあるのか」
「いや、やっぱり思い切りが足りないのかな?」
いや、疑問点しかない。気がかりなことだらけだろう。思い切りとか気合の問題ではない。
てか
「服をきせてくれーーーーーー!」
「しっしっし、悪かったな、ほれ」
黒いゴム製の生地に穴が5つあった。うん。これは
「スク水じゃねぇか!!!」
びたーんと地面にたたきつける。
「ありがとうございますっきゅう!!ごほうびっきゅう!!」
珍獣が悶えていた。
「なんで!!スク水なのよ!!」
「ごめんねほのかちゃん私たちはものをつくる魔法ってもってないの」
えっ?なんで魔法少女じゃないの?
「かおりちゃんができることは攻撃魔法とそのほかの簡単な生活魔法だけなんだ」
「いや、さくらちゃんがすればいいじゃん」
「わたしはいま処分保留中だから極力魔法を見せないほうがいいの。」
は?
「ほのかちゃんに正体がばれてしまったから。このままだと私魔法国マジランドから処分させられちゃうんだ。」
「いいか。ほのかお前が魔法少女すなわち魔法に関わる人間にならなければさくらはこのままだと処分されちまう。リミットは日暮れまで。お前には悪いけどさくらを失うわけにはいかないんだ。本気で魔法少女になれ」
日暮れまでっていったらもうそんなに時間がないじゃない!
日暮れまでのタイムリミットまでに変身しろなんて、どうすればいいのだろう。
「くちゅん」
とりあえず、かおり先輩の家に行くことになった。
流石に公共の場でスク水状態で右手を光らせた状態のままってわけにはいかない。
「せめて もうちょっと恥ずかしくないのはないの?」
「うるせぇやつだな」
「僕がそのスク水を変換してあげるっきゅ!変換カスタム!」
「って!やっぱり布面積!!」
赤い水着にはなったけど!さらに肌色部分が増えてしまった。
「ふぅ・・・ふっ」
この緑の妖精は下から上まで舐めるように眺めた後、私の胸部を観てアンニュイなため息をついた。
「おっしゃらぁ!この変態緑玉。ねじり切ってやる!!」
「お、落ち着いてほのかちゃん!」
必死に私を抑えるさくらちゃんだったが、私の気は治らない。
「はん!さっきはやられたけど。僕は偉いっきゅ!魔女でも、魔法使いでも、ましてや魔法少女でもないただの小娘にやられるわけないっきゅ!」
ミッキュ というマリモを蹴飛ばそうと近寄ったが、くるりと避けられた。そしてこのゲスはにんまり笑ってこちらに言い放った。
「揺れもしない谷間の持ち主が!走っても嬉しくないっきゅよ!キューキュッキュッ!」
ぶちっ
あいつを
ぶん殴りたい
高らかに笑い飛ばす緑の妖精はぴょんぴょんくるくると跳ねまくる。くそ、捕まらない。どんどん距離が離れていく。
「キューキュッキュッ!悔しければ捕まえてみるっきゅ!貧乳ほのか!」
「おい!お前ら遊んでる暇な、」
もし、私に魔力があるのなら、あのクソ妖精をぶん殴る力をください!
「らあああああああ」
右手を起点として、光が全身を包み込む。
全身の布が光の糸に変わり、全身を優しくなでる。
変身バンクなんて可愛さアピールの絶好の機会だが、私の頭にはそんな余裕はない。
ミッキュ ナグル
遠くの点になっていたミッキュ が唐突に自分の目の前に現れた。
「キュ?!?!」
「歯ぁ食いしばれ!」
いつのまにか手に持っていた杖を持ち変え、豪快に振りかぶる。そこから全身をひねりながら、あらん限りの力で憎っくき毛玉を打つ。一瞬、目が合う。
「つ、杖は魔法を使うためにあ、あるっキュ」
己の運命を悟ったのか、うるうるとした目を向けてきた。
「知るか☆」
カキーン
小気味いい音を立てて、妖精は星になった。
魔法少女の動機として、恐らく史上最もくだらない理由で私は魔法少女となってしまった。
「はぁ・・・」
どこかうっとりとした、憑き物が落ちたかのような、恍惚とした様子でため息を漏らす。
町のど真ん中で、スッキリとした晴れやかな表情を一人の少女が浮かべている。
お風呂上がりのようなさっぱりとした気持ちで、一糸まとわぬ姿で、
「ふぇ?」
「あ、ほのかちゃん。私たち魔法少女は魔法生物マジカルが近くにいないと変身できないから」
ちょ、どういうこと。
「さてと、結界を解くか」
杖を取り出して、勢いよく振ろうとした先輩魔法少女を全身を使って阻止をする。
「やめろぉ!」
引っ越し初日に全裸の痴女として、認知されるわけにはいかない。あと三年はこの町にいるのに。
先輩魔法少女は意地悪くサディスティックに笑みを浮かべる。
「しっしっし。・・・頼み方がぁ、あるだろ?」
こいつは!キメ顔でとんでもないことを言い出す。
地面を指差している。
「全裸!?土下座!?だと!」
「そこまでさせるつもりはねぇよ!」
ドン引きしてやがる。地面を指差したら、普通は土下座じゃね?
「全裸!?指舐めかっ!!」
全く私としたことが、うっかりしてたぜ。
「いやいやいや!・・・さくら!お前の後輩っ変態だ!」
「全く、ほのかちゃんは、ドジっ子なんだから」
「しっしっし、そうだ!言ってやれさくら!」
「全裸で土下座しながら、足の指を舐めなさい!」
「お前もかっ!!普通に頼めよ!」
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とか、あったなぁ。もう1年近くたつのか。
虚ろな目でバザールを歩く2人の背中を見る。そのあとさきちゃんやカレンちゃんが仲間になって、5人で町の平和を守ったんだよな。でも、私ってこの街に来る前って何してたっけ?あれ?
「…のか?ほのか?」
「ふぇ?」
「どったのバカ面晒して」
ひどくない?さきちゃん?
「シッシッシ!なかなかすげえ姉ちゃんじゃないか!なんだこのビッグボインにくびれの両立!すっげぇな!」
「ガッハッハッ!そう褒めんなっての!お前もピチピチの肌に健康的な日焼け!いいね好きだぜ!ガッハッハッ!」
出会って数分で意気投合する2人を追いかけていると
「そうだ!かおり先輩!」
「ん!なんだ、さき?」
2人が振り返る。
「私の師匠になってくれ…」
「断る」
「へ?」
「いや、だってアタシは受験生だぞ。受験勉強と魔法少女の両立は無理だ」
「か、かおり先輩勉強するんすね」
「どういう意味だよ。ほのか!」
いやだって。ねぇ?
「てっきり、先輩、マグロ漁か、流れの魔法少女でもやってみるのかと」
「ばーか!私ってばかんがえてるんだぞ!高校行って大学いって、彼氏作って社長捕まえて玉の輿だ!しっしっし!だから、勉強するんだ!」
元私たち魔法少女隊のリーダーだったかおりちゃんはこんなに頭が弱かっただろうか。屈託ない笑顔。いや、いい顔してやがる。
「そこをなんとか!」
「たのんます!先輩!」
「お前ら2人の、まぁ修行とかのサポートくらいはしてやってもいいんだが、」
「え?」
「まじっすか!!」
ここで反応が分かれたのはかおりちゃんの特訓の経験があるかどうかだ。今のさきちゃんのリスペクトはあっという間に消え去るだろう。地獄の特訓メニューがある。今2人って言ったよね。それは勘弁してほしい。やめて、キラキラした目でこんなチャンスないわって目で見ないで!私さきちゃんのこの瞳が曇るのを見たくないの!
「修行?ガッハッハッ!最近の若い子は修行なんかするのか」
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