第29話 杖職人

「ガッハッハッ!修行もいいが、まずは杖が無ければ話にならないだろ。早く行くぞ。あたしおすすめの杖職人がいるんだ」


「ん、なんだお前ら杖職人の所に行くのか奇遇だな。しっしっし」


「杖職人?」


「そうは言っても先輩。破魔町に杖職人なんかいますか?」


「ん?お前たち今までどうやってたんだ?」


「ミッキュ からもいだ」

「姉ちゃんのお古」


かおりちゃんの笑顔が固まった。


「おい、ミッキュ 、ちょっと来い」

「なにッキュ?」


かおりちゃんがぽんとミッキュ の頭に手を置いて優しく言った。


「お前も、大変、だったな」


「か、かおり」


うるうるの瞳をして、ミッキュ がかおりを見上げる。なんか私たちが酷い扱いしてるみたいで、なんか納得いかない。


「だがこれとそれじゃ話が違うんじゃあ!!!」

「ミィッ!!!」


かおりの手がミッキュ をそのまま押しつぶす。

無残にもミッキュ は地面にめり込んだ。


「しっしっし!魔法少女の杖がお古だったり、どこの馬の骨とも分からない木の枝で務まるか!」


ひ、ひどいっきゅ。もごもごと


「ガッハッハッ!魔法少女の杖はまさに分身!化身!あたしは独身ガッハッハッ!」


「ついてこいお前ら!」

力強く言って北区のバザールを歩いていった先は小さな一軒家だった。表札に杖職人齋藤と小さくあった。

「ん?この店は…」

かおりちゃんが入ろうとすると

「出禁!出禁!出禁!出禁!出禁!」

けたたましい警報が鳴り響いた。この人昔なにしたんだ?

「ガッハッハッ!かおり嫌われてるな!」

「通報!通報!通報!通報!通報」

あんたもかい!


「おらぁ!邪魔するぞ」

「齋藤!通報ってどういうことだ!」


ドアを蹴破った。女子中学生がすることではない。

「ひぃいい!」


店内は暗く年季が入っていた。悪くいえばホコリっぽい。雪崩を起こさんばかりな量の杖が両脇に積んであった。中央は作業場なのだろうか、少年が1人目をぱちくりさせていた

。彼の前には、かんなやノコギリといった見慣れたものから、見たことも無いような道具が、整理整頓して置かれていた。男の子が一人。よく見るとローブをつけているがうちの制服を着ていた。前髪が長くあまり表情はうかがえない。

「ん?齋藤?に、しちゃあ小さいな?ガッハッハッ」


「おら、齋藤どこだ!ガッハッハッ!」

さちよさんはづかづかと店の中に入っていった。

「ちょ、お客さん!って、かおり?!」

かおりちゃんはつかつかと歩いていき、立ち上がりたじろぐ彼を壁際まで押しやった。そして壁に手をつく。


「な、な、な、なんで?」

「はぁ?」


さらにぐいっと近づく。

「近っ近い、あ、当たって」

「あててんだよ」


かっけぇっす、かおりさん、てか、羨ましいな!あの男!


「きゃー斉藤のエッチー」


棒読みだった。


「いや、かおりが」

「私、襲われちゃうー」


「いや、それはない」

「あ?」


「ひぃぃ!」

あ、胸ぐら掴まれてる。彼が助けを求めるようにこちらを見てくる。ごめんね。私逆らえないんだ


「杖をよこせ!セクハラの慰謝料だ」


「いや、でも、かおりが勝手に、それに、君には、僕が作った杖あげてるじゃないか」


「私じゃねぇよ。こいつらのだよ」


「ん?あぁ、いいよ。」


「んじゃあ、儲けたな!お前らしっしっし!」


かおりちゃんはドアがなくなった店の扉を出て行く。あ、そうだ!かおりちゃんに修行のことを断っとかないと…。


「さきちゃん、ミッキュ 、かおりちゃんに詳しい集合場所聞いてくる」


扉を出て数メートル先にかおりちゃんがいた。

「おーいかおりちゃ・・・ん?」


「恥ずい恥ずい恥ずい恥ずいアーッ!あ、」


耳まで真っ赤にしたかおりちゃんがそこにいた。


「…へ〜ほ〜…ふ〜ん、かおりちゃんはああいうおとなしい人がタイプなんだぁ?へ〜」


ぎくっと体を震わせて、かおりちゃんが真っ赤な顔で振り返った。いやぁ普段豪快な人がしおらしいとなんかいいよね!

「み、見てたのか?」

「え〜なんのこと〜?」


ミシッと空気が揺れる。ん、やばくね。


「・・・てやる」

「へ?」


「記憶を消してやる!!」

次々と氷の刃が飛んでくる。死ぬって、ちょ、まって。ぎゃあああああ。


「ん?かおり先輩忘れ物か?なんでほのかはぼろぼろなんだ」

首根っこを掴まえられて、引きづられていた。からかいすぎたな。

「えっと」


無言の圧力がかかる。

「こ、転んじゃって」


杖職人さんが心配して


「泥だらけじゃないか。風呂場使っていいから。ほのかちゃんだっけ、洗っておいで。杖を置いておくから、それで服を洗って干していいから」


「な、風呂?!」


何やら葛藤していたが、何かを決意したようだった。

バタンと音がして、かおりちゃんが外に出ていった。数秒後、

「・・・私も入る」


泥だらけのかおりちゃんが入ってきた。

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