第8話 男には興味ないっきゅ!ラック様の握手会!

赤髪の少女が先輩の魔法少女?私には先輩が二人いる。かおりちゃんとさくらちゃんだ。ほのかは現在中学2年生。彼女たちは中学3年生だ。私の頼れる先輩がたのほかにも魔法少女がいるなんて。でもこんなことって。二人は魔法の使い方、戦い方、魔法世界の常識、いろいろなことを教えてくれた。でも、さちよなんて魔法少女がいるなんて聞いたことがない。


「さぁ、どうする、ほのか?」


水晶玉を中心に魔力が渦巻くのを感じる。悪の組織を壊滅させて、やっとこさ手に入れた平和な日常が、こんなわけわからない女の子に壊されてたまるか。でも、ほのかは知っている。魔法の戦いにおいて、容姿なんて意味がないことを。100歳を超える大魔術師に、少年が魔法で勝った場面もみたことがある。この少女は杖もなしにこれだけの魔力を放っている。まだ臨戦態勢になったばかりだといえ、すでに木々は軋み、地面がゆれはじめていた。ぜったいこの人かなりの使い手に違いない。無言のぬいぐるみがこちらに訴えかけてくる気がした。助けて…と。


ほのかは思案した。魔法少女として大事なことを。宮内ほのかとして、大事にしないといけないことを。さまざまなものを天秤にかけて、よし、と自分自身に言い聞かせる。私は命を大切にする魔法少女だ!


「ごめん!ミッキュ!あんたの事は忘れないから!」


全力で山を駆けおりる。くっ、尊い犠牲だったぜ!ヤバいやつとは戦わない。わが身はかわいく!その他は捨て置く。


「ちょ、おい!」


さらば、ミッキュ!君と過ごした1年は忘れない!涙を堪えて、わたしは新しい相棒と幸せに過ごすからね!ばいばーい!


1人と1匹、山の中に取り残されたさちよは呆気にとられた顔で足元のミッキュに話しかける。


「あたしもたいがいだったが、今の相棒も凄いな」


水晶玉をローブにしまい、足をどける。

それまで動かなかったぬいぐるみが動き出す。


「彼女と契約したのは、なりゆきだったっきゅ。だけど、なかよくやってきたと思ってたのは僕だけだったみたいっきゅ。…どうっきゅか。これがほのかだっきゅ。彼女は正義の味方ではないっきゅ。仲間のために熱くなれる正統派魔法少女は死んだっきゅ」


妖精の頬に涙が光る。


「…涙ふけよ。ほら」


「ありがとうっきゅ。さちよと契約していたときもマグマに落とされたり、魔獣に食われたり、密林に置いてけぼりにされたり、いろいろとあったッキュけど。薄情者ではなかったっきゅ。でも、腹が立つから一矢報いるっきゅ」


妖精は静かに息を吸い込み、一息に言い放った。


「ほのかぁ!ほのかの鞄の中に隠していたプリン食べたの僕だっきゅ!!ごめんっきゅ!!!あと、ほのかがイソフラボンキュッボンっていう、怪しい豊胸薬に手を出そうか悩んでたことをカレンにリークしたっきゅ!!」


自暴自棄な叫びが虚しくこだまする。


「お前もかわらねぇな。ガッハッハッ。しっかし、久しぶりに良い原石に会えたとおもったのに残念だ。記憶メモリーの使い手なんて、なり手が少ないのに。仲間を見捨てるようなクズだなんて」


「…まだ、早いっきゅ」


「早い?何が?ッ!!」


さちよの顔が影で暗くなり、事態に気付いて、青くなる。


「ほのかの頭のいかれっぷりを決めるのがだっきゅ!」


「ミィッッッキュあああああぁぁぁ!!ぶっ殺すあああああぁぁぁ」


破魔町から、恐ろしい怒声とともに巨大な岩盤が飛んできたのだった。


「うっそぉおおお!!!」

「…はは。これがほのかっきゅ…」





「なんぞ、これ」


さきが部活帰りにメインストリートにいくと、御神木のある中央広場からの長い列が出来ていたのだ。近づくに連れて、徐々に声が聞こえてくる。癒されるお兄さんボイス。イケメンと声もイケボなんだね?

先に握手が終わった人の黄色い声も聞こえる。どんな風にお話をしてくれるのだろうか期待に胸がおどる。



「ちょっとそこの子猫ちゃん。頭につけたかりんとう、さっき落としていったようだね。ほーら、こっちおいで、僕が変わりにきゅうりをさしてあげるからね、ちゅ♡」


「君の笑顔にバナーナインパクト!ずっと応援してくれよな!」


「べ!別に君のために大根を脇に挟んでいる訳じゃないんだからね!」


握手される人々一人一人に囁くのだった。


「んん?イケメンか?これ?」

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