第10話 ぼいんな外国人かれんちだっきゅ!

町の人々が次々に握手会にいっているころ、町のはずれの大豪邸の白鳥カレンの家でも同じようなやり取りがされていた。


白鳥財閥の娘。町の経済をぶん回している白鳥財閥は、出店場所を破魔町に絞るという作戦をしたことで売り上げを伸ばした企業だ。「つまようじから宇宙船まで」というコンセプトでありとあらゆるものを作っている。そのほとんどすべての事業が大当たりしている悪魔のような企業である。一度だけ失敗したのが、てれびのアニメ事業で「魔法中年がんばれ白鳥くん」という企業PRなのか白鳥社長を模したアニメが潤沢なる予算のわりに3話にして打ち切りという凄惨たる結果を残したという伝説がある。以下はそれに寄せられた感想であり「魔法少女よりも中年のおっさんの筋肉の書き込みようがえぐい」「魔法よりもプロテインの種類が豊富過ぎて草」「魔法少女の二人はかわいいが、おっさんの要素が邪魔」とさんざんなたたかれようだった。




「お姉ちゃん!カレンお姉ちゃん!行こーよ行こーよ!」


 普段はあまり甘えてこない妹がこうも激しく自己主張してくる姿にカレンは興奮を抑えきれない様子だった。カレンにとっての行動原理の最たるものは世界の命運でも、友情でもなく、妹、妹、妹なのだ。家族会いにあふれるカレンはたとえ妹に嫌がられようが、お風呂には一緒に入るし、友達と遊びに行こうものならストーキングもお構いなし。男子としゃべろうものなら呪いの雨が降り注ぐ。それくらいの溺愛ぶりである。そのせいもあって妹から若干距離を取られているのはご愛敬である。


「ちょ、ま、色々、あた、って、ちょ、ぶばぁ」


 鼻血を噴いて倒れる姉を白髪の少女は揺さぶる。すごい。カレンは至福のときであった。まさかこれがツンデレ。長く険しいツン期がついに終わりを告げて、来ました春のデレ期!くそう。夢なら覚めてくれるなよ。私の妹がかわいいのは知っていたけど、こんなにもかわいかった?天使じゃね?人外のかわいさじゃね?


「お姉ちゃん!お姉ちゃん!行こーよ行こーよ!」


「ぐへへ…わたしの妹は可愛いなぁグバッ」

ち、血液が足りないぜ。こんなことならセバスに輸血の準備をさせておくべきだった。たしか白鳥財閥のグループが経営する病院があったはず。輸血を繰り返して、鼻血の噴水でカーペットを真っ赤に染めても構わない。どこに行こうか。遊園地かな?

ジェットコースターで抱き着いてもらおうかな。水族館かな?イルカショーで水しぶきを存分に浴びて、透けた服のまま抱きつかれようかな。ぐへ、ぐへへへ。


「ねぇ、いこ!ラック様の握手会ぃ」

 鼻血と共に盛大に吐血し、絶頂の彼方に飛ぼうとしていたカレンは、さっと立ち上がり、妹を見た。だと。


「どうしたの?お姉ちゃん?」


 上目遣いで首を傾げる可愛い妹に拭った鼻血が再度たれおちる。


「ずびびびび」


 ティッシュで鼻をかみ、指をならす。カレンもテレビはチェックしている。確かに美形なのだろう。だが、そんな表面だけの男に妹がメロメロだと。許すまじ。断じて許すまじ。そうだ!消そう!いなかったことにしてやろう。うん。それがいい。


 ドアから老執事が現れる。


「セバス」


「はい、お嬢様」


 恭しくお辞儀する。


「少し出てくるわ。いつはのことを頼んだわね」


「かしこまりました。お嬢様」


「わたしのマイスィートエンジェルシスターに手を出したこと、後悔させたるわ」


屋敷の中自室に戻るとクローゼットの前で杖をふるう。小さな衣装だなは激しく震え、数刻たったのちの止まる。カレンが静かに扉を開くと中には様々な武器が並べられていた。まるでこれから買い物に出かけるためにおしゃれな服を選ぶかのように鼻歌を歌う。鼻歌の合間にガチャガチャという金属がすりあわされるような音が響く。


「たしか、パパの昔使っていたのが…あった!まってなさいラック」

 ふわふわのドレスに釘バットをさげて、カレンは屋敷を後にした。

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