第32話 赤髪の魔女

『赤髪の魔女』が破魔町に現れたニュースは瞬く間に広がった。先日の魔法少女誘拐事件もあり、町は不穏な空気に包まれていた。


 各地域で彼女は様々な案件をかかえていたため、感謝するものもいれば、この形を憎む者もいた。


「あの女のせいで、国がいくつも滅んでいたんだありがとう」

 ある異世界では機嫌を損ねたため、たった一つの魔法で国が滅んだ。


「せっかく5年がかりで予約していた依頼がおじゃんになってしまった。どうしてくれるんだ」

 落し物探しから暗殺業まで、依頼は多岐にわたる。依頼達成率は99パーセント以上に渡る。


「あの笑い声が聞けるなんてねぇ」

 全てを吹き飛ばすような悪魔の笑い声は、ある地域では、名物だった。


「緊急会議を開く。幹部を集めろ。今後の対応は慎重にしなければならない。」

 また抑止力として利用していた組織は今後の対応を余儀なくされる。


「へーあの女が死ぬわけないでしょ?どうせまたひょこっと現れるわよ」

 幾度となくやり合ったライバルを自称する女戦士は信じておらず。


「あいつにかけられた懸賞金は俺のものだったのにどこのどいつだバカヤロー」

 彼女にかけられた懸賞金は莫大であった。


 その興味関心は、1人の魔法少女へ移っていった。


 その当の本人は・・・




「ぐごごごごご・・・Zzz」

 口を半開きにして、腕を枕に爆睡していた。ある晴れた昼下がり。初夏のあたたかな日差しのなか、幸せそうな寝顔である。


「ほ〜の〜かさ〜ん」

 ゆったりと睡眠中の彼女に近づいて

「何を、寝てくれとんねん!私のウルトラロマンティックスタイリッシュ古文で!」


「はいぃ!ニンニクマシマシチャーシュー抜きで!!?はれ???」


 あたりをゆっくりと見まわす。半分寝ぼけ眼でよだれが口からたれる。真ん前に座っていた天馬くんも思わず笑う。恥ずかしい。彼は監視を含めて、この学級に転入してきたが、特に何かをするではなく、かといって誰かと深く関わろうともしてなかった。私と目が合うと彼は慌てて前を向いた。


「み〜や〜う〜ち!あとで職員室に来い!!」


「むにゃ?」


 杖職人の店に行ったのち、さちよさんはまだ帰らない。彼女の杖を渡し損ねてしまった。魔法少女誘拐事件に関しても何も進展がなかった。警察や先生たち、そして、ほのか達も夜にパトロールしていたのに何も起きない。きょうはさきちゃんの神社にカレンちゃんと一緒に集まる予定だ。


 古典の先生にこってり絞られた放課後。


 カレンちゃんと神社に行くと、ちょうど部活帰りのさきちゃんと合流した。

「ちょっと私の部屋で待ってて、さっとシャワーを浴びに行くから」


 汗の匂いを気にしているのかな。別に女同士だから気にしなくていいのに。

「そのスメルがいいのにね~くんかくんか」

「まったくっきゅ。くんかくんか」

「お前らこっち来い」

段々とお嬢様なのを忘れて欲望に忠実になってないか?


「ほのか、カレンが妙な真似したら・・・」

「あ、大丈夫」

「おそら・・・キレイ・・・」

 体育座りでカレンが澄み切ったとてもピュアな眼で窓からの景色を眺めている。

「煩悩を記憶メモリーで封じたから」

 怖いよ。ほのかなんでもありになってきたな。

「なら、安心だ。んじゃ、ちょっと待ってて」



「ふ、ふふ、ふふふ、ふはははははは」

 肩を震わせて、ほのかが笑う。同様に

「フ、フフ、フフフ、フハハハハ」

 体育座りのカレンも笑い出す。


「さきも甘いネ。敵は一人ではないのだヨ」

「友達の部屋で、ガサ入れしない奴はいないのさ、さきちゃんの秘密暴かせてもらうよ」


 家主のいない部屋でもぞもぞと動き出す。


「さきちゃんの部屋って意外と女の子女の子してるんだね。こりゃっ!何このキャラどこで売ってんだろ」


「さてさてさて、さきのお洋服チェックだネ!ふふふーん。WOW結構乙女チックネ」


「カレンちゃんカレンちゃんっこの人がさきちゃんの好きな人かな!意外だなっさきちゃんこんな人がタイプだなんて」


「ふぉっふぉー!ほのかほのか!さきのブラですよ!サイズ全然あってないじゃないですカ!」


「はははは、お前らなにしてる?」


 乾いた笑い声に、二人の笑顔が凍りつく。

「「あは☆」」


 まったく油断も隙もない。シャワーを浴びに行く。恋だの愛だの、そういったものは私にはまだわからない。


先日のイケメン占い師の事件でもそうだ。に目覚めた者にはかからない。魔法少女の中で私だけが術中にかかってしまった。私だけが。カレンは妹を溺愛してるにしても、までも、かからなかった。本人には自覚が無いようだけど。私は弱いのだろうか。それに私や町の人達がかかってしまったのを見ると、真実の愛とはなかなか見つかりそうも無いのだ。


ほのかやカレンが言うには

「さきちゃんさきちゃん、さきちゃんは好きな人いないの。恋をしないと人生損しちゃうよ。花の10代も今も半分。ピチピチお肌がしわしわになる前に恋をしなきゃ」


 ほのかみたいに頭の中がお花畑だと毎日楽しいのだろうか。


「さき!愛を語りましょウ!!」

 なんて言われたが、


「私も恋をすれば、毎日キラキラでルンルンな日々が送れるのかな」

 らしくもないことを考えてしまった。いつまでもお風呂にいるわけにはいかない。ぶくぶくと浴槽で泡を膨らませていたが、顔をふと上げると


 にまぁ


 天井に張り付き、満面の笑みを浮かべるカレンがいた。


「なっ!あ、あ、あ!いつからそこに!?」


 ニヤニヤしながらカレンが胸の前で祈るように手を組む。

「あぁ私も恋をすれば、、のくだりからだヨ!!さきちゅわんかわいいっ!」


 自分の顔が真っ赤になるのを感じた!

「カレン!!!」


 口に手を当てムフムフと笑っている。嫌な予感がする

「ほっのか〜?さきってばね〜?」

「や、やめろ〜〜〜!!」

 私に恋はまだ早い。

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