第6話 きゅ!ほのかの魔法のせいだっきゅ!

 血のような赤黒い砂漠が遙か彼方まで広がっている。所々に機械の塊のようなものがあり、青や紫色の炎が立ち上っていた。


 不思議と暑さは感じなかったが、鼻につくような焦げ臭い匂いは、とても不快だった。



 自分はどのぐらい長い間、この場所にいたのだろうか。


 空気を裂く音がいくつも聞こえてくる。流星のようにも見えるそれらは、地面に爆風とともにクレーター状の大穴を開ける。


 遮蔽物のないはずの砂漠の中心で、自分が影の中に入っていることにふと気づく。


 ゆっくりと振り向き恐る恐るその正体を確かめる。

 それは自分に覆い被さるとするような男の姿だった。その姿に驚き尻餅をつく。


 恐怖のせいか声が出ない。パクパクと口が動くが、音を出す事はなかった。


 男のいでたちは非常に奇妙で、年季の入った山高帽子をかぶり、緑色のマントを着ていた。よくよく見るとその緑は見たことのない不思議な植物で覆われていたのであった。


「×××」


 男は私の顔をじっと見て、何かをつぶやいた。はっきりとは聞こえない。すすで汚れたその顔は、一瞬穏やかな顔になったが、すぐに真剣な表情に変わった。


 私の頭をポンポンと優しく撫で、まっすぐこちらを見つめる。森のような深い緑色の瞳は私に安心感を与えた。

 そしてくしゃっと笑ったその男の年齢が私とさほど大差ないことに気づく。


 振り向き立ち上がる少年は世界に挑むかのように、両手を広げた。右手には宝石の埋め込まれた身の丈のある杖。左手には刀身が虹色に光る刀を持っていた。


「…様…女王様」


 うたた寝から目を覚ます。少し眠っていたようだ。心配して声をかけていたようだったが夢が中断されたことはいただけなかった。


「大丈夫ですか?」


金髪の少女が声をかける。


「…わらわはいつも全知全能なるぞ」

 イライラしながら答える。夢の続きが見たかったが、仕方がない。そばに控える少女は少し怯えているようだった。


「…少し考え事をしていただけじゃ」


 女王は杖を振るう。細かな砂の粒が空中に現れて、舞う。しばらくすると精巧な街の模型を形づける。中央に巨大な木のある街の模型だ。円形の街を十字に道が通る。町を半球状に薄い膜が張られていたが、上空に大きな穴が空いていた。


「破魔町ですか?」


「どこぞのバカが複合魔法で、結界をぶっ壊したからの…結界を貼り直す」


「ほのかちゃんですか」


「名前はどうでもよい」


「では、第一魔法騎士隊を呼びましょうか」


「必要ない。七禍を呼べ」


「しちかというと指折り カウンターズのですか?」


「他に誰がおるのじゃ」


 カウンターズとは、魔法国きっての魔法のエキスパートである。数字ナンバーが言い渡されており、その地位と強さは魔法騎士隊を凌ぐ。全員名前に数字が入ったコードネームを持っており、女王直属の部隊である。


「…お呼びかにゃ?」

フードに猫耳をつけた銀髪の少女が現れる。術式のエキスパートだ。


「結界を貼り直せ」


 町の模型を一瞥する


「了解にゃ。あ~あ人避けも魔よけも防護結界も…派手にやられましたにゃ。もとの状態にもどすには2-3日はかかるにゃ」


「そんなに待っておれん。1日でやれ。外敵からならまだしも身内の攻撃で破壊されるとは、余計な者が混じりこまなければよいがの」




「ラックちゅわん。なんであんな小さな街で撮影をするなんて言い出したの」


 スモークを貼ったバンの中で、少年に声をかける。


「あの一本杉見事じゃないですか。僕の新曲のイメージに会うんじゃないかってね。社長、たまには僕だってわがまま言ってもいいじゃないですか、ね」


 甘えた声で女に言う。女社長は少しため息をついたが、黙認した。数ヶ月前に突然現れたこの少年はあっという間に自分の事務所の出世頭となったのだ。出る番組は高視聴率続出で、少しでも名前が入ると商品がバカ売れすると言う金の卵だった。今までも特に問題起こしたわけではないが、機嫌を損ねると何が起こるかわからない。


 今朝突然彼が言い出して、ラックの歌う曲のミュージックビデオを取るためにこの辺鄙な街にやってきたのだ。歌などを歌えるのかと正直驚いたが、アカペラで歌った曲は美声でその場にいたものが聞き惚れる位だった。マネージャーからも大手のレーベルがついていると連絡があった。プライベートはほとんど情報がないので、少しルーツが分かるのかと期待もしている。


「破魔町ねぇ・・・」


 どこにでもある小さな街だ。少し変わっていると言ったら街のはずれに神社があり、そこの鳥居をくぐると神隠しに会うなどと言うくだらない噂がある位だ。以前御朱印集めが流行った時期に近くの街で変わった種類がないか取材をしたときにたまたま訪れている。せいぜいその程度しか知らない。彼を見つめていたが、こちらの視線に気づかれ、微笑まれた。はるか年下の彼ではあるが、正直ときめいてしまう。咳払いをして気持ちを切り替え、段取りの話をする。何せスケジュールは詰まっているのである。余計なことを考えてる暇はない。


「・・・やっと始められる」


 女社長の話を半分聞きながら街を眺める。天をつくような巨大な木が見える。この場所に必ずいるはずだ。



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