第23話 魔法薬学

「Bonjour?ほのか!きょうもちっぱいですね?いや、元気いっぱいデスね!」


5限目が始まる直前カレンが飛びついてくる。


「なんかよけいな一言が聞こえてきたけど」

「ほのかの胸が小さいのはいつもだっきゅ」

二人分のセクハラを拳で叩き込む。


「気のせいでーす!して、今日は何日デスか?」

「きょうは16日だよ?」

「merci!」

「時々休むけど大丈夫?ほい、ノートのコピー」


カレンちゃんはいつも元気だけど学校を休みがち。ノートはコピーしてあげてる。


「ありがたや!ありがたやデース!さきは…眠そうデスね」


机に突っ伏してるさきを見てカレンが指を滑らかに動かす。


「ん、あ、うん」


「ちょ!カレンちゃん」

「いいぞ!もっとやれっきゅ!」


「寝てるのが悪いのでース!」


「ん、あぁ、あん、ん?!」


あ、目が覚めた。立ち上る殺気に身を竦めるカレンちゃんをよそに授業の準備をすすめる。たしか、5限目は魔法薬学だったっけ。破魔町立第二中学校は町の北区と東区にいる子どもが通う中学校だ。午前中は数学や国語などの一般課程、午後は魔法についての学習が多い。


魔法薬学は理科室で行われる。


「授業をはじめます」


「鋼鉄《アイアン》眼鏡メイデン」の異名を持つシダー先生が現れる。しかし、彼女にしては珍しく授業が5分も遅れてのスタートだった。教室がザワつく。


「…みなさん。このクラスの江角さんが現在行方不明です。また非魔法者の愛上という子も行方不明です。」


教室がさらに騒然となる。


「…静粛に。現在魔法騎士隊や警察とともに捜索しています。我々も放課後捜索に合流します。何か知っていることがあれば、先生に教えてください。それからしばらくの間は放課後の外出は禁止します」


「えぇそんな!」

ほのかが叫ぶ。


「禁止します。」


「わたし杖を買いに行く予定だったのに」


「危機感を持ってください。クラスメートが行方不明なんです。事件の可能性もあります。杖は私のを使いなさい…あと、宮内ほのか、竜崎さき、白鳥カレン。授業が終わったら、わたしの部屋に来なさい。それでは、皆さん、魔導書中学2年生LETStryMAGIC 36ページを開いて、今日は回復薬ポーションを作ります」


授業の結果はいつも以上に凄惨たる結果だった。シダー先生の杖は一切のズレを許さず、分量が少しでも違うと逆噴射して、ほのかを天井や壁に叩きつけた。


授業後3人はシダー先生の部屋を尋ねた。

「…杖は己にあった1本を使うべし」


「魔法少女10ヶ条の1つですね」


部屋に入るなり、愚痴をポロリ。恨み言のひとつやふたつ言わなければ気が済まない。



「先生このままでは私、学校の備品を全て破壊してしまいます」


「いや…さすがに」


少し笑いかけたシダー先生だったが、さきちゃんとカレンちゃんが首を激しく縦に振ったので、笑顔が引きつった。


「昔は9ヶ条だったんですがね」


「シダー先生why?」


「昔ある生徒が杖を三本使ったんですよ。彼女は元々落ちこぼれでひとつの魔法しか使えなかったんですけど、やけになったのかいつしか杖を三本使うようになったんです。そしたら、魔法少女になり、カウンターズになりの大活躍。町ならず世界を数度救う活躍をしたのです」


「?だったらみんな杖を複数持てばいいじゃんか。わたしだったらそうする」


「行き過ぎた力は禍いをもたらすです。彼女はその力を悪用し禁術を使用。それを咎められて、杖は没収され魔法界から姿を消しました。その後すぐに魔法少女10ヶ条が公布されました。なまじカリスマもあったので、真似する子も多かったですが」


「今その杖はどこにあるんデスカ?」


「赤き杖は災いを呼び、黒き杖は古き魔法を呼び起こし、白き杖は理を超える。純白の杖は女王様が、漆黒の杖はカウンターズが、持っているという噂です。最後の1本はここに」


古びたケースを取り出すと中には深紅の杖が入っていた。


「相変わらず派手ッキュね」


「もとは普通の木の杖だったみたいですがペンキで染めてしまったらしいですね。これを託します。」


「え?」


「江角九院は魔法少女の1人でスカウトマンでした。実力はあなた達よりも上の魔法少女でした。マジカルドエスと言えば聞いたことあるのでは?愛上愛美は宮内ほのかあなたと同じほかの町にすんでいる魔力持ちでした。彼女たちが何かしらの事件に巻き込まれたというのは一大事です。」


「よっしゃ犯人を見つけたらいいんだな」

さきちゃんが指を鳴らすが、シダー先生は首をよこにふった。


「危険すぎます。返り討ちにあってお終いです。杖を渡すタイミングは任せます。彼女はめちゃくちゃしますが、悪人ではありません。彼女の赫を使ってそれぞれボディガードしてもらいなさい。」


「はぁ?お守りしてもらうっていうのか」

「お断りデース」

さきちゃんたちが反論する。


「あなたたちは子供です。我々が守ります」

「いつも町の平和を守ってるのは」

「わたしたちもです。あなたたちが権限を持っているのは、あなたたちが成長途中だからです。大人が魔法少女並の権限を持ったら大変ですから。悪の組織なんてのは、まだまだ弱い部類です。魔力を持ったチンピラに変わりないです」


「なんだと」


「事実です。この度は我々が動きます。宮内ほのか頼みましたよ。確実に彼女にわたしてください」

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