第33話
ギルドに残されたのはハンナとユリア。両者の間には若干冷たい空気が漂っている。
「……本当に大丈夫なんでしょうね?」
ハンナが探るように聞くけれど、ユリアはあっけらかんとした答えを返す。
「大丈夫よ。だってラビが見てるもの」
ギルド内にすでにラビの姿はなかった。
しかし、ハンナは違うと首を横に振る。
「そっちの心配はもうしてないの」
「……貴女、リードくんの担当になったのかしら?」
「うん。受付も私がしたし、正式に冒険者になった時の担当は私だよ」
冒険者の担当は大抵が一番最初の登録時に受付をした人になる。担当が決まっている理由は、冒険者の実力を正確に把握するなど様々理由があるけれど、大まかに言えば冒険者とギルドの信頼関係を結ぶためだ。
ハンナが担当に決まっているなら話しても大丈夫か、とユリアは判断した。
「リードくんに才能があるのは本当よ? それもとびっきりの。剣で打ち合ってた時なんか一瞬だけ本気で対応させられちゃったし、魔法も最低でも風と水の二属性使っていたわ。それに、多分あの子は——強力な異能を持っている」
「……そこまで言うなんて。でも、だからこそ心配なの。だってリードくんはまだ——」
「挫折を知らない」
ハンナの言葉を引き継ぐかのようにユリアがそう続けた。
「そう、そうなの。あの子は、リードくんは自分には才能が無い、努力することしかできないって言ってたの。だから今、ようやく努力が実って自信がついてきた時にもしも挫折なんて味わったら——もう、立ち上がれないかもしれない。それだけが心配なの」
才能がある人ほど、自身に満ち溢れている人ほど一度挫折するともう立ち上がることができなくなってしまう。
順調に進んでいた自分の道に差した影を認めることができなくて乗り越えることができなくて、才能のみでやってきた冒険者は皆途中でリタイアする。
ユリアから聞いたリードの評価は才能があって強力な異能を持っている。
出会った当初は自信もなく、おどおどしていただけの少年がようやく立ち上がった。
そんな少年がもしも今、強大な何かに叩き潰されたら立ち直れるだろうか? それでも上を目指すことができるだろうか?
答えは否。
きっともう挑戦することを諦めて、
ハンナはリードにようやく宿った輝きを、眩しいくらいに純粋で美しい煌めきを失ってほしくなかった。できることなら、一人でもいいからパーティメンバーを加えてからモンスターと戦ってほしかった。
「多分、大丈夫よ。リードくんが危険なことをしようとしているならハンナか私が止めればいいのよ。イレギュラーな事態にならない限り心配なんていらないわよ。私もリードくんにいつか追いつかれて、追い越してほしいもの。だって、初めての私の生徒よ? あんなに素直な子、大事に決まってるじゃない」
「そう、だよね。リードくんは冒険者なんだから私にできることは情報を教えることだけだね。よし分かった! 私も頑張るからユリアも早く行ってね」
「ふふっ、そうね。そろそろお暇するわね」
ハンナとの会話を終え、ユリアは森の方へと足を進める。
だけど、誰も知らない。
リードのレベルが上がるまで剣術の才能なんて一切なかったことを。
魔法が使えるようになったのがつい最近だということを。
リードの才能は強力な異能によるものだということを。
そして、イレギュラーな事態が、リードの光を潰そうとする強大な何かがすぐそこに迫っていることを。
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