第9話 世界観をリードが話す

——辺境都市ヴァーグ

 フローレンス王国に属する都市で、その名の通り辺境に位置する場所に存在している。

 主に森で狩れるモンスターから取れる素材やその加工品を扱っており、魔物素材が高価なこともあってフローレンス王国で三番目に栄えていると言われることも多い。

 森を超えると魔の森と呼ばれる未開の地があって、そこでしか取れない貴重な素材も多いが、その分単価も高いから冒険者にとってはハイリスクハイリターンの危険地帯。

 と言っても、魔の森に入ることができるのは国から探索許可証を貰った一部の上位冒険者のみ。

 原則として魔の森から強力なモンスターがやってくることはないし僕のように冒険者になりたての人は近くの森で依頼をこなすことが多い。

 もしもある程度実力が付いてきて、もっと実力を磨きたいなら一度ダンジョン都市に向かう人が多いらしい。

 そう、ダンジョン都市こそが王都の次、いや、下手したらフローレンス王国で一番栄えている都市かもしれないと言われている。


『ちなみに、マスターとウェルト様のお住まいの近くに魔の森にありました』

「僕の魔力のせいで魔の森のモンスターが襲ってきてたんだよね? それって今は大丈夫なの? もしかして、やばかったりする?」

『いえ、マスターの魔力は現在は放出されずに異能に流れ込んでいるので、遠くから引き寄せられることはないでしょう。余程近寄られなければ大丈夫だと思います』


 異能の覚醒と共に僕の体質も改善されていたらしい。

 一生この体質と付き合っていくと思っていたからこれは嬉しい誤算だ。

 僕たちが住んでいたのは魔の森と普通の森の境目のような場所。

 多すぎる僕の魔力のせいで魔の森のモンスターが定期的に襲いに来ていたから、そういう心配が無くなるのはこの先の冒険でもかなり助かる。


「ちなみに、近寄らなければってどれくらい?」

醜豚オークの熱烈ハグくらいですね』

「それ襲われる前に死ぬよね!?」

『ここでポイントなのはグラスウルフでもなくビッグボアでもなく醜豚オークだということです。醜豚オークは魔力に対する嗅覚が他のモンスターより段違いに高いですからね』


 つまり魔力の心配は本当にする必要がないということだろう。

 いよいよウェラリーの人間っぽさに磨きがかかってきたね。


「……そういえば、詳しいことを聞かずに来ちゃったけど、早朝ってどれくらいだろう?」


 それに、必要な持ち物の確認すらするのを忘れてしまった。

 今の僕にあるのはウェルトさんが使っていた純白の剣のみで、ポーションどころか碌な装備も準備していない。

 ウェルトさんは防具を付けないで戦っていたし、僕はモンスターと対峙しても逃げることしかできなかったから装備を持っていなかった。

 

『早朝とは、基本的に始まりの鐘から三回目の鐘までと言われています。冒険者は朝が早い職業ですので、始まりの鐘に合わせればいいと思います』

「そっか。ありがとう! 他に何か注意した方が良いことはあるかな?」

『では、僭越ながら二つほど。まずは【亜空間庫イベントリ】を無暗に使用しないようにしてください。空間魔法は使用者がほとんど存在しないため、持っていることが露見するだけで危険が高まる可能性があります』


亜空間庫イベントリ】は、出発する直前に手に入れた新しい魔法だ。

 これは、魔力量に大きさが比例する亜空間を作成する魔法で、もちろん魔導書から手に入れた。

 ウェルトさんが残していった本や手記、焼けずに残った思い出の品などを持っていきたいという理由で申請が承認されたのだ。

 この魔法は原理を理解することが難しく、一部の天才か魔導書の所持者くらいしか使用できないらしい。

 そういう僕もまだ魔導書なしでは発動できないから、頻繁には使わないようなものを入れるための保管庫のような扱いになっているけれど。

 ちなみに、魔力量だけは多いと言われてきた僕の【亜空間庫イベントリ】の大きさは、それ一つで商人として大成できるレベルのようだ。


「なるほどね! もう一つは?」

『私と話すときは基本的に声に出さないようにしましょう。一人で何かをぶつぶつ言っているのは、控えめに言って、いえ、かなり気持ち悪いです』

「……え?」


 冒険者ギルドの緊張から解かれたばかりで忘れていた。

 ウェラリーの声は僕にしか聞こえないことに。

 周りを見回してサッと血の気が引く。


——疑念、懐疑、怪訝、嫌悪。

 

 僕は初めて、今周りからどんな風に見られているのかに気がついた。

 頬が引きつり、顔を伏せて逃げるように早足で移動をする。

 やってしまった。

 浮かれすぎていた。

 冒険者登録をして、目標に一歩近づいたと心のどこかではしゃいでしまっていた。

 ギルドでは声に出さないように気を付けていたのに、外に出て気を抜いてしまったのかもしれない。

 確かに、気を抜いた僕が悪いのかもしれない。

 だけど、気がついていたのなら————


 「——もっと早く教えてよ……!」

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