第10話 勉強会
冒険者登録をして二日後の朝、まだ辺りが薄暗く人の気配がしない、まるでゴーストタウンのような雰囲気の中、リードはギルド前にいた。
何もやることが無かった昨日はある程度街を歩き回ったりウィンドショッピングをしただけに人がいないという状況の不自然さが拭えない。
人が見当たらないというだけでこんな雰囲気になるものなのかと衝撃を受けたが、今の時間は始まりの鐘が鳴った直後。
こんな早朝から活動を始める人なんて門番くらいしかいないため、人が見当たらないのも当然のことだった。
「早朝って聞いてたけど、ギルドも開いてないし、もしかして早かったかな?」
『申し訳ありません。ギルド自体が閉まっているという可能性を失念しておりました』
「……少し考えたら分かることだったけど、始まりの鐘が鳴って街が動き出したと言ってもこの時間に起きるのは鍛冶師くらいだよね」
始まりの鐘が鳴ったと言ってもまだ街は眠ったまま。
結論から言ってしまえば、ハンナの言った早朝とリードの考えた早朝はかなりずれていた。
リードにとって早朝というものは太陽が昇った瞬間のことを指し示し、夜は陽が沈んだ瞬間から既に夜。
夜は月明かりしか存在しない森の中では、日の出とともに起床し日暮れと共に就寝するというのは当たり前だった。
しかしハンナにとっての早朝は街が動き始める頃、つまり後二刻は経った後。
むしろ、街に来てから明かりの魔道具によって夜も明るく照らされているということに衝撃を受けたくらいで、まだ時間の感覚というものを掴めずにいる。
今まで日暮れと同時に寝るような生活をしてきた
更に言ってしまえば遅くまで飲めや歌えやの宴が日常茶飯事な冒険者なら更に遅くなるのは当然のことだった。
諦めて出直そうかと考えて方向転換した瞬間、あれ? という声が後ろから聞こえてきた。
「もしかして、リードくん?」
声が聞こえた方を振り返ると、若干驚きが混ざった不思議そうな表情で自分を見るハンナの姿が見える。
一瞬呆気にとられるも、リードはすぐにハンナの方に体を向けて挨拶をした。
「え? あ、ハンナさんおはようございます」
「おはようリードくん。随分早いのですね」
「えっと、ここに来る前はいつもこれくらいの時間にご飯を作り始めていたので、早朝はこれくらいの時間だと……。というか、ハンナさんもすごく早いですね」
周りを確認しても、ハンナ以外の人影は見えない。
ハンナ達受付嬢の仕事がこの時間から始まると考えるよりは何か個人的な用事で早く来たと考えた方が自然だろう。
どうやらその予想は当たっていたようで、ハンナは頭を掻きながら言う。
「えへへ。ちょっと忘れ物しちゃって早く来たんです。……それより、リードくんに勘違いをさせてしまったのは私がちゃんと時間を伝えなかったせいですよね? 本当なら後二刻くらい余裕があったのに早朝なんて分かりにくい言い方してごめんなさい」
「いえいえっ! そんな、ちゃんと確認しなかった僕が悪いんですし謝る事じゃないですよ! それに、この時間に自然と起きましたし無理もしてませんから! じゃ、じゃあまた二刻後に出直しますね!」
「あっ! ちょっと待ってください、リードくん!」
一旦帰ろうと体を翻したリードをハンナが止める。
「せっかく早く来たんだし、時間まで一緒にモンスターについての勉強しませんか? 情報は武器ですから!」
どうやって時間を潰そうかと考えていた矢先に思わぬ誘いを受け、リードは目を輝かせた。
「良いんですか!? ぜひお願いしたいです!」
「そう来なくっちゃ! じゃあ早速中に入っちゃってください!」
リードはハンナと共にギルドの中へと入っていく。
【
それこそ未だ見つかっていない新種から類似種まで存在している。
魔の森に入ってしまえば新種や危険種などの新発見のオンパレードだ。
だから、近隣のモンスターの情報を得るには、その地区にあるギルドの受付嬢などに聞くことが一番正確だ。
そう、冒険者の心得にも書いてあった。
「うんしょっ! じゃあ出現するモンスターと注意点、弱点と素材になる部位、出会ったら逃げなくちゃいけないもののの順番で説明していきますね!」
どしん! と大きな音を立てて置かれる図鑑。
思っていたよりも分厚い本に少し慄くリード。しかしハンナの好意を無駄にするわけにはいかない。
「お、お願いします!」
「良い返事ですね! ではまずは、近隣に出現するモンスターの情報から——」
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