第28話

「は、はいっ! 【水球ウォーターボール】!」


 虚空に水球が現れ、そのまま壁まで飛んでいく。そのまま壁に当たり、ピシャっと音を立てて弾けた。


「ん。次」

「はい! 『火よ 我が意志に従い 球形を取りて 敵を打ち払え 【火球ファイアボール】!」

「ッッ⁉」


 こちらはやはり不発で終わり、何も起こらなかった。

 だが、異能を使ったリルには何かが分かったようで、いつもは半分ほどしか開いていない目を見開いて驚いている。


「……魔力……ある?」

「……はい?」


 聞かれたのはそんな突拍子もない言葉。


「【水球ウォーターボール】の時は問題ない。だけど【火球ファイアボール】の時に一切魔力が出てない。……それどころか普段も魔力が漏れてない。まるで魔力無し。リードに、魔力……ある?」


 人は微量な魔力を常に放出している。それは呼吸のように無意識的に行われることで、魔力の多い人の方が多く放出する傾向にある。

 しかし、リルはリードから発しているはずの魔力が見えないという。

 だけど、それはおかしい。

 リードの魔力は今までずっと、多すぎると言われてきたのだ。

 その量は、放出している微量な魔力でモンスターを引き寄せてしまうほどだったはずだから……。


「あ、ありますよ! 師匠に魔法は使えないのに魔力だけは溢れてるって言われるくらいですから!」

「……確かに【水球ウォーターボール】は使えてる。でも、無駄が無さ過ぎる……ッッ⁉ もしかして、【水球ウォーターボール】は魔導書?」

「え……」


 呆気なく見破られたその事実に驚いてどうすればいいか混乱する。

 だが、その様子を見ただけで図星だということを見破ったようで、リルは「そういうこと」と言って納得した様子を見せた。


『マスター、バレてます』


 ウェラリーの一言でバレていたことにリードも気がつき、バッと頭を下げて謝る。


「隠しててごめんなさい!」 

「ん。魔導書の情報、隠すのは当然。しょうがない。……だけど、やっと分かった。あ、使えない理由は分からないけど……」

「やっぱり分かりませんか……」

「魔力が出てない。……無駄がない? どこか別のことに使われてる……? ……分からない」


 魔法を使えるようになっていればいいなとは思っていたが、その事に関しては元々望みは薄いと思っていたこともあり、リードはあまり落ち込んではいなかった。

 むしろ、教えると張り切っていたのに教えることができなかったリルの方が心なしか落ち込んでいるように見える。

 結局のところ、時間はかかるかもしれないが、【世界図書館ワールド・ライブラリ】から魔導書をインストールしてしまえばリードに使えない魔法など存在しないのだ。

 申請理由が正当なものだと認められなければインストールすることはできないが、それはつまり本当に必要な時はインスト―スできるということでもある。

 それ以前に、リードにとっては剣を使ってまともに戦うことができる時点で信じられないような出来事で、魔法が使えるということは高望みが過ぎると考えていた。ほどだ


「考えても解決策は出てこないみたいね。そろそろ午後だし、気分転換にモンスターを狩りに行かないかしら?」

「ん。良いと思う。レベル上げれば……可能性はある」

「はいっ! ……今日もゴブリンですか?」

「あら? もうゴブリンじゃ物足りなくなったのかしら?」


 リードの質問にユリアは首を傾げながら聞き返す。

 そう言われて自分が言った事の意味に気がついて、リードは焦る。


「あ、いえ! そういうことじゃなくて! えっと……」

「ふふっ。冗談よ。その表情を見れば違うって分かるわ」


 その言葉にリードはほっと息をつく。

 しかし、すぐにただユリアにからかわれただけだったと気がついて恥ずかしくなり、修練場の外へと早足で向かった。昨日とは反対で、リードが戦闘になる形でギルドの中を通過する。

 ギルドを通るときに目に入った昼から酒場に入り浸る冒険者たちが、なぜか脳裏から離れてくれなかった。

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