第27話 魔法の修練

——魔法

 それは、自身が保有する魔力を、力ある言葉によって望む形へと変質させる超常の力。

 そんな力を使うために、即ち、魔法を発動させるために最も大切なものは知識だ。

 一つの例外を除いて・・・・・・・・・、魔法を発動させるには、魔法によって起こす現象のことをよく理解しなければいけない。……と言っても、水がどうしてできるのかや火はどうやって燃えているのかなどではなく、水は冷たくて無害でサラサラしている、火は赤くて熱い程度で大丈夫だけど。

 その情報を前提に、リードが唱えた。


「『火よ 我が意志に従い 球形を取りて 敵を打ち払え 【火球ファイアボール】!」

『不発です!』

「ん……。詠唱方式もダメ……」

「リルさ――先生でも原因は分かりませんか……」


 二人の間に重い空気が漂う。

 重い空気の原因は、リルがリードに先生呼びを強制しているからでは決してなく、ウェラリーが言ったように魔法が不発だったからだ。

 リードは、リルに魔法を教わりはじめて既に数刻、すぐに上達した剣術とは違い、新たな魔法を一度も発動させることができずにいた。

 初歩中の初歩である詠唱方式——詠唱をすることで言葉で自己暗示をかける方法——でも発動せず、完全に手詰まり状態に陥っていた。

 とは言っても、使えないとしても練習を続けてきた剣術とは違い、魔法は練習すらしてこなかった。

 理由を上げるなら、剣術は何だかんだ言って毎日特訓をしてきたが、魔法にはウェルトにきっぱりと意味がないと言われていたからだろう。

 もしかしたら、魔法は魔導書からしか覚えることができないから意味がないという未来を含めた言葉だったのかもしれない。


「ん……。原因が分からない……。どうして【水球ウォーターボール】だけ発動するの……」

「いやぁ……。アハハ……」


水球ウォーターボール】はまさに一つの例外である魔導書で覚えた魔法。前日に、魔法書無しでも発動することができるようになったのだ。

 そのことを正直に言っていいのかリードには分からず、苦笑いを浮かべることしかできなかった。


『【水球ウォーターボール】は初級魔法なので、魔導書で覚えたと言っても大丈夫だとは思いますが……』


 ウェラリーは大丈夫そうだとは考えているけれど、読むだけで魔法が使用できるようになる魔導書がどれだけ貴重なものかは一切見当もつかない。

 だから、ウェラリーも絶対に大丈夫だと保障することはできなかった。


「ん。しょうがない……。ちゃんと見てみる」

「ちょっとリル、いいのかしら?」

「ん。良い。信用できる」


 ユリアと何やら話をしているようだが、曖昧な言い方しかしておらずリードには何のことだか全くわからなかった。

 だが、リルはリードに向かってその疑問を解消するどころか驚くことを言う。


「ん。異能を使う」

「い、異能ですか⁉」

「ん。私の異能は【魔力視眼マジック・アイ】。魔力の流れ、見える」

「え、ぼ、僕に教えちゃって大丈夫だったんですか……?」


 リードは、様々なことを『恵みの雨』から教わっていたが、これまでの話には異能には一切触れてこなかった。

 ギルドの書類にそもそも書く項目が存在しない時点で分かる通り、異能の情報というものはそれほどまでに重要なものだ。

 異能を公開しているのはそれこそ凶悪犯罪者や一部の特級冒険者など、異能がバレていても支障が無いような人たちだけで、師弟レベルでなければ教えあうことはありえない。

 ……そのはずなのだが。


「ん。良い。言いふらさないって信用する。それに、戦闘で使えない」

「い、言いふらしたりしませんよ⁉」


 信用されたというのはとても嬉しかったが、なぜか後者の理由の方が強いような感じがした。


「ん。良かった」


 リルは無表情の顔に軽く笑みを浮かべる。

 一瞬で目を奪われるリード、だけどリルの笑みは異能を使うためにすぐに引っ込んでしまった。


「ん。【魔力視眼マジック・アイ】! ……【水球ウォーターボール】と詠唱式で【火球ファイアボール】使ってみて」

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