第20話 ハイテンションウェラリー

「……夢、か」


 やけにはっきりした夢だったなんてことを考える。

 自分の体勢を確認して、リードは一言。


「……知らない天井だ」


 そう呟いたリードはベッドから身体を起こす。

 見慣れない天井にポツンとベッドだけが置かれた部屋。

 窓から外を覗いてみると、そこにあったのは見慣れた街並み。

 とは言っても、まだ街に来て一週間も経っていないのだから見慣れたと言っていい物なのか分からない。

 どうやらこの場所は安全だということを確認してから、ようやくどうしてここにいるのかを思い出いだそうと、昨日の記憶を漁りはじめた。


「確か、英雄の凱旋を見てから森に行って――そうだっ! 僕はゴブリンを倒した直後に倒れたんだ!」


 リードは思い出した。

 昨日リードは、生まれて初めて自分の力だけでモンスターを倒したのだ。

 例え相手がゴブリン最弱だったとしても、あの時モンスターを倒すことでリードはもう今までの自分最弱のままじゃないと自ら証明してみせたのだ。


「ああ……。あそこで気絶するなんて……。ユリアさんたちがいなければ僕は他のモンスターに殺されていたんじゃ……」

『いえ、気に病むことはありませんよ! モンスターを初めて殺したマスターは気を失って当然だったのです! むしろ、『恵みの雨』の皆さんの仕事は倒れたマスターを介抱することだったと思います!』


 ウェラリーがそんなことを言う。

 心なしか、ウェラリーが明るくなったというか人っぽくなったというかそんな気がするが、気のせいだろうか。

 それよりも気になるのはウェラリーが言ったこと。


「ウェラリー、気を失って当然ってどういうこと?」


 リードは事情を知っているらしい自身の異能に問いかける。

 様々な本を勝手にインストールしているからか、ウェラリーはリードが知らない知識をいつの間にか大量に蓄えている。

 結果的にリードが助かっているわけだから何も言わないが、自分の異能なのに管理できなさ過ぎていると思いはじめていた。


『"魔素と魔力、人とモンスター"に、人は魔素を持つ生物を殺すと、その生物の持つ魔素を吸収することで身体能力などが向上する。そして、ある一定以上の魔素を吸収した状態で限界を超えた時、人の持つ器が昇華し魂の位階が上がる。初めて魔素を吸収した時や高密度の魔素を吸収すると、気を失い昇華した肉体を適応させる。と書いてありました!』

「ど、どういうこと?」


 ウェラリーが勝手にインストールしたであろう本の一部の引用だと思うが、説明の半分も理解することができなかった。

 辛うじて、モンスターを殺すと強くなれるみたいなニュアンスだけ感じ取れた程度。

 詳しい説明をウェラリーに求める。


『マスターが体内で生成しているものを魔力だとすると、魔素は体外から吸収するものであり、その方法は——モンスターを殺すことです! ここまではいいですか?』

「う、うん」


 まだ、話に付いていけている。


『魔素を吸収することで人は能力を向上させることができるんです! そうすることによって、例えば――ラビ様のような素早く軽快な動きが可能になるんですよ?』

「そ、そうだったの⁉」


 そういうものかと漠然と考えていたが、確かにおかしい。

 ラビは兎の獣人だからそういうものかと思っていたけれど、リードの目で追うのが精いっぱいなくらいの速度で動き回るのは早すぎるし不自然だ。

 だが、それと今回リードが気絶した事がどう関係しているのかが分からない。

 その考えを読んだかのようにウェラリーが説明を続けた。


『昨日のように魔素を初めて吸収した時や、強敵を倒したことによって大量の、つまり高密度の魔素を一度に吸収した時に魔素が身体に適合するため——強化された状態が当たり前の状態と肉体に認識させるため——に一時的に意識を失うんです! 初めて魔素を吸収すると、身体が魔素を受け入れることができる器を形成し、位階が上がるってことですね!』

「ということは、昨日僕の魂の位階は零から一に上がったみたいなことなの?」

『その通りです! さすがマスター! ちなみに、魂の位階が上がることを冒険者ではレベルが上がる、初めて魂の位階が上がることをレベルを——』

「——あら? リードくん起きたのね」


 その時、一つしかない扉が突然開き、女性が顔を覗かせた。

 リードも良く知る人物だったため、そちらを向いて挨拶をする。


「あ! ユリアさんおはようございます!」

 

 しかし、やってきたのはユリアだけではなかったようで、他の二人もユリアの後ろに続いて部屋に入ってきた。


「ええ、おはよう。……昨日の記憶はどこまであるかしら?」

「ん。意外と落ち着いてる?」

「自分の時は高揚感でハイになったっすからねぇ」

 

 ユリアたちから見ればかなり落ち着いているように見えたリードだが、ウェラリーから説明を聞いていなければ倒れた訳も分からずかなり混乱していただろう。

 ウェラリーが優秀だということは認めざるを得ないなと思いつつも、所有者リードの知らないところで行動をしている事実に苦笑いを浮かべる。

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