第21話 レベルⅠ

「さて、身体の調子はどうかしら?」

「調子……ですか?」

「そう。いつもより体は軽い感覚じゃないかしら?」


 言われて初めて、リードは自分の身体の変化に気がつく。

 起きてからずっと気を失う前のことを考えていたため意識していなかったが、五感が鋭くなった気がした。

 手を握って開く動作を繰り返してみると力が湧いてきて、今までより少し、いや、かなり握力自体が強くなっているように感じる。

 これがウェラリーが言う魂の位階が上がるというものなのだろう。


「その様子じゃあ無事にレベルを獲得することができたようね」

『冒険者内では魂の位階のことをレベルと呼んでいます!』

「これがレベルアップ……。はい! 凄く力が湧いてきます!」


 今ならバク転も容易にできそうなくらい身体が軽い。


「ストップ、リードくん。今すぐにでも体を動かしたい気持ちかもしれないけれど、今日一日は安静に過ごすように!」


 まさに今ベッドから出ようとした瞬間にユリアから止められ、キョトンとした表情になる。

 しかし、リルとウェラリーの言葉で納得することとなった。


「ん。初めてのレベルアップだから念のため。それ以前にそもそも行けない」

『リード様はが気を失ったのは約四刻ほど前のことですからね! 現在の時刻は昼を回った当たりです。安全マージンを考えると体慣らしはまた明日にした方が良いと思います!』

 

 記憶上ではつい先ほどのことだったが、かなり眠っていたらしい。

 人生で初めてモンスターを倒したリードのテンションはかなりハイになっており、今すぐにでも戦闘をしたい気分だった。

 しかしユリアたちだけではなくウェラリーにも止められたため大人しく引き下がることにした。

 それに、ゴブリン最弱一体を倒しただけでユリアたちの守りが要らないと自惚れるほど自分の実力に自信は持っていない。

 最低限、最弱ではないと自信をもって言えるようにはなったが、下から二番目に勝てるかどうかは全くの未知数。

 レベル――魂の位階とも言う——が一つ上がったことでどれだけ動けるようになっているかを把握していない今戦闘するのは、かえって自分の実力を発揮できなくなる可能性も孕んでいたためこの選択は正解と言えるだろう。


「明日の早朝、ギルドの裏にある修練上に集合すること。今のリードくんの実力の確認と指導をそこで行うわ。遅れないように気を付けてね……って言っても目の前だから寝坊したら私たちに起こされるだけよ」


 どうやらこの場所はギルドの救護室らしい。

 レベルを獲得し倒れることが前提だったのなら最初からここに連れてくるつもりだったのだろう。

 既にギルドの中にいるなら確かに遅れても問題はなさそうだが、リードにはウェラリーという力強い存在がいる時点で寝坊の心配はしていない。


「はいっ! 分かりました!」

「それと……」


 そこでユリアが後ろに下がり、リルとラビの背中を押してリードの前に連れてくる。

 二人は気まずそうな顔をしているが、何が何だかさっぱりなリードは顔にクエスチョンマークを浮かべることしかできない。

 ラビがリードのそばに置かれていた剣を見やってからガバッと頭を下げた。


「あの……リードくんの剣を勝手に触ってしまったっす! ごめんなさい!」

「ん……。魔道具だって知らなかった。私の不手際。謝る」


 ラビに続いてリルも謝るが、リードはキョトンとした表情で口を開いた。


「え……、僕の剣って魔道具だったんですか……?」

「「え?」」

「え?」

『高性能すぎて今の私の能力では完全には効果を解析することはできませんでしたが、とてつもなく高性能な魔道具という事だけは分かっています!』


 ウェラリーのダメ押しで知った衝撃の事実。

 完全な初耳だった情報を聞いてリードは呆気にとられる。

 結果、両者がポカンとした表情のまま見つめ合う事態になってしまった。

 リードは純白の剣をウェルトの形見だと思って持ってきてそのままの流れで相棒のようにしてしまったが、よくよく考えてみればあのウェルト最強が使う剣が普通の剣な訳が無かった。


「と、とにかく! 冒険者が他の冒険者の情報を詮索したりすることはルール違反なんすけど、自分らが勝手に知ってしまったっす! だからその……とにかく申し訳なかったっす!」


 絶対にバレない確証があっても謝る程の、本当にやってはいけない部類のことだったらしい。

 きっと冒険者としてタブーなこと。

 しかし、いくら真摯に謝られても、実害がなかったうえそんなルールがあることすら知らなかったリードは怒りなど抱きようがなかった。

 それに、倒れた自分を連れて来てくれた人たちに対して剣を触られたくらいで怒るなど人として怒りなど抱いていけないだろう。

 だから、リードの返事は——


「怒ってないのでそんなに謝らないでください! むしろ、僕の剣が魔道具だって知れて良かったですし! そもそもギルドからの信用も厚い皆さんに知られても問題はないと思いますし! こちらこそ僕が倒れたせいでルール違反をさせてしまってごめんなさい!」


 逆に謝り返すという行動に走っていた。

 そしてその反応を見てリルとラビが猛烈に感動していた。


「ん……! リード、良い子。お詫びに魔法全力で教える」

「リルがそう言うなら自分も! 短剣くらいしか教えられないっすけど教えるっすよ!」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 本では知ることができない知識を欲するリードにとって渡りに船だったその提案。

 リルの魔法は見た事がないためイメージを付けることができないが、ラビの軽快な動きを思い出して自分もそんな風に動くイメージをしてみる。

 ……木から足を踏み外す未来が見えた気がした。


「ほら、そろそろ私たちは下がるわよ。リードくん、今回は殺したゴブリンの換金をしておいたわ。次の時に手順の説明をするわね。あと、リードくんの泊まっている宿には言っておくから今日はこの治療室で寝泊まりして大丈夫よ」

「はいっ! ありがとうございます!」


 そう言って三人は救護室から出て行った。

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