第32話 ソロ
「これ受けるのでお願いします!」
「はい。——って、リードくんじゃない! あれ? 『恵みの雨』の皆さんは?」
受付をしてくれたのはハンナだった。……というよりもリードがハンナのいるところに並んだのだが。
ハンナはリードが一人で受付にやってきたことに疑問を抱いているようだ。
「おはようございます、ハンナさん! 今日自分で選んだクエストを一人でクリアすることが最後の目標なんです!」
「あ、そうだったんだ。てっきりリードくんが一人で焦ってクエストを受けに来たのかと思っちゃった」
「えええ⁉ そんなことするわけないじゃいですか!」
「あはははっ! そんなに驚かなくてもリードくんはそんなことしないって分かってるって。ちょっとした冗談だよ。——って、薬草採取だけじゃなくてビッグボアの討伐⁉ リードくんソロだよね⁉ ちょっとユリアは何教えてるの⁉」
リードの持ってきたクエストを見てハンナは勢いよく立ち上がる。
「ちょ、ちょっとハンナさん落ち着いてください! 僕はモンスターを一人でも倒せますよ! 確かに僕が報告に来たことはなかったかも——って聞いてない⁉」
リードは必死に自分がモンスターを倒せるようになったことを説明しようとするけれど、残念ながらハンナの耳にリードの声は届かなかった。
どうどう、とハンナを落ち着かせようとあたふたしていたリードの肩に手が置かれる。
「ハンナ、そんなに心配しなくても大丈夫よ?」
「ユリアさん!」「ユリアッッ⁉」
手を置いたのは何を隠そうユリアだった。
リードが振り向くと、そこには『恵みの雨』が勢ぞろいしていた。
ユリアは、リードに一人でクエスト受けて達成することを最後の課題にしたけれど、何のクエストを受けるかを確認しないとは言っていない。
とはいっても、ユリアたちは本来ギルドでリードに会う予定はなかった。
リードが無茶なクエストを受けるとは考えていなかったし、あまりに無謀なものならハンナが止めてくれるとは考えていたけれど、一週間とはいえ自身が冒険者としてのノウハウを教えた子が心配になって覗きに来てしまったのだ。
結果は無茶どころか、正しい選択をしたリードを心配したハンナに止められており、口を出すことになったのだが。
「ちょっとユリア⁉ リードくんはソロなの分かってるの⁉」
ハンナは信じられないとばかりにまくし立てるが、ユリアは至って冷静だ。
ゆっくりと、言い聞かせるように語りかける。
「ハンナ、落ち着いてちょうだい。貴方が心配するのも分かるわ。だけど、リードくんは五体のコボルトとでも一人で渡り合えるようになったのよ? 昨日私たちが換金をお願いしたコボルトもリードくんが一人で倒したのよ。だから安心してちょうだい?」
「本当っすよ。リードくんはびっくりするくらい吸収が早いし、武器だってすご——むぐっ⁉」
「ん。黙る」
ラビもリードの実力を保証する。
リルは、ラビが余計なことを言う直前にその口を塞いだため何も言っていない。しかし、その目は「リードなら大丈夫だ」と強く訴えていた。
だけど、この少年がモンスターを倒すところがどうしても信じ切れなくて、「本当?」とリードを見つめながら問いかけた。
「……リードくん?」
「本当です! 索敵の仕方はラビさんに教わりましたし剣の特訓だって受けました!」
即答。
森にいた頃のリードならいざ知らす、今のリードは自信に満ち溢れていた。
真偽を判定するためか、ハンナはしばらくリードに目を合わせ続けて——顔に熱が集まるのを感じて、リードはすっと目を逸らした。自信と羞恥心は別物だったようだ。
『ヘタレですね』
ウェラリーからもすかさず追い打ちがかけられる。グサッと胸に何かが刺さったような気持ちになる。
だけど、ハンナにリードの気持ちは伝わったようだった。
「はぁ、本当みたい。疑ってごめんね。リードくんはソロだから初っ端からコボルトを倒しにいくなんてびっくりしちゃって」
「アハハ……。まぁ、こうしてモンスターと戦えること自体自分でも信じられないようなことですし」
自分でも信じられないくらい、だと言いながら頬を書く。
一ヵ月、いや、一週間前の自分に言っても信じないであろう怒涛の日々。
リードは未だに朝起きてから夢ではないのかと疑って頬を抓る日もあるくらいだ。一人前と認められた暁には頬が千切り取れるのではないだろうか。
「そうよ、ハンナは心配しすぎなのよ。そんな性格だから受付嬢に向いてないって言われるのよ? それに——」
ユリアはハンナの耳元に近づいて何かを囁く。
「よし! クエストは受理するからリードくん、頑張ってね!」
先ほどとは打って変わったハンナの態度にリードは目を丸くする。
「ほらリードくん、受理されたんだからもう行っていいのよ? それに今日は採取依頼も並行して受けたのよね? 早くしないと日が暮れちゃうんじゃないかしら」
その言葉を聞いてハッと意識を取りもどす。そして森の方角へと足を進めた。
「そうでした! 行ってきます!」
「安全第一で頑張ってね!」
背中にかけられた声に振り向いてリードは、
「はいっ!」
とやる気に満ち溢れた返事をギルドに残して外へ出た。
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