第31話 自己鍛錬

 夕食を食べ、宿屋の部屋に戻って一息吐いたところでそういえば、と思い出す。


「ウェラリー、室内で発動させても危険じゃない魔法が使える今インストールできる魔導書ってある?」


 先ほど、リルに発動させた魔法を同じ出力で発動させ続けることが魔法の精度を上げる特訓になると教えてもらったのだ。

 しかし、リードがインストールしている魔法の中で室内でも使っても問題がない魔法が無かった。

 それならば、使用しても問題のない魔法をインストールすればいいと考えたのだ。

 

『あります、マスター。光属性初級魔法の【閃光フラッシュ】と闇属性初級魔法の【闇霧ダークシャドウ】ですかね?』


 確か、【閃光フラッシュ】が光りを発生させる魔法で【闇霧ダークシャドウ】は辺りを暗くするだけの魔法だったはずだ。この二つなら確かに室内で使用しても問題ないだろう。


「じゃあ、【閃光フラッシュ】をインストール!」

『マスターによる魔導書【閃光フラッシュ】に対する申請確認。申請理由をお願いします!』

「あ、久しぶりだから忘れてた……。申請理由が必要なんだったね。どうしよっか」


 何か適当な理由がないか、周りを見渡す。


「アハハ……。何も見えないや——っっ! そうだ! 申請理由は、部屋を明るくしたいから!」

『申請許可。魔導書【閃光フラッシュ】をインストールします』

「やった!」


 リードの目の前に黄色い光が集まりはじめる。

 光は本の形へ変化していき、黄色に淡く光る本が浮かんでいた。


『インストール完了』


 手に取り、魔導書に魔力を通すと、【閃光フラッシュ】の情報が一気に頭に流れ込んできた。


「よしっ! 【閃光フラッシュ】! ……っとと、消えちゃった。難しいなぁ」

『マスター、魔法は繰り返し練習あるのみです! 魔法を簡単に覚えられるだけズルなので、めげずに頑張ってください!』

「たはは……。手厳しいなぁ」


 時々毒舌になるウェラリーは置いておいて、何度も【閃光フラッシュ】を使用する。しかし、その場に保てるのは数秒が限度で、その数秒の間も明るさが不安定に強弱していた。

 ウェラリーの言う通り一朝一夕で出来るようになれる技術ではないらしい。


「魔法初心者の僕じゃ全然できそうにない、か。あ、そうだ! 折角だから【闇霧ダークシャドウ】もインストールだけしておこうかな。申請理由は……明るすぎて眠れないから、はちょっと無理あるかな……?」

『……申請中。却下。再試行——申請許可。魔導書【闇霧ダークシャドウ】をインストールします!』

「ギリギリって感じかな……」


 一度却下という声が聞こえたけれど、再試行によって申請が通ったようだ。

 そもそも自分の異能なのに誰に許可を取っているのだろうか。


「ま、気にしても仕方ないか。よし! 【闇霧ダークシャドウ】! こっちもダメか」


 やはりこちらも不安定で、暗闇に包まれたと思ったらすぐに周りが見える程度まで明るくなったりしている。

 

『アドバイスをするなら、注ぐ魔力量が一定になるように意識してください!』

「一定、ね。分かった。ありがとう、ウェラリー。寝る前の毎日の日課にしてみるよ」

『最強を目指すならその程度の努力は必須です。当然のことを言ったまでですから礼など不要です』


 顔を上げてちらりとウェラリーを見ると、少し赤くなって照れているように見えた。

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