第37話 実力不足
前回は、眠らされて起きた時には全てが終わっていた。
今回は自ら背を向けて見捨てなければいけないというのか。
力が足りない。大切なものを守れるだけの力が欲しい。
自分の無力に嘆く。
悔しさに、爪が刺さりそうなほど手を握り締める。
気持ちを押し殺して、藻掻く。
目端に雫を浮かべながら、リードは力を取り戻した目でユリアを見据えた。
「どうすれば、僕はユリアさん達を助けることができますか? 教えてください。どうすれば、貴女が死なずに済みますか……?」
「誰も死ぬなんて言ってないわよ?」
ユリアは惚ける。
「嘘です! だって、ユリアさんは、今のユリアさんは——ウェルトさんと同じ顔をしてる! 最後だからと笑って、自分を忘れないでと伝えるだけ伝えていなくなる! 自分だけが助かるなら何とかなるはずなのに、僕なんかを助けるために死のうとしている! 僕は、僕は最後まで生きていて欲しかったのに……。僕なんかのために死んでほしくなかったのに! ウェルトさんも貴女も、僕なんかのために死んでいい人間じゃない!」
バチン、という音がした。
リードの頬に熱を感じた。
「黙りなさい。それ以上は、貴方のために生き抜いた人への侮辱になるわ。貴方に賭けた想いをバカにしないで」
「ッッ」
痛い。頬がすごく痛い。
でも。
「でも僕は弱くて、何もできなくて。賭けられるほどの人間じゃない!」
自分がいなければ、ウェルトさんは戦い漬けの毎日にならずに済んだ。
かかる負担は少なかった。
もっと、長生きできたはずなんだ。
ユリアさん達だって、自分が大鬼に会いさえしなければ、自分がここにいなければ簡単に逃げることができた。
「そう。なら早く行って助けを呼んできて。今なら特級冒険者もいるはずだからリードくんが急いでくれれば私たちは助かるわ。リードくんが自分の価値を理解するまで死ねないもの」
「どうして、そこまで」
「例え一週間の関わりだったとしてもリードくんは私たちの初めての教え子なのよ。それを守りたい、ただそれだけよ。分かったら早く行きなさい! これ以上時間を無駄にするな!」
リードは強く唇を噛む。
戦いに参加できない状況がもどかしい。
何もできない無力な自分が恨めしい。
「くッッ……。行きます……。絶対に助けを呼んできます。だから、死なないでください! もう僕は誰も失いたくないんです!」
リードは背を向けて駆け出した。
助けを呼ぶために。
ユリアたちを助けるために。
「さて、と。ラビ、逃げられそうかしら?」
「はぁ……はぁ……。無理っす。これは、ちょっと冗談きついっすね。いくら傷つけても再生するし、自分らをエサとしか認識してないみたいっすね」
「リル、弱点の属性は見つかった?」
「ん。あっても無理。穴開けてもすぐに回復した。変異種は無理」
厄介な、と頭を抱えたくなる。
強靭な肉体に素早い動きと再生能力。一つあっても厄介なのにどれだけ詰め込めば気が済むのかと。
「つまりは単純な火力不足ってわけね……。でも死ぬわけにはいかなくなったわ。私たちが死んだらリードくんの心に傷を残しちゃうもの」
冷や汗をかきながら、苦笑いで言う。
「簡単に言うっすね。自分もまだ死にたくないから同意見なんすけどねっっ!」
「ん。もう少し生きたいかも」
三人は改めて大鬼と対峙する。
「——ガアアアァァァッッ!」
大鬼は狙っていた物を逃がされたことに気がついたのか、怒りの声を上げた。
「行くわよ? 隙を作り次第逃げること!」
「はいっす!」「ん!」
リードは駆け出した。ユリアたちを救うために。
ユリアたちは対峙した。リードを逃がすために。
大鬼は咆えた。リードを逃がさないように。
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