第25話 強くなる実感

「今日はここまでにして、外へモンスターを狩に行きましょうか。十の練習より一度の実践よ。今日の総復習として、ゴブリン三十体が課題ね。安心してちょうだい? 索敵はしてあげるから」

「お? 行くっすか? 索敵は私の仕事っすね!」

『モンスターを倒すだけで微量ながらも魔素を吸収するので、レベルは上がらないものの強くはなれます! 十の練習より一度の実践です! さあマスター、行きましょう!』

「分かりました」


 僕は修練場からギルドを通って外に出る。

 ユリアさんたち『恵みの雨』はこの街ではかなり有名なパーティのようで、ギルド内を通るだけで沢山の人が話しかけていた。

 まぁ、その内容は一緒に冒険をしようというものから飲みの誘いまで千差万別だったけれど、改めて、この人たちは凄いということを実感する。

 ギルドから一歩出て、周りに冒険者がいなくなるとユリアさんがはぁ、とため息を吐いた。


「はぁ……。こんな時間から酒を飲んで……。リードくんはあんな冒険者になっちゃだめよ?」

「えっと……。あの人たちって冒険から帰ってきて宴を上げてる人たちじゃ——」

「——ないわよ。あいつらはレベルアップできなくなったからと言って諦めた怠慢者。簡単な依頼だけを受けて毎日酒場で過ごす飲んだくれよ」

「ん。ただの下種」


 リルさんがとても嫌そうな顔で下種と言う。

 エルフは種族上潔癖症だから、リルさんほどの美女なら絡まれるみたいな、あれほど嫌悪感を示すほどの何かがあったのかもしれない。


『己の器で受け入れられる魔素が上限に達しても尚レベルを上げることができていないのかもしれないですね』

(成長限界ってこと?)

『レベルアップをしなければ魂も器も成長しません。次のレベルに至るまでは魔素による成長はできないということです』

(レベルアップか……)


 確か、レベルアップをする方法は限界を超えることだとウェラリーは言っていたはず。

 酷く曖昧だけど、僕の能力を勝手に使える彼女のことだ。彼女が曖昧に言うということは、それが最大限細かく説明した結果なのだろう。


「挑戦を辞めた冒険者は、もはや冒険者ではないわ」


 ☆★☆


「ふっ! ラスト一匹くらえッッ!」

「ギャッ!」

「やった……!」

『お見事です!』


 リードの目の前に積みあがるゴブリンの死体、その数七体。

 肩で息をするリードの後ろでユリアが少し驚いたような顔をして立っていた。三対一程度なら余裕で戦えるほどの実力を持っているとは思っていたが、まさか七体同時に無傷で勝利できるとは考えていなかったのだ。

 危なくなったら介入しようと剣を構えていた手は行き場を失い、それどころか、後ろに目が付いているかのように立ち回る動きにユリアは衝撃を受けて意識を飛ばしてしまった。……といっても、後ろに目があると見えたのも仕方ないのかもしれない。


『マスター、これで二十一体になります! 目標まであと九体で終わりです!』

(アシストありがとう。一人じゃ今の戦いは勝てなかったどころか大けがをしてたかも)


 リードにはウェラリーという相棒異能がついているのだから、死角なんて存在しないようなものだ。

 ウェラリーに知能があるからこそ取れる連携。リードは、戦闘でも役に立つ【管理者アナウンス】という異能に驚いていた。

 そしてそれを見ていたユリア達も一人とは思えない動きに動揺に驚いていた。


(気のせいじゃなければだけど、戦う度にどんどん僕の動きが良くなってる気がする……)

『気のせいではないと思いますよ! レベルアップ直後はまだ魔素が完全に定着していないため、最初の数戦は目に見えて能力の向上が見られるそうですから!』

(それってさっきユリアさんとした模擬戦じゃ意味ないの?)

『そちらでも効果はありますけど、モンスターを殺して魔素を取り込むことで初めて実感できるレベルで成長ができるみたいです!』

(分からないことだらけだけど、魔素ってすごいんだね)


 ウェラリーとの会話が終わると同時に、ゴブリンの討伐証明部位である右耳を全て切り終えた。切り忘れがないか確認をしてから、リードは後ろを振り向く。


「リルさん、お願いします」

「ん。任せる。『火球ファイアボール』」


 討伐したモンスターの死体は、色々な問題から捨てる部位は埋めるか焼いて処分しなければいけない。ゴブリンの場合、素材となる部位がないため全廃棄となっている。

 ゴブリンは大量に発生するため、討伐しても安いうえに死体の処理が大変という冒険者から見ると割に合わないモンスターだ。

 出会ってしまったら討伐するくらいのモンスターで、普通は練習であっても忌避する相手だが、リード達は魔法が使えるリルがいるため、倒してもすぐに焼くことができるから気にしていなかった。


「っと! あっちに十体で群れているゴブリンがいたっすけど、どうするっすか?」

『マスターなら十体でもぎりぎり行けると思います!』


 ウェラリーのお墨付きをいただいたところで決心する。


「戦ってみたいと思います」

「そうね。危なくなったら私たちも手助けするから安心して戦ってちょうだい」

「はいっ!」


 リード達はゴブリンたちの元へ向かい、結果、危なげなく討伐することに成功した。

 その戦いでは、劇的な成長は見られなかったが、モンスターを倒せるようになったということだけでリードにとってはとても満足のいく結果だった。

 無事討伐を終え、換金をする。結果は次の日の生活費くらいにしかならない量だったが、自分の手で稼いだお金というものはとても感慨深かいもの。

 リードは、初めて自力で稼いだお金は使わずに仕舞っておこうと決めた。


「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。明日は……そうね、同じ時間に修練場に来てちょうだい」

「はいっ! えっと、魔法……ですよね?」

「ん。教える」


 リルがやっと出番だといった感じで胸を張る。

 そう。

 明日はリルによる魔法の指導なのだ。リードは、魔導書無しで魔法を発動できたことがない。

 だが、レベルを獲得したことで色々と変化したリードならば使えるようになっているかもしれない、そんな期待を胸に宿屋へ戻った。

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