第17話 遠くなる背中

 モンスターは高濃度の魔素溜まりから発生する生命を持った自然現象だ。

 魔素自体が形作ることもあれば、元々存在した動物が変質化モンスター化する場合もある。


 魔素のみで形成されたモンスターは第一世代オリジンと呼ばれており、その最大の特徴として殺すと死体を残さずに消滅し、残された魔素で形成すると言われているドロップアイテムを残すことがあげられるだろう。


 第一世代オリジンを倒した時に現れるドロップアイテムは武器、装備、装飾品など千差万別だが、魔素溜まりから産まれた第一世代オリジンのドロップアイテムは、その全てが例外なく強力な魔道具となっている。

 魔道具の強さはモンスターの強さに比例しており、強力な魔道具の多くは国宝として保管されているらしい。


 第一世代オリジン以外のモンスター即ち、死体を残すモンスターは全て第一世代オリジンから産まれた存在であり、世界中に生息している。

 しかし、そのモンスターが何世代目なのかは見ただけでは一切分からないため、第一世代オリジン以降のモンスターは纏めて系譜リネージと呼ばれている。


 そして、どういうカラクリかは判明していないが、第二世代以降の系譜リネージを殺すと死体が残る。

 森などの自然に生息しているモンスターのほとんどは系譜リネージであり、第一世代オリジンと出会うことはほとんどない。

 第一世代オリジンに出会う例外があるとすれば、ダンジョンに挑戦することであり、ダンジョンが直接産み出したモンスターは全てが第一世代オリジンだ。


 稀に自然で出会ったとしてもダンジョンの暴走スタンピードによってダンジョンから出てきた個体がほとんどである。

 見分けがつかないかもしれないが、ダンジョンから産まれた第一世代オリジンのドロップアイテムは基本的に皮や肉などのモンスターの一部なため、倒せば分かるというやつだ。


 ダンジョンが産み出していない第一世代オリジン、つまり魔素溜まりから産まれたモンスターは同種のモンスターとは隔絶した強さを持っており、討伐難易度はS級を超えることすらある。

 しかし、第一世代オリジンは魔素そのものであるからこそ、魔素が濃い地帯から出てくることができないため通常は出会うことはない。


「——その魔素が濃い地帯の一つに魔の森があるわ。魔の森が危険な理由の一つには第一世代オリジンの存在もあるってわけね」

「ん。でも、第一世代オリジンは魔の森から出てくることはほぼありえない。だから心配しない」

「まっ! いちいち第一世代オリジンとか系譜リネージとか呼ぶのは研究者位っすからリードくんはモンスターには強いモンスターと弱いモンスターの二種類あるって漠然と覚えておいてくれれば充分っすよ!」


 魔の森はその魔素の濃さから木々の色すら暗い色に変色しているため、間違えて入り込むということもない。

 だから、何らかの不測の事態が起こらない限りはダンジョン以外で第一世代オリジンと戦闘することはおろか、出会うことすらないため心配はいらない。

 そこまで知ってリードは念のためもう一度確認をする。


「……第一世代オリジンを倒すと死体は残らずドロップアイテムが現れるんですよね?」

「そうよ?」

「……系譜リネージでA級のモンスターの第一世代オリジンってどれくらい討伐難易度になりますか?」

「ん。特S級は余裕。特級冒険者でも負けるかも」


 一応、もしかして念のため僅かな希望を持って勘違いかもしれないと思い最後に一つだけ確認をする。


「……トロールの討伐難易度ってA級だったりしませんよね?」

「トロールって言ったらバカみたいな火力と再生力を持つモンスターで、鈍足でなければS級だと言われているくらい凶悪な討伐難易度A級の中でも上位のモンスターっすよ? それがどうかしたっすか?」

「……いえ、ちょっと気になっただけです」


 口ではそう言ったものの、それを聞いたリードは乾いた笑みを浮かべることしかできなかった。

 無言で、しかし心の中で叫んでいた。「ウェルトさん強すぎない!?」と。

 思い出すはリードが最期に見た彼女ウェルトの戦闘。

 それはトロールから己を守ってくれる彼女ウェルトの姿。

 トロールは、あの時彼女に苦戦の色を感じさせることなく討伐され、討伐されたであろう場所には灰色のローブ・・・・・・が落ちていた。

 つまりトロールは灰色のローブへと変化した。

 比喩表現や加工後の話をしているのではなく、ドロップアイテムとして灰色のローブを手に入れたのだ。

 それはつまり、あのトロールが第一世代オリジンだったということを表しているわけで……。

 

(ウェルトさんってどれだけ強かったの!?)


 今まではただ漠然とモンスターを倒す姿を見ていただけだったが、モンスターについての知識を手に入れる度に彼女の凄さが、嫌でも強さが分かってしまう。

 それと同時に、彼女と自分の間にある差も。

 もちろん、死体が残っているモンスターが大半だったのだが、記憶の中には死体が消滅してドロップアイテムが現れたモンスターの姿も残っていた。


『あのトロールからの攻撃を食らってマスターが生きていたのは奇跡でした。……とはいえ、生きていられると判断されたからこそウェルト様は助けなかったのでしょう』


 そうだ。奇跡が起きることを知っているのが彼女だ。

 だから彼女——

「——リードくん、考え事をしてるとこ悪いんだけど、そろそろモンスターと接敵するわよ」

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