第13話 一日目の終わり
ウェラリーから呆れたような言葉をかけられたが、残念ながらリードがその意味を理解することは無かった。
モンスターなどの知識を勉強していたとしても、娯楽本などを読んだことがなかったためしょうがないのかもしれない。
「ふふっ。リルったら照れちゃって。私たちは元々王都の方で冒険者をしていたんだけど、あっちは亜人に対しての差別が多くてね。だからこんなに好印象に受け取られて驚いてるのよ」
「差別……ですか?」
ユリアが続ける。
「そっ。獣人を獣交じりと呼んだりエルフをその特性と高潔さから気取ってるって言ったりね。ラビは図太いから気にしてなかったんだけど、リルはこう見えて傷つきやすい性格してるから溜め込んで思い詰めてしまったのよ。パーティ自体女のみの構成で舐められることも多かったし、充分実力もついてきたってことでヴァーグに来たってわけよ」
「ユリア、うるさい」
「えぇっ!? 自分、そんなに図太いっすか!?」
リードは亜人について知っていることを思い出す。
獣人と獣は全くの別種だし、エルフはその種族上の特性であり仕方のないことだったはずだ。
また、冒険者の数が多く、実力主義となっているヴァーグでは差別もなく——実際には差別するような者には居場所がない——比較的多くの亜人を見かけるが、この国の王都など一部の地域では差別が根強く残っている。
そのような説明をユリアから受けたリードだったが、森で育った彼には対岸の火事にしか感じられず、差別などどこ吹く風だ。
「とりあえず、採取を教える。見て」
「分かりました! 確かにエルフほど草木に詳しい人はいませんよね!」
「ん。良いから見る。薬草は根っこを残す。だけど根本が大事。すぐに生える。だけど全部は採っちゃダメ」
簡単に言うと、根っこを残して根元から採取すること。
すぐに生えるけれど、全て取りきってしまうと全滅してしまうから気を付けるようにということだ。
リルに教えられたとおりにリードが足元にあった薬草を採取する。
「っしょっと——こうですか?」
「ん。上手。したこと……ある?」
「えへへっ、そうですか? 僕、この前まで森の中に住んでいたのでこういう採取はよくやってたんです。専門のエルフのリルさんに褒められると、なんだか照れますね」
「ん。納得。一つ一つが丁寧。すごく、大事」
教えているリルも満足そうだが、リードもリルに褒められたことでとても上機嫌だった。
こういった採取という行為をリードは森で毎日のように行っていた。
しかし、採取していたものは薬草ではなく野菜などの植物だったが。
とても贅沢なことだが、リードは、どんな怪我でも回復魔法で治してしまう
「なんだ。採取はできるのね。まぁ付け加えるのなら補足として、採取依頼は品質で報酬が変化するから丁寧に仕事をするようにすることくらいよ」
「確か、回復薬の効力は乾燥の丁寧さ一つでも効果が大きく変わるんですよね?」
「ん。正解。リード、詳しい。ハンナに聞いた?」
「まぁそんなところです」
実際は薬草についての本を【
自分が教えるはずだったところを知っていたからか、元からその予定だったのかは分からないが、リルは薬草以外の草についての説明をしはじめた。
例えば魔物避けとして使われている植物や水を貯めこむ性質のある木など、冒険者として活動するにあたって必要になってくるであろう情報を説明してくれている。
本では知ることができない冒険者としての生きる知恵にリードは関心し続けることしかできない。
しばらくして、ユリアが熱中している二人に声をかける。
「それじゃあ、キリがなさそうだし、採取についてのレクチャーはそろそろ終わりにするわね。リルもいいわよね?」
「ん。まだまだあるけどいい」
「ありがとうございましたっ! 森に住んでいたのに知らないことだらけで驚きました」
「ん、当然」
まだまだと言ってはいるが、リルの雰囲気はとても満足気だ。
自分の教えたことを次々と吸収してくれることが嬉しいのだろう。
「じゃあ明日は。モンスターの討伐をしてみようか。ふふっ。きっと驚くことがあると思うわよ」
「驚くこと……ですか?」
「そっ。ま、詳しいことは明日になってからのお楽しみね」
ふふふっ、とユリアが妖艶に笑う。
リードは自分の顔が赤くなっていることに気がついてバッと目を逸らした。
「え、えと! 明日の集合はどうすればいいですか!?」
「ふふっ。そうねぇ……。時間は今日と同じで良いとして、場所は南門の前にしようかしら? でもまぁ、詳しい話は街に戻りながらしましょうか」
「わ、分かりました!」
こうして冒険者としての勉強の一日目は順調に終了した。
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