第14話 英雄の凱旋
「何だか人が今日は多いね」
『そうですね、マスター。ですが、どちらかというと何かを待っているという感じの人が多いような気がします』
「そうだよね。何かあるのかな?」
いつもとは違う町の様子に少し疑問を覚えたが、ユリアたちに聞けば解決することだと判断して南門の方へと向かう。
時刻は昨日より二刻ほど遅いくらいで、昨日のように早すぎるといったこともないため時間を持て余すこともないだろう。
もっとも、馴染んだ生活習慣は中々直せないもので、今日もリードは始まりの鐘と共に起きていたが。
「おはようリードくん。昨日はしっかりと眠れたかしら?」
「ユリアさんおはようございます! しっかりと眠りました!」
「そう。それは良かったわ」
ユリアは妖艶に笑う。
実際のところ、モンスターと戦うということが楽しみで中々寝付くことができなかったが、布団に入る時間自体がとても速かったため睡眠時間に支障はない。
全体的に少し後ろにずれただけなのだ。
時間通りに門の前に来たし、モンスターの討伐に出発するのかと思ったが、リルとラビが居ないことに気が付いた。
「あの、今日はリルさんとラビさんはいないんですか?」
「二人には場所取りを頼んでいるのよ」
「場所取り……ですか?」
リードは聞きなれない単語を聞き返す。
「ふふっ。何のことだか分からないっていう表情をしているわね? とにかく付いてきなさい。すぐに分かるわ」
「あ、ちょ、待ってください!」
『調べてみたところ、今日行われる祭りの類はありませんでした』
(いつの間に調べたんだ……。とりあえず着いて行けば分かるのかな?)
いつもより明らかに人が多い街中を、更に混んでいる方向目指して二人は進み続ける。
ユリアの後を追ってたどり着いたのは、丁度表通りを見渡すことができそうな場所にある人だかりの中でポツンとできている、大人が数人ほど入れそうな隙間。
そこで席を確保しておいてくれたのだろう。そこには先客が——すなわちリルとラビが——待っていた。
「おうお疲れー! 二人とも遅かったっすね!」
「ん。遅い。もう来る」
「ごめんごめん。ただ単純に道が混んでたのよ」
ユリアに促され、リードは確保されていた席に座る。
「……今日は、何かお祭りとかがあるんですか? いつもより人通りも多いし、なんだか屋台の数も——いえっ! 僕はこの街にきたばかりなので勘違いかもしれないんですけど……」
「あれ? ユリアはリードくんにまだ教えてなかったっすか?」
「付いてきたら分かるって言ったのだけど、この様子じゃあ分からなかったみたいね」
そう言われて、もしかしたら有名な行事だったりするのかもしれないと思い頭を振り絞ってみたが、残念ながらつい最近まで森で暮らしてきたリードには見当もつかなかった。
ウェラリーもいつの間にインストールしたのか″フローレンス王国の伝統″という本を片手に持っているが、分からないと言いながらリードの視界内を飛び回っている。
残念ながらリードもウェラリーも本に載っていない知識は分からないのだ。
その様子を見かねたのか、リルが言う。
「ん。祭りに近い。少し違う」
「少し違う……ですか?」
「ん。英雄の凱旋。祭りみたいなやつ」
「なるほど……?」
教えてくれたは良いものの、残念ながら今の少ないキーワードでは理解することはできず、更に頭を悩ませることになった。
リードが理解していないことに気がついたラビが更に補足説明をする。
「リル、それじゃ全く伝わってないっすよ。英雄の凱旋というのは特級冒険者達が魔の森の未開拓領域から帰ってくることっす。未知だらけの魔の森で危険なモンスターや貴重な素材、そして未知のものを持ち帰ってくるんすよ」
「と、特級冒険者ですか!?」
「さすがに特級冒険者は知ってたっすか」
——特級冒険者
それを一言で表すのなら、最も英雄に近い人たちだ。
その実力は文字通り一騎当千で、冒険者の中で最高ランクの称号を持つ人々の
リードが読んだ英雄譚でも、英雄たちは全員揃って特級冒険者だった。
リードの
特級冒険者はまさに最強の集まり。
自分の目指す者たちを見ることができる、そう考えると興奮を抑えることができなかった。
「特級冒険者は私たち冒険者の憬れであって目指すべき目標。それと同時に冒険者ではない街の人の憬れでもあるのよ。だから
「お、驚いたってもんじゃないですよ!」
「そうっすよね! 自分もこの街に来て初めて見ることができたっすから感動したっすね——っと、門が開きはじめたっすね! リードくんも門を見るっすよ!」
南門の方を見ると、ゆっくりとその門が開かれていき、それと同時に歓声が大きくなっていく。
その歓声は、門から人が見えた瞬間に最高潮に達した。
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