第7話 誓いを胸に

「つまり、これは【管理人ライブラリアン】の機能の一つで司書モードっていうやつなんだね?」

 

『正確には【世界図書館ワールド・ライブラリ】の中に統合された機能である【管理人ライブラリアン】の機能の一つです、マスター。そのため、対外的に見るとマスターの異能は【世界図書館ワールド・ライブラリ】一つです。そして、司書モードは【世界図書館ワールド・ライブラリ】の発動を簡潔に円滑に進めるための機能であると共に、セーフティ装置です』

 

 つまり元々あった異能である【管理者アナウンス】はもう存在していないらしい。

 だが、その代わりに発現した【世界図書館ワールド・ライブラリ】の中に【管理者アナウンス】より優秀な【管理人ライブラリアン】ことウェラリーが存在していると。

 徐々に混乱してきた。

 そしてまた聞きなれない言葉が出てきた。

 

「セーフティ装置って何? というか、【世界図書館ワールド・ライブラリ】の効果すらよく分かってないんだけど、その説明ってして貰えるの?」

 

 通常、異能の能力というものは、生まれてすぐに調べられる。

 だが、捨てられたせいで能力が不明だったリードの場合は、ウェルトの魔法で【管理者アナウンス】の効果を教えてもらった。

 隠された能力も特殊な効果も無く、調べるまでもなかったことだが、ウェルトはリードの能力のことを「未完成だ」と言っていた。

 その時は具体的なことを教えてくれなかったが、多分、【管理者アナウンス】は【世界図書館ワールド・ライブラリ】が発現して初めて役に立つようになる異能だったのだろう。

 といっても、【管理者アナウンス】が全くの役立たずだったと言いたいわけではないが。

 とにかく、彼女は効果を調べる魔法を使うこともできたし【未来視眼ヒューチャーアイ】で効果を視ることもできた。

 だが、リードはその魔法を使えないから自力で知る方法は地道に検証するしかない。

 だから、ウェラリーが教えてくれるならそれに越したことは無い。


『では、まず【世界図書館ワールド・ライブラリ】の効果から説明します』

「おおっ!」

『【世界図書館ワールド・ライブラリ】とは、現存紛失関わらず、この世界に一度でも存在した事実がある本を全て収めた図書館を利用する能力です。本はある程度分類が決められており、"自由な職業選択ガイド"や"ぼっちから始める友達作り! 人付き合いに必要な百のこと!"はその中の普通図書に当たります』


 普通図書。

 その意味を考えて、驚きすぎて言葉が出てこなくなった。

 学のないリードにも分かってしまった。

 もしも、リードが考える通りの能力がこの異能にあるのだとしたら、この能力は想像もつかないくらい凄いものだ。

 この普通図書というものだけで大抵の知識は手に入るだろうし、それどころかもう誰も知らないような知識まで手に入れることができるのだ。

 そして、リードは自分の予想を確かめるべく、ウェラリーに問う。

  

「……その、分類は他にはどのようなものが存在するの?」

『はい。本の種類は主に三種であり、申請するだけで閲覧可能な普通図書と専門図書、そして申請理由が正当だと判断されると許諾が降りて閲覧可能となる魔導書が存在します』

「魔導書……!」


 リードの予想は当たっていた。やはり、この能力は凄まじい。


——魔導書

 それは、魔力を流すことでそこに記された魔法を必ず使うことができるというまさに魔法の書物。そして、魔導書に記された魔法を繰り返し使うことでやがて魔導書無しでも使えるようになる古代遺物アーティファクト

 魔導書の数は魔法の数だけ存在したと言われているが、その作り方は大昔の大戦により失伝してしまっており、今は残されたものや古い遺跡で発掘されたものを求めあう状況だ。

 

 魔法というものは、魔力と才能さえあればだれでも使用することができる武器だが、魔導書には才能という壁は存在しない。

 多すぎる魔力を持て余し、だけど魔法の才能が皆無なリードが唯一魔法を使うことができるようになる方法、それが魔導書を使用することだった。

 余談だが、ウェルトは魔導書の作り方を知っていたが手順がかなり複雑で面倒らしく数冊試しに作って辞めたらしい。

 ウェルト曰く、「あれは魔法バカが後世に自分の成果を自慢するためだけの物」だと。

 そんな話は置いておいて、今はウェラリーだ。ウェラリーはリードの反応を見てか一つの提案をする。


『試しに、魔導書を一冊インストールしてみますか?』

「良いの!?」

『大丈夫ですよ。使ってみたい魔法などはありますか?』

「じゃ、じゃあ一応森だから火はダメだから……無難に【水球ウォーターボール】で!」

『マスターによる魔導書【水球ウォーターボール】に対する申請確認。申請理由をお願いします』

「え? え、えっと、水が飲みたいから?」

 

 ただ魔法を使いたいだけだったが、さすがにそう答えるのも気が引けたので、それらしい理由を上げてみた。

 まぁ、思い返してみればリードは昨日からずっと水を飲んでいないわけだし、喉がかなり乾いているという状況は嘘ではなかった。

 こんな適当な理由じゃさすがにダメかと思っていたが、何の危険もない【水球ウォーターボール】だったからなのかは分からないが……。


『申請許可。魔導書【水球ウォーターボール】をインストールします』

「おおおっ!」


 先ほどと同じように、リードの前に光が集まりはじめる。

 先ほどと違うところを上げるなら、集まっている光が紅い色をしていることくらいだろう。

 だが、やはりその光は先ほどと同じように本の形へと変化していき、紅色に淡く光る本が現れた。


『インストール完了』


 シンプルでデザインも装飾もタイトルすらも一切存在しない無骨な本。

 だが、その本を手に取った瞬間に分かってしまった。——これは【水球ウォーターボール】の魔導書だと。

 リードは、無我夢中でその本に魔力を流した。


「っっ!? これは……!」


 分かる。

 リードには分かった。

水球ウォーターボール】の使い方が。

 魔力変換、必要魔力量、浮かべるべきイメージまで全てを理解した。

 興奮のまま、全能感が溢れるままリードは叫んだ。


「【水球ウォーターボール】! ははっ、やった……。やった……! 魔法だ、僕の初めての魔法だ!」


 虚空に現れた水が飛んで行って木にピシャっと当たった。見る人が見たら殺傷能力どころか攻撃性も皆無なだけの魔法だろう。

 だが、リードにとっては憧れていた初めての魔法。

 憧れのあの人の憧憬が一瞬見えるような、そんな出来事。

 胸の中を感動が高揚感が、全能感が埋め尽くしていた。それは、リードの手から魔導書がポロリと落ちて光となって消えたことに気がつかないほどに。


『おめでとうございます。マスター。魔導書はマスターの管理下を離れたため自然崩壊しました。正規の手続きでインストールした魔導書は次からは申請無しで呼び出すことが可能です』

「これが……僕の異能……」

『まだ、自分がどうすればいいのか、分からないままですか?』


 ウェラリーにそう言われハッとする。


——君は私を超える


 思い出すのは昨日の光景。

 彼女の声が鼓膜を打つ。

 そうだ、僕は誓ったんだ。

 己に、彼女に、世界に。

 どうすればいいのかじゃない。僕は、ならなければいけないんだ。最強に、英雄に。

 今一度、打ち立てた誓いを口に出す。

 僕はどうすればいい。


「僕は最強になる!」


 それはなぜ。


「彼女の、ウェルト・プロッシモの弟子だから!」


 ならば具体的にはどうすればいい。


「衛兵でも商人でもない。自由と名声を求める職業、冒険者になる!」


 これが僕が進む

 今はまだ、彼女の背中すら見えない。

 今はまだ最弱リードかもしれない。だけど、最強リード・プロッシモになるための武器は手に入れた。

 まずは街を目指そう。

 一から始めよう。彼女が言っていた通り慢心はしない。

 自分のペースで進み続けよう。


『冒険者になるに対して、"冒険者の心得! 規則編!"がオススメです。インストールしますか?』

「……」

『インストールしますか?』


 コテンと首をかしげながらウェラリーが聞いてくる。すごく可愛いけど……。

 

「あーもう色々台無しだよ! インストールするけど!」

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