終章 「古き英雄」からの警告

第50話 女王陛下VS優美 女の闘い


 ――オルメス王城にて。

 一つしかない玉座ではなく玉座の前にある三段ある階段に隣通し並んで腰を下ろし、先程とは打って変わって楽しそうにお話しする二人。


 男でありながら、赤紫色の長髪が特徴的な影。

 白い肌と茶色の長い髪、とても豪華に見える服装の女王陛下。


 何を隠そう――この二人は――何だかんだ――昔からとても仲が良い。


「だから、ゴメンってば。俺だってあの時は護りたい物があったんだって」

「だったらそう言ってよ。あの時、唐突な事に冷静さを失った私は影に嫌われたと思ってとても辛かったのよ? せめて、今生きている人間と街だけでもと思って言った言葉が裏目に出るとは思わなかった」


「あはは……」

「こら、笑って誤魔化さないで!」


「それにしても遥また綺麗になったね。三年見なかった間に大人びてる」


 顔を赤面させて、喜ぶ女王陛下――本名。峰岸 遥(みねぎしはるか)。

「えへへ。ありがとう」


 女王陛下の扱いに限って言えば影は超一流である。

 だがそれはお互いの事をそれだけ理解していることでもあり。

 つまるところ信頼関係がしっかりと出来上がっている事実でもある。


 そんな二人を見て――

「いいなぁ~。私もあぁなりたい」

 と、タイミングを見計らい戻って来た優美が呟いた。


 今は少しずつ、二人の喧嘩が終わっただろうと思ったのか、逃げ出した兵たちが玉座のある一室に戻って来ている途中だった。

 周囲を見渡し、徐々に皆が戻って来ている事に気付いた影の視界にふてくされた優美が見えた。


 このまま連れて来て放置も可哀想なので手招きをして呼ぶ。

 すると、飼い主を待っていた犬のように、嬉しそうにこちらに小走りで来た。


「は……じゃなくて女王陛下が優美と少し話したいんだって」

 危うく女王陛下の本名を言いそうになった。

 女王陛下は本名を世間に公開しておらず、知っているのは総隊長以上の職位にいた者だけである。これはオルメス国の事情が関係していたが今は関係ないので流しておく。


「影から事情は聞いた。だけど、本当にいいの?」

「えっと……なんのお話しの事ですか?」


「影のパートナーとしてこれから戦場で戦うって話しよ。こう言っては失礼かもしれないけど、優美さんはノーブルイヤン街統括の娘。誰が見ても令嬢であり、本来であれば何もしなくても一生食べていけるだけの財を既に持っているはずよ? それなのにわざわざ戦場に出る必要あるの?」

 女王陛下の言う通りだと影は思った。

 よくよく考えて見れば、優美は令嬢で本来であれば戦場とは無縁の生活を送る事だって出来る。

 わざわざ、身を危険にさらしてまで戦場に出る必要はない。


 そんな影の心配とは別に、優美の答えは。

「あります」

「理由を聞いてもいいかしら?」


「はい。そこにいる影の存在があまりにも凄かったからです。人類では魔人に勝てないと実感した日、影はそんな事は知らないしまだ負けてないでしょと言いたげに戦場に出て戦っていました。そして、あろうことか勝ちました。あの日の出来事が私の全てを変えました。だから、見て見たくなったんです」


「なにを?」

「影が望む理想の世界を。それも影の隣で」


「そう。なら頑張りなさい」

「ありがとうございます」

 お礼を言い、二人から距離を取ろうとした優美を女王陛下が止める。


「待って。話しはまだ終わってないわ」

「えっ……あっ、はい?」



 ――この瞬間、影の直感が嫌な予感を感じ取る。

 何事も起きなければいいがという願いを心の中で祈りながら。

 女王陛下と優美のやり取りを静かに見守る。

「一つ教えて欲しいんだけど。何で、貴女そんなに影に馴れ馴れしいの?」

 ――と、影にはよく分からない勝負のゴングが突然鳴り響いた。


 二人が目に見えない火花を散らす。


 影には何も言わなかっただけで、優美は優美で心の中でモヤモヤした感情があったらしく何処か好戦的だった。


「影が良いと言ったからです。何か問題でも?」

「会って間もないのに?」

「そうです」

「とりあえず同居は止めなさい。影に迷惑よ」

「影が認めた時点で何も問題はないと思いますが?」

「貴女自分が女だって自覚あるの? 私の影がもし貴女のせいで間違いでも起こしたらどうするのよ?」

「その時は、責任を取って結婚します」


 凄い勢いで話しが進む。

 流石の影もこうなってはどうする事も出来なかったので黙って見守る事にする。


 ただ、本心では。

『絶対に不祥事は起こさないからね! 後責任って俺が過(あやま)ちを犯す事を前提に話しをするの止めて!』

 と思っていたが、今口を挟めば火に油を注ぐ気がしたので心の中で留(とど)めておく。


「結婚って、それは影が相手を決める事よ! 一時(いっとき)の迷いで私の影を不幸にさせないで。影が可哀そうよ」

「影の事を信用してないんですか? もし影が私に手を出すときはその気がある。そうゆう事でいいんじゃないですか?」



 急に訪れた沈黙。


 ……。

 …………。


 女王陛下と優美の視線が影に向けられる。

「い、いや、待って! 俺、ま、まだ、そ、その、結婚とかは考えてないから!」

 身振りを添えて、影が答える。


「なら、別に良いけど……」

「影のバカぁ……そこは嘘でも私を選んでよ……」

 と、女王陛下と優美がそれぞれ口にする。


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