第35話 陣頭指揮 7


 ――と、拠点の攻防線において重要な役割を持つ主砲と旧主砲をそこら辺の消耗品程度にしか考えない指揮官に、通信兵はおろか、副指令と哲也まで目を見開く。


 それ以前に……。


「ちょっと待ってください! 主砲や旧主砲といった高火力魔力兵器なしでは――」


 ――と心配する副指令に、影は呆れたような表情で。


「何言ってるの? 絶対に勝つよ」


 それが当たり前かのように。

 平然とした態度で。


「良く見てみなよ」

 影がモニターの一つを指さす。


「いい? 優莉が戦場に出てから相手の魔力障壁は四十一パーセント減少した。それに対してこちらは五十パーセントまで出力を落としてから七パーセントしかまだ減少してない。つまりこのまま攻撃を続ければ勝てる」


 文句があるなら言ってみろと言わんばかりの言葉。

 実際、その通りなわけで。

 全ては影の思い通りに事が進んでいるわけで。

 つまり、一見無謀に見えて理にかなっている。ならば――


「ゴクッ――全ての魔力兵器の出力を限界まであげろ。安全装置を外して構わない。壊れたら壊れたでその時だ!!」


 覚悟を決めたように副指令が大声で叫び通信兵に指示する。

 つまり、影の短期決着に賛同したわけで。

 ならば影としても、この好機を逃すわけにはいかなかった。


「面白い。全員敵を見ろ。こちらの攻撃にビビった魔人が後手に回り始めた。この好機絶対に逃すな!」


 立ち上がり手振りを交えて、皆の士気をあげる為気合いを入れて演技しながら叫ぶ。


「前線で頑張る味方部隊を消耗品かのように援護する素振りしか見せない奴が指揮官? 笑わせるな。 指揮官とは、勝利を勝ち取る事だけが仕事ではない! 指揮官とは兵を正しく勝利に導く事が出来る者だ! さぁ、チェックメイトだ、黒の剣士! 全砲門一斉射撃、フルバースト!!!!」


 ――相手の行動を利用して味方の士気を高める戦術。

 敵、味方関係なく全ての行いが影の次の一手に繋がる。


 そして、攻撃の手を休め防御に全力になる魔人の拠点――ひいては黒の剣士。

 オルメス国に手を出した罪と言わんばかりに追撃の雨が降り注ぐ。


「拠点が攻撃の手を休める、すなわち劣勢を認めた時、戦場で戦う兵士の心の多くは崩れだす。そして、魔術原書相手にそれは更なる悪手となる!」


「――っ?」

 哲也が違和感を覚える。

 影だからこそ出来る戦術を哲也は知らない。

 オルメス国最強の男を絶対に甘く見てはいけない。


「悪を掻き消せ。破壊光線銃!」

 いつの間にか戦場に出現していた魔法陣――夜空に浮かぶ白く巨大な。それは、巨大隕石からオルメス国を護った魔法陣だった。神々しく夜空を照らしながら光り輝き裁きの鉄槌(てっつい)をお見舞いする。


 ドガーーーーン!!!!


 凄まじい轟音そして爆炎と衝撃波が魔人の拠点を襲った。

「力が全て、力なき者を力で従わせる、まぁ悪くはないがその力がメッキだとしたなら、はがれた時そいつはどうするか――答えは一つ。その力が偽物ではないと証明するしかない」


 普段、何処か優しく甘い影。

 だが、そんな影も戦場に立てば鬼となり修羅となる。

 近くで見ていた者達は気付けばたった一人の男に魅せられていた。



 ――そんな影の期待に応えるように。

 優莉から司令室にいる影に連絡が入る。

「影様、敵前線部隊逃亡を開始しました。どうやら拠点と司令官、補佐官を失い指揮系統に乱れが生じたようです。ご命令を」


 影がモニターを見て。

「優莉命令だ! 隣にいる優美と精鋭大隊一つを連れて魔人の残党を殲滅しろ。残りは美香を中心に負傷兵を連れて一旦こちらに戻れ!」

「かしこまりました。では私達は残党を制圧しながら敵陣を攻めます」

「わかった」


 この瞬間、司令室にいた全員が影を見る。

 本当の影を知らない者達は当然知らない。

 ――過去、総隊長影が指揮官を務めた戦はただの一回も例外がない。

 そう、ある二文字がいつもなかったのだ。

 ――敗北という二文字。あるのは勝利の二文字のみ。


 敵残党を蹴散らしながら拠点に向かう優莉と優美を見て哲也が心配そうな顔をしてモニターを見つめる。影は優美を見て、総隊長優莉の実力に圧倒されるどころかしっかりと援護する優美を見て感心する。まさか守護者以外に優莉の実力にしっかりとついて来られる者がいたとは正直思ってもいなかった。

「まさに天才少女だな。剣だけの才能なら守護者を超えている「白き剣星」いい名だな」

 優美の白い剣が戦場で舞い踊る。

 それはとても美しく、洗練された剣術。

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