第36話 優莉と優美の共闘



「「――はぁぁぁぁ!!!」」


 優莉と優美の雄たけびが司令室に聞こえる。

 その雄たけびを聞いて影が立ち上がる。


 二人が雄たけびをあげ気合いを入れて立ち向かっている相手――黒の剣士。

「あれは、遠距離攻撃を得意とする上位魔人(レベル六)のユロ。まさか、護衛に上位魔人(レベル六)を付けていたとはな。杏奈にはうまく隠していたのか」


 すると、副指令が何かを諭(さと)すように言葉を紡ぐ。

「どうされますか?」

「半壊状態となり、まともに攻撃すら出来ない拠点等もはや脅威ではない。副指令?」

「はい」

「後は任せる。徹底的につぶせ。出来るな?」

「かしこまりました」

 頷く副指令。

 影がモニターで状況を確認する。

「やはり大隊一つで高位魔人と上位魔人(レベル六)相手では分が悪いな」

 そう言い残し影が戦場に向かって歩き始める。


 突然、影の魔力感知そして司令室の機器に感知された二つの巨大な魔力反応。その魔力反応からすぐに黒の剣士とユロの者だと戦場にいたほぼ全員が気付く。


 総隊長優莉と影のパートナーとなった優美はそんな強敵相手に連携を取りながら戦っていた。優莉と優美の近接攻撃を黒の剣士が、優美の魔法で出現した機関銃とユロの遠距離魔法が前線で戦う者をそれぞれフォローしていた。


「ふん。女では俺の剣に届きはしない。それにユロのレールガン。仮に一発でもまともに受ければお前達程度では大ダメージになる。そうなれば、お前達の負けだ」

「優莉様はともかく私だとそうなるわ。でも、勘違いしないで。私達は一人じゃないわ」


 優莉が大声で叫ぶ。

「第一中隊、第二中隊は中隊長を中心にユロの遠距離攻撃を潰しに行きなさい。残りは私の援護! 優美さん行くわよ!」


 優莉の指示を聞いて皆が素早く動き始める。

 そう――これはゲームじゃない。

 命を懸けた戦争だ。

 敵の大将を倒すまで闘いは終わらない。


 黒の剣士が使う補助魔法――MAGIC POWER(魔力攻撃)。これは他の魔法を全て使えなくなる変わりに自身の魔力を全て身体能力向上に使う補助魔法である。体内にある魔力を全て能力向上に回した黒の剣士は圧倒的に強く優莉と優美の剣ですら届かなかった。


 だがそんなものにも弱点は必ずある。

 そして、そんな弱点に二人は気付いていた。

 即ち、魔法攻撃はないこと。

 こちらの魔法攻撃は格上相手に通用しなくても相手は相手で魔法攻撃はない。

 つまり、相手の剣筋さえ見切れば負けはない。


「今よ! 全部隊一斉攻撃!」


 優莉と優美が態勢を崩し一瞬怯んだ隙を黒の剣士は見逃さなった。

 しかし、こちらには仲間がいる。

 目くらまし程度でも構わない。


 そう思い優莉が味方部隊に指示する。


 優莉と優美は乱れた息を整える為に一旦後退し、気持ちを落ち着ける。

「息一つ乱さないとはやはり強い」

「……はい。優莉様申し訳ございません。連戦で魔力がもう殆ど残っていません。機関銃の援護射撃を止めてもいいですか?」

「……えぇ」


 拠点どうしの攻防戦は見るからにこちらが優勢で後数分もすれば決着が着きそうだった。

 今も止むことを知らない魔力兵器による猛追に敵拠点は最早反撃する力はないように見えたが、戦場はまだまだどうなるかわからなかった。後一歩のところで立ちはだかる二人の魔人によって止められていた。優莉と優美が横目で見ると、逃げ出した魔人たちがユロの指示で部隊を再編成し反撃の準備を始めていた。


 大隊一つでは明らかに戦力不足だった。


 ……マズイ。

 …………このままでは。

 ………………大隊を失い、戦況が変わる。


 表情こそ出さないが優莉は内心大きく焦っていた。

 敵は最早逃げることしかできず、敵は黒の剣士だけだと思い込んでいた。

 ――先日、自分達の調べだけでは気付かなかった事に影の力を借りて気づいた。だけど、それが全てだと頭が勝手に思い込んでいた。影が魔術原書なら黒の剣士は高位魔人(レベル七)である。落ち着いて考えてみれば、駆け引きの軍配は五分五分ではないか。


 油断した――どうする? 

 後方から美香を呼ぶか?

 それでは間に合わない。


 ……マズイ。


 敵はこちらと同じ一本柱ではなかった……。

 幾つにも張り巡らされた戦術……。

 敵が追い詰められ、冷静さを失った時……。


 即ち、敗北の二文字を頭が実感した時、乱心し仲間を力で支配し道具として扱い死を前提とした特攻を仕掛けてくる可能性がある。

 そして、闘いの中一つわかった。黒の剣士とユロにはそれが出来る。


「――全軍、今すぐ後退しなさい!!! 部隊の再編成が終わり次第、自滅を前提とした特攻を仕掛けてくるわ!」


 優莉の判断でその場にいた全員が攻撃を止め、一斉に後退を始める、しかし。

「ほう。良い判断だ。こちらの最後の作戦を見抜くとは流石はオルメス国の総隊長だな」


 余裕を見せ付けるように黒の剣士が剣を肩に担ぐ。

 補助魔法を解除する黒の剣士。

 黒の剣士が持つ剣に大量の魔力が流れ込む。


「覚えておくといい。俺を前に雑魚が固まるとどうなるかを」

「……しまった」

「……あれは?」


 戦場が騒然とし、優美までもが危機を感じとる。


「聖剣エクスカリバー!!!」


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