第30話 陣頭指揮 2


 ーーゴクリ


 一回小さく深呼吸をして、

「各部隊長、敵におくれるな! 返り討ちにしろ! 後方支援隊は遠距離魔法と補助魔法(自動回復魔法と身体能力強化魔法)で前線部隊を支援!」

 と、叫ぶ。


 平然を装っているが影の手は緊張で汗をかいていた。

 一斉に動き始める両軍。


「魔力弾頭ミサイル一番から十番敵拠点向けて撃て!」

 魔力弾頭ミサイルのハッチが開かれ敵拠点に発射される。


「副砲十機は防衛、五機は敵拠点攻撃、二機は前線部隊の援護、旧主砲は臨界点まで充填急げ。主砲は急速充填!」

「かしこまりました」

 当然、こちらが攻撃を始めた時点で敵も黙っているわけがなく攻撃をしてきた。


「影様?」

 影の僅かな変化に気が付いたのか、心配そうに尋ねる優莉。


「大丈夫」

 影が返事をすると優莉がほほ笑んでくれた。


「副砲十機で魔力弾頭ミサイルの迎撃を開始します」

 兵士の言葉に全機合わせて秒間数万発の魔力弾が連射される。

 魔力弾は魔人達がこちらに向かって打ってきた魔力弾頭ミサイル十発の迎撃を開始する。


「何をしているのですか!? 副砲の半分を防衛以外に使う等、司令室を攻撃してくれと言っているようなものです!」

「んっ?」

「前線部隊の支援は今すぐ止めて防衛に専念すべきだと言っているのです」


 何処か慌てて影に抗議する哲也。


 影がモニターから視線を哲也に移す。

「何故です?」

「何故って、それは司令室が落ちたらこの戦い負けるからです」


 息を荒くして抗議する哲也を見た影は鼻で笑う。

 僅かな視線の動きや異常な冷や汗から影は哲也が死ぬことを必要以上に恐れているように見えた。

「なら聞きますが本当にそう思っているなら、なぜ落ち着いて私にそのことを言わないのですか?」

「それは……」

「本当は死ぬのが怖いのではありませんか?」

「……」


 影は震える手を隠しながら、

「私も死ぬのは怖いですよ。でも、私にも護りたい人がいます。何よりこの国を護りたいと思っています。だから、戦場に戻ってきました。その為なら、例え女王陛下や可愛い部下である優莉達全員を敵に回してでも私は私の護りたい者の為に戦います。だから、ある程度のリスクは承知してます。もし本当に怖いのでしたら逃げて構いませんよ。優莉達には私が許可したと言う事で女王陛下には報告させますので」


 死ぬのは誰だって怖い。

 それは人類の希望と呼ばれ三年前大活躍した『古き英雄』も同じだった。


「そうですか……」

 哲也がどうして言いか分からなくなったのか椅子に降ろした時だった。

 迎撃が間に合わなかった敵の魔力弾頭ミサイルが司令室を直撃する。


 司令室に魔力弾頭ミサイルが直撃し、余波が司令室全体を襲ったが各兵器にも被害はなかった。


「障壁八パーセント低下、主砲、旧主砲充填完了しました」

「良し。旧主砲上空に向けて撃て! 標的は魔力弾頭ミサイル並びに魔力弾」

「敵主砲こちらに向けて打ってきます!」

「敵主砲射線軸の逆算急げ!」

「はい」


 通信兵が影の指示を聞いて、急いで行動する。


「影様、急いで司令室の障壁レベルを最大にしないと」

「落ち着け優莉。そんな事をしても魔力の無駄だ。それに障壁は一度損傷したら回復出来ない。馬鹿正直に敵の攻撃を受けていたらこの戦い負ける。敵の主砲はこちらの主砲よりはるかに性能が高い。とても主砲一機同士のパワー勝負なんてしたら一瞬で負ける」


「しかし……」


 ここで優莉が影の考えに気づいたように顔を覗き込む。

「まさか!? そんなの無茶です! 幾ら影様とは言えそんな無茶は……」


 現代魔法が当たり前の時代に古代魔法を使う常識外れ。そして、世間が最初は馬鹿にして笑っていた『常識外れ』だと。そこから英雄までなった者は世間の常識を知っておきながらそれを無視する知性を持っていた。誰よりも強く優しく、だけど何処か臆病な影は自分をペテンにかける事で強者を演じていた。そんな誰もが思いついても失敗した時のリスクが高すぎることからしないような芸当を、そして強者しか出来ない芸当を今しようとしていたのだ。

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