第34話 陣頭指揮 6
だが、まだ影の指示は終わらない。
今度は戦場にも言葉を届ける。
「全員よく聞いて欲しい! 俺は三年前優莉に全て後の事を任せて戦線を離れた。だが、それは間違いではなかったと思っている! お前達はどうだ!? この戦は――誰の為の戦だ? ノーブルイヤン街が魔人の手に渡れば王都が滅びるのも時間の問題だろう。そうなればお前達の家族、友人、恋人、友も死ぬことになるだろう。だから、よく聞いて欲しい! 今一度自分の胸に手を当て考えるんだ――」
影の気迫籠った言葉はまだ続く。
「拠点は元総隊長の影が必ず落とすと誓う! ならば戦場の敵は誰が倒すっ!」
「なに……この演説……。兵士たちの魔力反応が増大してる……」
司令室の機器が味方部隊の魔力反応が増大した事に反応する。
魔法を使わず、仲間を強くする影に副指令はどう反応していいか分からない。
腰下まである薄紫色の髪を揺らし、優莉が影の言葉に影響を受け、上級魔法を使い敵司令官の一人を早くも倒す。近くにいた味方部隊に負傷した第一部隊を救護班の所まで運ぶように指示をしていた。一連の流れをモニターで見ていた副指令は一体戦場でも何が起きているのかがよくわからなかった。
「まさか総隊長自ら、優美さんと交戦中の司令官と補佐官も倒しに行くつもりなの……」
つい息を飲み込む副指令。
だがこれで終わりではない。
「俺はお前達を信用している。お前達はどうだ? 俺を信用しているか? 優美! 優莉! 俺はお前達の願いを叶える! だったらお前達はその対価としてそれに見合う働きをしろ! 他の者達はどうだ? 勝利の美酒が欲しければ、死に物狂いでこの戦況を変えて見せろ! 人類の底力を見せてみろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
『ウォォォォォォォォォォォォォォ!!』
――と雄たけびが戦場のあちらこちらで響き渡った。
そしてすかさず、通信兵に指示を出す。
「主砲三番撃て! 前方から飛んでくる魔力弾、魔力弾頭ミサイル、砲撃は全て旧主砲三機で焼き払え!!!」
前方からの攻撃を力でねじ伏せる影。
こちらの主砲の攻撃が敵拠点に直撃。
だが、まだ終わらない。
「主砲一番二番充填率三十パーセントでいい――敵の攻撃を焼き払った。撃て!」」
迎撃が間に合わない上空からの攻撃が司令室を襲うが魔力障壁の残量を計算して余力があるうちは無視する影。
「んな、敵拠点の魔力障壁の余力が!?」
爆炎がはれ、視界が戻りモニターを見て驚く哲也。
影が演説している間、そして今も続く攻撃に敵拠点の魔力障壁はどんどん削られていた。
「この魔力反応……、影様! 敵主砲八秒後来ます」
こちらは全力で攻撃を続けており、魔力障壁も敵主砲の一撃をまともに受けられるだけの余力を残していなかった。
それでも、影は不敵に笑みを浮かべ落ち着いていた。
「主砲、旧主砲急速充填!」
「充填共に八秒必要です。間に合いません」
「構わない。全て五十パーセントでいい。相手の射線軸計算急げ」
「はい!」
通信兵の慌てよう等一切気にせず影は影でやるべきことをする。
次の一手をどうするかを考える。
「計算終わりました」
モニターに表示された敵主砲の攻撃予測ラインを見て、
「良し、主砲一番二番、旧主砲一番二番を少し下にあたるように調整しろ」
「かしこまりました」
敵主砲が発射された。
対してオルメス国も影の指示通りに迎撃にうつる。
影が歴史に新たな戦術を刻む。
――本日二度目の奇跡。
オルメス国の主砲、旧主砲による連携攻撃が敵主砲の攻撃を押し上げる。そして、オルメス国の司令室を攻撃する為に発射された攻撃を全て迎撃した。敵の攻撃を敵の攻撃を使い回避する。そんな誰にも真似が出来ないような芸当を影が当たり前にした。
驚きを隠せない通信兵に影が更に指示を出す。
「主砲三番、旧主砲三番共に六十二パーセントでいい。撃て!」
追い打ちを次々と仕掛けるオルメス国に戦況は再び有利な物へと変わっていく。
モニターの一つが主砲、旧主砲の連発で魔力冷却が間に合わっていない事を報告してくるが影はあまり気にせずに攻撃を続ける。主砲の威力と精度低下、充填時間がいつも以上にかかる、このままではいずれ壊れる、これらの事実を頭に入れ指示を出していく。
「このままでは主砲と旧主砲が壊れます――」
――と抗議する副指令に、影は不敵に微笑みながら答える。
「別に壊れたら壊れたらでいい。敵の拠点を無力化できれば優莉も納得する」
そもそも、魔力兵器は消耗品である以上いずれ壊れる。
つまり、それが早いか遅いかの違いである。
「もし壊れたら俺が壊したと総隊長に言え。俺が納得させる」
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