第6話 影と総隊長の会話
いきなり家を出て行く影の後を優美は慌てて追いかけてくる。
声が聞こえてきたので影が後ろを振り向くと、優美が走って追いかけてきた。
「ちょっと待ってください!? こんな非常時に一体何処に行かれるおつもりですか?」
「ちょっと天気がいいのでお散歩に行きます。だから今日はここでお別れです」
影がわざとらしく嘘を付き、笑顔で優美の顔を見る。
優美は歩く影の隣に来て、歩幅を合わせ歩く。
「何でいつも嘘を言うのですか?」
「何の事ですか?」
「とぼけないでください」
隠してもしょうがないと思い、正直に話す事にする。
でないと、隣を歩く優美がいつまでたっても納得してくれない気がした。
「皆の事が好きだからですよ。この国に住む皆の事が私は好きです。だから無駄な心配はかけたくないと言うのが本音です。それより優美様は急いで街に戻られなくていいのですか?」
影の言葉に優美が声を出して笑う。
「やっぱり影様ってお優しい方なんですね。このまま影様と一緒にいたら迷惑ですか?」
「はい、迷惑です」
優美が頬っぺたを膨らませて影を見る。
「むぅ……」
視線で影に訴えてくる優美に影が負ける。
「……すみません。冗談です。優美様の立場上、この緊急事態に私と一緒にいる時間なんてないと思いますが?」
「そうですね。でも緊急事態はもう解決に向かってますよね? なら問題ないじゃないですか。それにずっと隠していましたが私は傭兵をしております。腕には少しばかり自信があります。足手まといにはなりませんので安心してください」
傭兵とは軍とは違い、個人で魔人討伐をする個人業だ。傭兵は誰でもなれるのではなく、国が審査し軍の兵士と同じ基準で審査がされる。その審査に見事合格した物だけが傭兵になる事が出来る。簡単に言えば、国の審査に合格した者は軍に所属するか傭兵になるかを選べると言う事である。
「そうですか」
小さくため息を吐く影。
「なら好きにしてください。それより通信機を借りてもいいですか?」
「はい」
優美は影に自分が持っていた通信機を手渡す。影は優美が不思議そうな顔をしている事に気づいたがそのまま通信機を受け取る。そのまま優美の通信機を操作し影は耳に装着する。影の事が気になるのか優美の視線が通信機に集中する。
『はい、こちら司令室です』
通信機から聞こえる声に優美は驚いてしまう。王都それも作戦司令室と直接連絡を取るには幾つもの手続きが必要になる。今回のような非常時でも王都の受付を通してじゃないと話しを聞いて貰えない場所に影は平然と連絡をしていた。
「その声は優莉? 突然で悪いけど、国の壊滅危機に関して総隊長の意見を聞きたい」
影の顔が急に真剣になり、声のトーンも変わる。隣で歩いていた優美は影に聞きたいことが山ほどあったが黙って通信が終わるのを待つ事にする。
『はぁ……お久しぶりです。いつも思うのですが事がある事に毎回不特定多数の通信機端末を使って連絡してこないでください。反応に困りますし逆探知して本人か確認する身にもなってください!』
今度は何処か優しい影の声に戻る。
「ごめんね。てか最初からわかってるなら素直に教えてくれればいいのに」
『もしもの事があったら問題ですから』
「もしもって? この連絡先って女王陛下とその側近、後は俺と守護者しか知らないのに?」
『あーもう、もういいです! そうですね、私が逆らう相手を完全に間違えました! すみませんでした!』
「ごめんね。怒らないでよ?」
『だれのせいだと?』
影の視線が泳ぐ。
流石に心当たりがあるとは言えないのでしばらく黙っていると、優莉の方から影に質問がきた。
『……はぁ、もしかして、この状況下で切羽詰まった私達を冷やかす為に連絡をしてきたのですか?』
「まぁ、それでもいいんだけど。ノーブルイヤン街の救援要請にすぐに答えられない時点で本当はそんなに余裕ないんでしょ? だから今回は俺が動く。状況を手短に教えて?」
優美は何がどうなっているのか隣にいても訳が分からなさそうだった。一見、二十歳の優美と年齢が見た感じでは変わらない影が本当に三年前まで総隊長を務めていたとは到底思えなかったのだろう。何処かお気楽でお人好しなイメージしか今の影からは感じられないと言った視線が影に向けられた。そんなことはお構いなく優莉と何かを話している影を優美は静かに見守る。
「成程ね~。なら俺一人で何とか出来るから緊急会議は中止していいよ」
『えっ?』
「ん?」
『本気で言ってます?』
「うん。三年のブランクがあるからもしかしたら少しばかり失敗するかもだけど、きっと何とかなると思う」
『相変わらずですね。ならば影様を信じております。一応私達でも影様が失敗した時の為に守護者だけは王都で対空魔法の準備をしておきます』
「ありがとう」
影はそう言って通信を終わらせて優美に通信機を返す。
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