第7話 少しばかり忘れていた記憶

 

 通信機を優美に返す前からずっと感じていた優美の視線に満面の笑みで答える。

「いや、当たり前に笑って誤魔化さないでください!」


 優美が満面の笑みで笑って誤魔化す影に子供っぽく言ってくる。肩身が狭い中、家の格式を気にして育てられた優美にとってはこっちが本来の姿なのかなと思いながら優美を見る。


「……あはは~」

「影様!」


 避難勧告が発動され、近隣の住民が地下施設に避難し、妙に静かになった王都の商店街に優美の声だけが大きく響く。


「わかりました。それで何が聞きたいのですか?」

「さっき話していた相手は総隊長ですか?」


 一瞬何て答えるか迷ったが隠しても仕方がないので正直に答える事にする。総隊長とは、女王陛下を始めとした全権代理者に次ぐオルメス国のNo,3の決定権を保有しておりオルメス軍の最高指揮官である。そして、三年前までは影が全権代理者と総隊長を兼任していたが今は不在の影に変わり、当時副総隊長をしていた天音優莉が後を継いでいるので実質国のNo,2である。


「ですよ」

「軍に所属していたとは言え、王都のルールを破って一気に総隊長に連絡しても大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。だってあの子達が全部隠ぺい工作してくれますから。勿論女王陛下にも」

 サラッと爆弾発言をする影に優美が慌てる。


 本当に影の事を心配しているのか影の手を掴み歩みを止めて真剣な表情で顔を見る。

「もし女王陛下に見つかったら死刑ですよ? 死刑?」


 影からしたら戦場に出ればいつも死が付き物だった。いつも自分の隣にいる死神に命を取られないように戦っていた。そんな影からしたら死刑と言う言葉はそこまで大きく恐れる物にはならない。


「そうかもしれません。でも私は自由に生きたいと思います。誰かに縛られて生きるのはやっぱり窮屈じゃないですか」


 優美の気持ちを理解した上で影はありのままの気持ちで答える。優美にも自由に生きて欲しいと言った影の気持ちが伝わったかは分からないが伝わればいいなと思った。


「なら影様に一つ聞いてもいいですか?」


 再び歩き出した影の横を優美が歩きながら聞いてくる。

 何故かさっき握った影の手を離さない優美に影は疑問を感じたが特に気にしない事にする。


「いいですよ?」

「本当は私の家の事を知っていますよね? そして私の事も?」

「そうですね。優美様が私の家で少しばかり忘れていた記憶を思い出させてくれましたからね」

「ならもう少し手を握っていてもよろしいですか?」

「…………はい」

「何です? その間は?」


 此処は優美の機嫌を損なわないようにする。相手にするのは巨大隕石だけで充分だった。そこに機嫌を損ねた優美の相手はするのが面倒と言うのが影の本音だった。


「何のことでしょう?」

「ふふっ。相変わらずですね」


 二人はそのまま目的地であるB14区域に歩く。

 途中歩くのが面倒になった影は優美に頼み魔法を使い、空を飛んで連れて行ってもらった。



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