第47話 優美との約束
そんな影に不意打ちをかけるように、背後から
「なら、会って来たらいいじゃない。女王陛下、影の事いつも心配してたよ? お父さんがそう言ってた」
と聞こえてきた。
後ろを振り返ると、優美がいた。
「うわぁ!」
突然の事に影が驚く。
まずは心臓に手を当てて落ち着くことにする。
「心臓に悪い」
「何よ。せっかく会いに来てあげたのに。しかも、タイミング悪く影が早起きしてお風呂に入ってたから待っててあげたら私を素通りしてそのまま通信機を操作し始めるし。私の事そんなに嫌いなの?」
後数センチでぶつかりそうになる距離まで顔を近づけて不服そうに質問をする優美。
そんな優美を見て、心の何処かでホッとする自分がいる事に影が気付く。
一応念の為、頭の中でお風呂あがってからの出来事を思い返して見る。
すると、確かにリビングの椅子に誰かが座っていたような気がしなくもなかった。
「……嫌いじゃないよ?」
突然の事に、肯定ではなく疑問形になってしまった。
だが、そんな事よりも本題と言わんばかりに優美が話しを戻す。
「それで、会うの? 会わないの?」
「……悩み中」
「なら会ってあげたら? 女王陛下、私に影の事を話す時本当に楽しそうだった。街が一つ潰れるかもしれない状況で。影なら絶対に何とかしてくれる。私をどんな時も護ってくれた影ならきっと話しを聞いてくれるって。嬉しそうに言ってた」
「でも……」
「「私が『でも『古き英雄』は前線での戦いから引退して今は隠居生活をしてます。それに元全権代理者の影様がちゃんと会った事もない私の話しを聞いてくれるとは思えません」って言った時、女王陛下何て言ったと思う?」
頭の中で考えるが答えが出てこなかった。
影の知っている女王陛下は三年前で止まっている。
そんな影の考えを見抜いたようにして、優美が言う。
「何を言ってるの? もし影がそんな心の狭い人間なら私は多分影の事をここまで信頼もしてなければ信用もしてない。三年の時が経っても私の中での影は最強でお人好しで誰よりも優しいわ。困っている人を絶対に見捨てない。私が三年前、貴女達の命より街を優先した時、影は即答したわ。「なら両方共護ります」ってね。そうやって影は私の無茶な願いを何度も叶えてくれた。それも私が不可能だと諦めた本心の願いのレベルでね。だから、貴女が本気で影と向き合えば必ずオルメス国の英雄『古き英雄』が必ず動いてくれるわ。本当は近々影とコンタクトを取る為に守護者に頼んで調べていたんだけど、貴女にこのデータ(影の所在地情報)あげるわ。どうするかは自分で決めなさい。オルメス軍は影が動かなくても動くわ。でも多くの命を助けたいと願うならどうすればいいかは自分で考えなさい。ってね」
その言葉を聞いた影は思った。
このまま逃げ続けていたら、家まで女王陛下が突撃訪問してくる可能性があると。
そう、影の知っている女王陛下とはそうゆう人間だ。
普段はクールで近寄りがたい棘があり、何処か触れがたいオーラがある人間だが、影と同じくプライベートでは全然違う。
影とずっと一緒にいたがる寂しがり屋である。
育った環境のせいか影と女王陛下には似ている部分がある。
だからこそ、直感でそう思った。
「はぁ……仕方がない。このままお昼過ぎにでも会いに行くよ」
そう言って、影は優莉にメッセージを送る。
一瞬、送信ボタンに触れる手が止まってしまったが、送信した事を確認して通信機から手を離す。
「ねぇ、私もついて行っていい?」
「別にいいけど……、どうして?」
「う~ん。ただの興味本位かな? 影と女王陛下ってどんな関係か見て見たいって言うのが本音だけど? ダメかな?」
「別に普通だけど、まぁいいよ。多分見ても面白くないだろうけど……」
「うん。ありがとう」
優美がほほ笑みながらロビーのソファーまで行くと、腰を下ろして影を手招きする。
手招きされるがまま影が優美の元まで歩いて行く。
「おいで? 私との約束忘れた? 今度こうして会った時は甘えるって」
言われてみればそんな約束をしたような気がした。
影が頑張って頭の中の記憶を引っ張りだしていると、影の手を握りそのまま引っ張る優美。
身体の重心が前にズレ、そのまま倒れ込む形で優美の膝元へダイブした。
「つ~かまえたぁ」
影が顔を天井に向けると優美がほほ笑んでいた。
「昨日寂しかった。だからしばらくここにいて?」
何処か嬉しそうに呟く優美に影が頷く。
影の瞳と優美の瞳が交差する。
そのまま、子供をあやす手つきで頭を撫でてくる。
女の子の細く綺麗な手が優しく何度も頭に触れる。
「こうして見ると、やっぱり影って可愛い。戦場で見た影とは別人だね」
「可愛いって、俺男だから……」
「んっ? 甘えん坊の影は十分に可愛いよ?」
これは二人の感覚の違いなのだろう。
話しが噛み合っていない、そう思った影。
だけど、とても嬉しかった。
心が求めていた何かが満たされているこの感覚。
それこそが影の欲しい物だった――やはり人の温もりはとても暖かく嬉しい物だった。
「優美、ありがとう」
「フフッ。急にどうしたの?」
「なんでもないよ」
「そっかぁ」
そして、二人しかいない空間は静寂な沈黙に包まれる。
だけど、それはとても重たい物ではなく二人の心を豊かにする沈黙だった。
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