第39話 影、優莉、優美VS黒の剣士 2
「優美、絶対に遅れをとるな。優美は間違いなく強い。だから黒の剣士相手にもう少しだけ時間を稼いで欲しい」
「……何を言ってるの? そんなの余裕よ!」
そんなの当然と言いたげに優美が黒の剣士との攻防で出来た一瞬でこちらを見て頷く。
――勝利の方程式を組み上げる為に影が最後の賭けに出る。
黒の剣士は影の魔力増大――つまり魔法を一番恐れている。
ならば、勝機はそこにしかなかった。
本来であれば闘いに使う演算処理能力も全て魔法構築から展開、発動に回す。
「魔法陣構築座標地点確認、魔法構築初期情報入力完了、魔法構築式複製完了、魔法陣出現地点それぞれ修正」
そして、上級魔法ではあるが白い魔法陣が三つ出現する。
「まぁ、とりあえずこんなところか」
僅(わず)かに笑みを引きずりながらも影が呟く。
よく見れば気付く変化でも今の黒の剣士ではそれは無理だった。
黒の剣士を相手にするのを優美に任せて、影が語りかける。
「神話級の魔法が発動完了まで上級魔法を正確に展開し待機、破壊光線銃の発動と同時に一斉攻撃したらお前どうなるんだろうな?」
頭がパンクするギリギリまで動かし続ける影の言葉は正に黒の剣士を追い詰める目に見えない刃(やいば)となる。
「今もお前の体力と魔力は優美によって消耗させらている。それに対して俺はまだまだ魔力もあればこうして休憩すらしてられる。仮に魔法を全て防いだとしてもお前に勝ち目はあるのか?」
目に見えない刃(言葉)は更に心の不安をえぐるように。
「もっと言えばこちらは拠点に残った魔力兵器をお前に向けて撃つことも、援軍として大隊をこちらに派遣することもできる。普段のお前ならあまり意味がないだろうが疲弊しきったお前にこの仕打ちは耐えられないだろうな」
影の演説は確実に黒の剣士を追い詰めていく。
ネガティブな思考が負の連鎖として循環する。
一度こうなってしまえば魔人も人間もあまり大差はない。
考えただけでも恐ろしい事実。
黒の剣士だけではない、もし影が反対の立場だったら同じく我を忘れていただろう。
だが、落ち着いて考えれば黒の剣士は強い。
その程度の戦力ですぐに負けること等はありえない。
そう――闘いは力だけでなく頭脳も時として立派な力(武器)となる。
優莉の歌が終わりに近づく。
それは、歌の終わりとは別の意味を持った終わりでもある。
上級魔法が先に完成し発動待機状態となる。
「――――――――しまった。このままでは、ま、マズイッ」
黒の剣士が慌てたように冷や汗をかきながら呟いた。
他の者達には、何がそんなにマズいのかを理解できなかったのだろう。
だが続いて放たれた影の言葉に――ついに状況は理解される。
「そうだな。優美が頑張り、優莉が俺を支えてくれた。そして、その優莉をオルメス国の全員が支えた。仲間の力が希望となった瞬間だな。さぁ、魔術原書の名の元に終止符を打とうか」
影の言葉を聞いた味方部隊が何かに気が付いたように神話級の魔法陣を見る。
夜空で白く光り輝く魔法陣が発動待機状態となる。
そう、それは。
影の言うとおり、ノーブルイヤン街防衛戦の終止符を打つための準備が終わった事を意味していた。
優美が最後の力を振り絞り黒の剣士の悪あがきを阻止する。
優莉の歌がラスト二小節に入る瞬間、優美が大きく後方にジャンプして影の元に来る。それと同時に影が準備していた三つの上級魔法と神話級の魔法(破壊光線銃)が同時に発動する。
「――――っ――――まだだ! こんな奴らに俺は負けない……っ!」
黒の剣士が悔しそうに歯を噛(か)みしめる。
そう――最後の抵抗をする。
「聖剣エクスカリバー!!!」
影の光属性の魔法攻撃に向かって黒の剣士が得意魔法で反撃する。
白と黒の魔法攻撃が空中で衝突する。
突然巻き起こった衝撃波、轟音では合ったが影は落ち着いていた。
「――なぁ、知ってるか?」
全て、終わったかのように影が優しく語りかける。
「戦争は命を奪う冷徹な物なんだよ。だからこそ命を大切にしなければいけないと俺は思う。結局のところお前はそれが出来なかったから負けた。ただそれだけだよ」
刹那、光の光線が黒の剣士の攻撃をかき消して術者を襲う。
ドガーーーーーん!!!
そんな爆発音が、戦場に響いた。
影の長い髪が爆風で揺れる。
「綺麗な光だ。所詮一人では限界があるんだよな」
影は一人微笑みながら呟いた。
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