第10話 寝ぼけて
あれから三日が経過した。
いつも通り朝が苦手な影は自室で気持ち良く寝ていると、いつの間にか同居することになった優美が部屋のカーテンを開け影の身体を揺すってくる。朝日が眩しく二度寝するにしては影を揺らす優美の手が邪魔だなと思い渋々(しぶしぶ)起きる事にする。瞼を擦りながら優美を見る影。
そんな影に優美がため息を吐く。
「いつも言ってるけど朝ぐらい一人で起きてよ。私は影のお母さんでもなければお嫁さんでもないのよ?」
呆れ顔で影を見ながら言う優美に対して影はまだ寝ている頭を頑張って動かし言葉を発(はっ)する。
「……なら、起こさないでくれる?」
「はい? 影がここまでだらしない人だとは思わなかったからわざわざ世話を焼いてあげてるのに何よ!」
影の一言に機嫌を悪くした優美が耳元で大きな声をあげる。
「……ごめんなさい」
素直に謝る影に優美は困った表情をする。
影が大きなアクビをしながら優美を見ると影の隣に優美が座る。ここ数日一緒にいた事で影はある事に気づいた。それは優美がとても世話好きであると言う事である。朝が弱い影をいつも面倒見てくれて、更には炊事洗濯と何でもしてくれた。別に気を使わなくてもいいと一回言ったら、逆に全部するから家に泊めてと一方的に言われてしまったので影はその場の勢いに圧倒されてしまいつい了承してしまった。
「今、面倒くさい女だなとか思ったでしょ?」
優美が影の顔を見る。
「うん」
「うんって……言っとくけど女は好意がある相手には面倒くさい生き物よ。覚えておきなさい」
「ふぁ~い」
再び大きなアクビをしながら頷く影に優美はクスッと笑う。
笑い声が聞こえたので影が笑う優美を見ると二人の目が合う。
「影、素直で可愛い」
「ねぇ、優美、寝ぐせ」
そのまま寝ぼけて抱き枕に抱き着く影。
影の三言に優美が頷く。
「わかった。ってかさり気なく抱き着かないでよ……私抱き枕じゃないし腕が胸に当たって苦しいから」
焦点が合ってない目で影が優美の顔を見る。
「ふぁ?」
「寝ぼけてるの? もう、ならしっかりとそのままでいてね」
口では嫌がるが、何処か嬉しそうに赤面しながら離れるように言う優美では合ったがすぐにそのままで良いと言い、近くに置いてあった寝ぐせ直しと櫛(くし)を使って影のボサボサの長い髪を梳(と)かしていく。優美の事を抱き枕と勘違いした影は気付けばウタウタとしていたが、優美が何かをずっと耳元で言ってくれているおかげか意識が暗転することはなかった。
「はい、終わったよ。だからいい加減起きようね影?」
「ふぁ~い~」
寝ぼけている影を離して、立ち上がる優美。優美はそのまま立ち上がってロビーに戻っていく。影はそのまま一人になった自室でのんびりと着替え、朝の身支度を終わらせてからロビーに行くことにする。洗面所に行き鏡を見ながら顔を洗っていると影がある事に気付く。
「あれ? 今日は髪がボサボサしてない、奇跡だ」
驚きながらも何処か嬉しそうに影が呟く。
影がキョロキョロと周囲を見渡すと優美は影の朝食までの準備を終わらせてロビーのソファーで腰を下ろしくつろでいた。
「まぁ、いいや。この感動は心の中で留めておくか」
朝の身支度まで終わった影は朝食が用意されたロビーに行き、優美の正面にあるソファーに座る。
「優美おはよう。いつもありがとう」
「影おはよう。どういたしまして」
「いただきま~す」
影が優美の手料理を食べる。朝食は白米少なめ、目玉焼き、焼いたベーコン、プチトマト、味噌汁(みそしる)だった。目玉焼きは影の好きな半熟でベーコンは程よく焦げ目がついていた。プチトマトは新鮮なのか、口に入れて噛むと口の中で皮がはじけ、沢山の水気と甘酸っぱさに襲われた。味噌汁はレンコンとひき肉で作られており、豚挽き肉のコクとほんのり甘い白みそが絶妙にマッチしていた。優美は料理が得意なのか味噌汁にはパルメザンチーズと黒コショウを隠し味として入れていた。そんな、見た目は平凡な朝食でも実際食べて見ると、とても有り難くそれでいてとても美味しかった。
「どう? 美味しい?」
美味しそうに食べる影を見て優美が料理の感想が気になるのか質問してきた。
「うん。美味しいよ。いつもありがとう」
そのまま影が食べ終わるまで優美はニコニコしながら見ていた。影が食べ終わるとすぐに立ち上がり空(から)になった食器を持ちリビングに行く。そして、影が好きなコーヒーを白いマグカップに砂糖とミルクを入れて持って戻ってくる。
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
「ふふっ」
影に微笑みながら優美はソファーに座った。
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