第11話 外出
朝食を食べ終わり影がソファーでくつろぎながらコーヒーを飲んでいると優美が急によそよそしくなる。影はどうしたのかと思い優美を見る。
「ん? トイレ行きたいの?」
優美の顔が急に赤くなる。
影はまるでリンゴみたいだなと他人事のように心の中で呟いた。
すると、すぐに影の言葉を否定する優美の声がロビーに響く。
「違うわよ!」
急に立ち上がり大声を出す優美に影は思わず驚いてしまった。その時、マグカップに入っていたコーヒーを危うく床にこぼすかと思った。影は優美が大声を出した事と危うくコーヒーをこぼすかと思った事のダブルパンチに影の心臓もついうっかり口からこぼれてきそうになった。
「わぁ。危ない危ない」
一呼吸して、
「心臓に悪いからいきなり大声出さないでよね……全く……人騒がせなんだから」
ズズズッ
「うるさい! トイレじゃないから!!」
「違うの?」
優美が口をとがらせて頷く。
が、顔は相変わらず赤くなったままだった。
「なら、モジモジしてどうしたの?」
「今日暇なら、私と組手してくれない?」
「ん~とりあえずは理由次第かな?」
「私もっと強くなりたいの。それと今の私の実力が影にどこまで通用するのか知りたい。だからお願い」
「ん~、まぁそうゆうことならいいよ」
「ありがとう、影」
影が頷いて、飲み終わったマグカップをテーブルに置く。
少し間を開けて優美が目をキラキラさせて提案してくる。
「なら、今から王都にある『高丘の演習場』(おかのえんしゅうじょう)に行かない?」
「いいよ。なら準備するからちょっと待ってて」
「うん。私も準備してくる。そのまま準備終わったら玄関で待ち合わせね」
そう言って、優美は影よりも早く立ち上がり自室へと走って向かっていく。
そんな優美の背中を追いかけるように影もソファーから立ち上がり自室へと向かう。
「優美、子供みたい」
影が使っていない部屋の一つが今は優美の自室となっている。影は念の為に戦闘服に着替えて魔力石を幾つか適当に掴み上着のポケットにしまい玄関に行く。影が少し早いかなと思って玄関に行くとそこには優美がいた。
「優美、早いね」
「うん。だってオルメス国の元総隊長に相手してもらえるんだよ? そりゃ誰だって嬉しくもなるよ」
「あはは……。でもそれは昔の話し。あまり期待しない方がいいと思うけど」
影が靴を履きながら言った。
そんな影を見て優美が即答する。
「今でも世間の目は昔と変わらず。かつて歴代最強と呼ばれたオルメス国の総隊長にして魔人の王を封印した者『古き英雄』。その名は今でも私の中では偉大で憧れの存在。世間が不可能だと言った事でもその常識すら覆し不可能を可能にする『古き英雄』。だから、期待せずにはいられない。ずっと憧れだった人に私の力がどこまで通用するのかって考えたらワクワクしちゃうから」
「そっかぁ。俺そんな風に思われてたんだ……」
あまりにも過大評価してくれる優美に影は思わずなんて答えていいか分からず困ってしまった。世間の評価を得る為に戦った事は一度もなく、ただ影は影で護りたいと思う者の為に今まで一生懸命に死に物狂いで戦ってきた。それなのに、優美は影を憧れの存在だと言った。言った本人には悪気がなくても言われた本人としてはそれはそれで目に見えないプレッシャーに襲われることになる。
「……。まぁ、とりあえず行こうか?」
「うん」
ガチャ
影と優美が玄関を開け、家を出る。
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