第20話 動き始める魔人
「ところで影様に一つご報告があるのですがいいですか?」
いきなり話しが振られた影は微笑みながら優莉の言葉に反応し頷く。
「うん」
「明日の夜です」
その一言に影の顔から笑みが消える。
真剣な眼差しで優莉を見る。
当然、優莉の表情も真剣になり杏奈も話しの内容をすぐに察し真剣な表情になる。
「時間は?」
「恐らく十九時前後かと思います」
「ありがとう」
「はい」
いきなりよく分からない事を話す影と優莉に優美が二人を交互に見て首を動かす。
影が杏奈を見ると優莉の言葉に頷き肯定する。
「影様はどうするおつもりですか?」
今まで黙っていた杏奈が影に確認をするように聞いてくる。
影は優美を横目で見てどうするか一瞬悩む。ここで戦場に出る事を視野に入れるが、すぐに止める。今は優莉が動いている。つまりオルメス軍のそれも主要メンバーが動いてくれている事になる。影の時代は終わった。少なくとも影はそう思っている。だからこそ、新しい時代を築いていく部下達に後は任せる事にした。が、補佐は一応する方向で行くことにした。一回の失敗が取り返しのつかない事になる可能性があるからだ。
「とりあえず状況次第かな。明日は守護者の誰かが指揮をするんだよね?」
「はい。予定では私も戦場に行く予定です。王都には優莉様と守護者の美香が残ります。又残りの守護者は特務の為国内におらず、今回の作戦には参加できない状況です」
「相手の部隊規模は?」
影の質問に杏奈が次々と答えていく。
優莉は黙って杏奈の言葉を聞いていた。
優美はどうしていいのか分からないのか影の隣に来る。
その間も二人の会話は続く。
「敵四百から五百に対し、こちらは三百前後です。部隊はそれぞれ魔法と連携を中心とした小隊、中隊、大隊を幾つか編成します。そして精鋭大隊(主力部隊)で敵本陣を叩く予定です。今回はお互いに仮拠点を建設しての対城壁戦(たいじょうへきせん)もあるので、守護者の特務同伴の為、不在の司令に変わり王都から副司令も派遣、それに合わせて通信兵と補給部隊もと考えています。陣頭指揮は私で補佐は副指令と熟練の通信兵二名です」
「敵の指揮官と補佐官の強さと人数は?」
ここで杏奈の口が止まる。が、すぐさま杏奈の言葉に優莉が続く。
「敵兵指揮官推定レベル五が一名、補佐官推定レベル四が二人となっています」
魔人の強さを分かりやすく表したレベルは一から七まであり七の魔人は最強クラスである。
三年前、影が戦い封印した魔人王もレベル七だった。
イメージとしては、
レベル一から三までは一般兵クラス、レベル四は隊長クラス、レベル五は守護者クラス、レベル六は優莉のような総隊長クラス、レベル七は影のように別命、魔術原書と呼ばれる魔術師クラスとなっている。
影と同じ魔術原書レベルの人間は世界に数人しかいない。
しかしレベル七の魔人も世界には数人と報告があるので、世界は二つの陣営で均衡している。
「わかった。優莉もう一度、優莉、杏奈、そして王都にいる美香で情報の共有をしていつ何を聞かれていいようにするのと、今夜もう一度、精鋭の偵察隊を送って再度情報の確認をするように。それも昨日より正確にね」
優莉の言葉を聞いた影の頭が何か嫌な悪い予感を感じ取る。具体的にはまだ全然わからないがそんな気がする程度の物ではあった。が、無視するには何かあってからでは遅いと頭が判断する。
「もしかして、何も言わないだけで影は私のお願いを裏では聞いてくれてた……の?」
優美が思わず言葉を口から漏らすが集中している、影、優莉、杏奈の三人の耳には聞こえなかった。
「わかりました。しかし先日メールでご報告した通り精鋭部隊を送り確認したばかりなのに今夜も敵陣に送り込む理由を聞いてもいいですか? 正直に意見を言うならば、二度手間になるかと思います」
「司令官と補佐官が少ない。普通に考えて街を確実に攻め落とすなら兵を最低でも今の倍にするか司令官二人と補佐官をもう三人増やさないと可笑しいとは思わない? そもそも司令官がそれだけの規模で恐らく大隊長をするとは思えない。幾ら兵力の一部が拠点要員になると言っても司令官、副司令官の合わせて三人だけでは能力的に部下の管理が出来ないはず。かと言って、最初からノーブルイヤン街を数の暴力で潰しに来るなら今の兵力ではどうしても足りない……。となると、答えは一つ。間違いなく魔人たちには街を落とす何かがあるはずだ。そうじゃないと辻褄が合わない気がする」
影の言葉に優莉が杏奈を見る。
アイコンタクトのみで二人は影の言葉に納得した素振りを見せる。
「……と、言う事は別に目的があるかもと?」
「魔人の目的が捕虜確保の可能性もあるけど、そもそも今の敵の規模だとそれすら無理だ。なら、最低もう一人誰かいる可能性がある」
「「もう一人???」」
優莉、杏奈の二人は影の言葉に声を揃えて反応する。
優美は影がさっきの情報から新たな可能性を見出した事に驚いていた。
「これが魔力を持たない天才魔術師にして『古き英雄』の勘……」
優美がボソッと誰にも聞こえないように呟く。
「最悪もう一人中位魔人(レベル四・五)……違うな。恐らくこちらの守護者に対抗する為に純粋に力負けしない上位魔人(レベル六)と見た方がいいかもしれない」
もし、影が逆の立場だったらそうする。オルメス国は基本的に守護者や隊長を中心として隊を編成する。ならば、守護者に確実に勝てる者を戦場に投入出来れば勝利は目前となる。何より単純なパワー勝負では負けない。それに、上位魔人(レベル六)ともなれば数百人の部下を見る事だって出来る。もっと言えばそこに中位魔人(レベル四・五)が三人いれば問題ない。仮拠点の司令室にはこちらと同じように司令官としての実績がある魔人を起用すればそれで済む。
「レベル六ですか……」
「うん。もし今夜の偵察で情報が今日と変わらなかったら多分向こうには相当頭のキレるレベル六がいると見て間違いないと思う」
影の言葉に杏奈が質問する。
「どうゆうことですか?」
「上位魔人(レベル六)が本気で気配を消せばオルメス国の精鋭偵察隊でも中々感知すら出来ない。だから、そうなると俺の仮説が現実になる可能性がある。ここ三年、魔人が大人しかったのは魔人王が封印されていたからなのは知ってるね?」
「はい。影様が封印されたので全て知っております」
「その封印がつい最近解けたみたいなんだ。だから魔人達の動きもこれから活発化すると思う」
影の言葉に優莉と杏奈が驚く。
「「封印が!?」」
影は先日見た夢の内容を思い出す。
魔人王が夢の中で影に言った言葉。
―― 一週間もしない内に俺の部下である魔人がお前達の住む街を襲うだろう
この言葉の部下は恐らく魔人王に仕える魔人であると見て間違いと考えていた。そうなるとレベル六の魔人がいても可笑しくはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます