第19話 優莉と優美の会話
優莉は影から貰った魔晶の音指輪を大事そうに左薬指に嵌(は)め、影に一礼をしてから優美の前に移動する。
「初めまして、私はオルメス国の全権代理者にしてオルメス軍総隊長を兼任している天野優莉です。以後お見知りおきを」
優莉の言葉は初めて聞くにしては迫力がある言葉だった。
影が優莉の成長に感心して見ていると優美も自己紹介をする。
優美は緊張しているのか、視線をキョロキョロさせていた。
「初めまして。私はノーブルイヤン街を統括する父の娘で白井優美と言います。この度は無礼を承知でこのような我が儘を言ってしまい申し訳ありませんでした。どうしても総隊長様のお姿を拝見したく影に我が儘を言ってしまいました」
優美は優莉の顔色を伺いながら恐る恐る声を出す。
途中優美が視界の隅で影を見てきたので小さく頷く。
少なくとも影がこの場にいる以上、優美の安全は保障されている。
影は優美には黙っていたが裏ではオルメス国内で未だにかなりの影響力を持っている。それは三年前より更に昔、オルメス国の歴史において数々の政治での結果と戦場で戦果を挙げていたからである。王宮内では若くして先代国王と女王陛下に仕えていた影の存在は国家元首の世代を超えて今でも絶大である。
「そうだったのね。でも、影様が認めたのなら全然構わないわよ」
「ありがとうございます」
優莉の言葉を聞いて少し安堵したのか優美の表情が少し柔らかくなる。
「あの一つ聞いてもいいですか?」
「いいわよ?」
「何で守護者の皆様は影の事を未だに慕っているのですか? 元上官と言う事は分かりますが、それでも皆様まるで今も影が軍にいるかのように話しておられるように見えるのですが……」
「そうね……まぁ、いいわ。影様が総隊長としておられた頃は私達にもある程度自由な時間がまとめて与えられていたの。でも影様がいなくなってからはそれが一切出来なくなった。でも守護者の仕事量は三年前から一切変わってないの。どうしてだと思う?」
優美は優莉の質問に考える素振りを見せる。影としては素直に教えてあげればいいのにと思いながらも、ここは優美と優莉にも仲良くなってもらいたいので黙って見守る事にする。
「影がいなくなった分の仕事が回ってきた?……とかですかね」
優美の言葉に優莉がクスクスと笑う。
「そうね。半分正解よ」
「なら残りの半分は何ですか?」
「ある優しい総隊長さんが私達全員の休日を作る為に本来なら私達がするべき仕事の一部を黙ってしてくれていたの。しかもその総隊長さんはその仕事を守護者がする仕事だと一切言わずにね。だから優しい総隊長さんが辞職するまで皆そんな仕事がある事すら知らなかったのよ。ですよね影様?」
「否定はしないかな?」
「そうゆう事よ。ちなみに影様は戦場でもいつも私達や他の戦闘兵の事まで気にかけてくれていたわ。時には立場を気にせずに平然と私達を王都に残し、自ら戦場にも行くような優しくて頼りになる人を慕わないなんて出来るわけないじゃない。何より三年前オルメス国を救ったのは私達じゃないわ。救ったのは『古き英雄』としてその名を国内国外問わず轟かせた影様なのだから」
優莉の言葉に優美が首を縦に動かし何かに納得していた。影は優莉の言葉に昔を思い出しながら聞いていた。杏奈は優莉の言葉に共感しているのか優美と同じく首を縦に動かし小さく何度も頷いていた。
「それで今も影に対しては変わらずなんですね」
「そうよ」
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