第41話 勝利の美酒
――と。
「それで、影様は何故そんな浮かない顔をされているのですか?」
さりげなく聞こえてきた優莉の呟きは、周りの歓声にすぐにかき消された。
が、影と優美の耳にはハッキリと聞こえた。
「まさか、また一人で自分を責められているのですか?」
優莉が心配しているのか、影を見つめる。
「もう、お止めください。そんなことをいつまでもしていればいつか影様の心が壊れてしまいます。あの日、全ての責任を一人で背負ったのもその優しさと言う責任感からなのは気付いていました。私達の背負うべき業(ごう)を全て一人で抱え込むのはもう止めてください。三年前全ての責任を負い辞職。その事実が何を意味するか影様ならわかるはずです」
優莉からしてみれば、とても優しくて頼りになる元上官が苦しむ姿は見たくなかった。心配からか何処か必死に訴える優莉に、優美は息を呑み――だが影は。
「死んだ者は俺が弱かったから死んだ。俺にもっと力があれば死なずに済んだ……かもしれない」
心配する優莉に影が一歩近づく。
「だけど、それは俺自身の問題。だから優莉は気にしなくていいよ」
「それが間違っていると――っ!」
「そうかもしれないね。だけど、俺は戦いに勝っても素直には喜べない。もしもの過程で聞くけど優莉は女王陛下や俺が誰かを護り死んだとしても戦いに勝てばそれを無視して喜べる?」
影の優しい言葉が優莉の胸に突き刺さる。
「うっ……うそ…でもそんな話しは止めてください。影様が死んだら私……どうしたら……」
頭の中で想像してしまったのか、涙を流す優莉。
「そうだね。つまりはそれと同じって事だよ」
「…………」
「かつて総隊長だった俺の権限は知ってるね? その時に軍にいた部下全員の情報を頭の中に入れてるんだ。だから、その人がどうゆう人でどんな生活を送っているかも何となく知っている。だから、どうも他人事としては受け入れられない自分がいる、だけど――」
少し間をあけて、
「――俺達の勝利はその人達無くして絶対になかった。そこに感謝をしないなんてことは出来ない。だけど、皆が皆、悲しんでいたらその人達が報われない。だから、そんな顔しないで」
その言葉に、息を呑み、この戦いを振り返る優莉。
如何に敵の攻撃をやり過ごし防衛線を成功させるかを考えていたが、もし。
影が今日ここにいなかったら果たして成功できたのか?――なにより、影が強い理由はここにあるのではないか?
誰も死なせたくない――そんな子供みたいな我儘が影を強くした、そんな気がした。
「ふっ。やはり影様はお優しいのですね。困っている人がいたら、無償で手を差し伸べ助ける。口では簡単に言えますけど、実際にやるのはとても大変なこと……」
「そうだね。でも俺はこのスタイルでここまで強くなった。だから優莉は優莉のスタイルでこれからは強くなったらいいと思うよ。きっとその方が死んでいった皆も喜ぶと思うから」
……その言葉は。
優莉の胸の中で優しく響いて広がった。
これが、オルメス国の皆が認める英雄の姿。
力が全て、そして権力が全ての世界で影だけは違った。
立場や権力、それを盾にしない影だからこそ皆から認められているのであろう。
――そして、優莉の口から言葉がこぼれる。
「……はい。影様の言われる通りですね」
そして、影が優莉と優美の頭の手にのせて優しく撫でる。
「二人共よく頑張ったね。とりあえず今は勝利の美酒に酔いしれよ。その方があの子達も喜ぶよ」
影はこちらを見る仲間部隊に視線を向けて、二人に呟いた。
優莉と優美の二人は頭を撫でられた嬉しさからか顔を赤くして、少し照れくさそうにしてコクりと頷いた。
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