第31話 陣頭指揮 3
影が通信兵とは別に自ら手を動かし何かの計算を始める。モニターの一つが敵主砲の威力、速度、魔力計算式、外部気温、風力、天候……と言った物を全て数値化し計算を始める。モニターでは凄い勢いで沢山の数字が入力され凄い勢いでスクロールされていた。
「影様、逆算成功しました。データ送ります」
「こちら、敵主砲発射時間逆算成功。八秒後です」
影の耳に入ってくる報告。
「了解」
そして、僅かに微笑む影を見た優莉と哲也は思わず息を飲み込む。
哲也も影がやろうとしている事に勘付いたらしい。
「優莉様!」
「……影様を、信じなさい」
「無理です。今まで人類いや魔人ですら一度も成功したことがない事をしようなどと。機器の計算では敵主砲はこちらの主砲三機分の破壊力を持っています! 失敗すればこの司令室が一瞬にして壊滅、更には司令室を失ったオルメス軍が負けます」
余計な雑音には耳を傾けず、影は頭の中で何度も成功をイメージする。
「副指令命令だ。こちらの主砲三機を敵主砲射線軸に向けて今すぐ撃て!」
驚く、副指令、通信兵。
そして、優莉と哲也。
全員の視線が影に移る。
だが、ここで弱気になるわけにはいかなかった。
――ゴクリ。
「わかっているのですか? もし少しでも砲撃がズレれば司令室がどうなるかを……」
「やれ!」
副司令が覚悟を決めたのか、頷く。
「か、かしこまりました」
が、こちらが動く前に事体は最悪の状態となる。
「敵、主砲こちらに向かって発射されました。着弾推定時間六秒、魔力弾頭も発射確認。ミサイルは九秒後です」
「魔力弾の追撃まで考えるとこのままでは迎撃が間に合わず司令室は壊滅します」
「対空迎撃ミサイル一番から十番、副砲十機で迎撃。主砲発射後、すぐに魔力弾頭ミサイル一番から十番、旧主砲三機を敵拠点に向けて撃て!」
上空の攻撃に対して迎撃を開始する司令室。
そんな司令室に警告音が響き渡る。
沢山のモニターには「ALERT」という単語が表示される。
皆が死を覚悟する中、一人だけは落ち着いていた。
「ったく、だがまだ詰めが甘い……」
「えっ?」
「やはり。計算通りだ」
その言葉を聞いた優莉は意味がわからないと言いたげな表情で影を見てきた。
「まさか……」
まるで優莉の言葉を代弁するかのように、こちらの主砲が迎撃の為すぐに発射される。
お互いの主砲が戦場の上空で眩しい光と轟音を鳴らし衝突する。
二つの力が拮抗する。
そして、拮抗した力が空中分解して凄まじい衝撃波と共に消える。
影の指示により司令室から別で発射された副砲の攻撃と魔力弾頭ミサイル全弾が敵拠点に向かって飛んでいく。敵は主砲にエネルギーを回していた為、敵拠点の魔力障壁が一時的に主砲の影響で弱くなり、副砲の威力と精度が急激に減少した。数秒後、敵拠点の魔力障壁にこちらの副砲が直撃する。しかし弱くなった魔力障壁の一部部分を貫通し敵拠点に大ダメージを与える。更に追い打ちをかけるように魔力弾頭ミサイルが敵拠点に次々と雨のように落ちていく。敵の指揮が一気に落ち、味方の指揮が上がる。
「凄い……。奇跡を起こすなんて……」
「主砲に対して主砲で対抗って……」
「これが優莉総隊長すら超える采配にして『古き英雄』の力……」
「全てが私達の常識を超えてる……」
「ありえない……元総隊長とか……そんな次元じゃない……」
「全てが規格外……まるでチートだ……」
「正に過去最強の総隊長だ。どおりで守護者様達が未だに認めているわけだ……」
「世界に数人しかいないとされる魔術原書と呼ばれる理由はここにあったのか……」
司令室に兵士達の驚きの声が響く。聞こえてきた声は影の指示に従ってはいた物の本当にこうなるとは思っていなかったのだろうと思える内容だった。何より一番驚いていたのは優莉だった。
「うそっ!?」
影が横目で見ると、身を乗り出しモニターを凝視したまま言葉を失っていた。
「そんな、ありえない……。歴史に新たな戦法を刻むとは……」
哲也は哲也で目と口を大きく開け、思わず立ち上がってモニターを見ていた。
これを奇跡と呼ぶ者もいたが影からしたら奇跡ではない。
これは計算によって生み出された意図された事実の一つに過ぎなかった。
開戦までは誰もがこの戦いオルメス軍が不利だと思っていた。
だが忘れてはいけない。
――ある者が。
あの日、オルメス国が巨大隕石によって壊滅危機に陥った時、それを神話級の古代魔法一つで解決したことを。
そして、影の集中力を舐めてはいけない。
――影は強い。
……それが。事実なのだから。
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