第49話 優美の葛藤
慌てて逃げ出す兵士たち。
それに続くように女王陛下を守護していた優莉と杏奈も玉座から離れ優美を連れて壁際まで移動する。
「優美さん、こっち。急いで」
優美は手を引っ張られるまま、何が起きているかわからないまま優莉と杏奈に引っ張られる。
「何よ! 久しぶり会えたのに何でそんなに捻(ひね)くれてるのよ、バカぁ!」
先程までの落ち着いた口調と態度とは打って変わって。
「いい? 物心つく前からずっと一緒にいた影が急にいなくなって私ずっと寂しかったの! 気づけばいつも隣にいる影。そんな影が急にいなくなって私とてもとてもとても寂しくて今でもたまに夜な夜な泣いてるのよ! なのに、さっきから聞いていれば皆が如何にも言いそうな建前ばかりを並べて私の事舐めてるの!?」
優美は初めて見る女王陛下に戸惑ってしまった。
優莉もそうだったが、この国の偉い人ほど影の前では素直になる傾向がある気がしていた。
理由も何となくわかる。
――それは、影の人柄だ。
誰でも受け入れてくれそうな優しさ溢れる影。
誰よりも強い癖に、皆に平等で人思いな優しい影。
困っている人に自然と手を差し伸べる事が出来る影。
自分を犠牲にしてまで、何かを成し遂げようとする影。
そんな影に気付けば我儘(わがまま)になってしまうのだと。
優美は近くにいた優莉に影と女王陛下の関係を聞く。
「あの二人どういった関係なんですか?」
「簡単に言うと三年前まで超絶仲良しだったんだけど、三年前の一件で疎遠になった関係よ」
「仲良しって女王陛下と影がですか?」
「えぇ。女王陛下と影様は同い年なのよ。女王陛下は魔人に両親や身内が殺されてずっと一人だったんだけど、いつも側にいた影様だけには心を開いたのよ。私達には残念ながら少ししか未だに開いてくれないんだけどね……」
優美は優莉の言葉を聞いて納得する。
用事で女王陛下に会いに行った時も影の話しをする時は女王陛下がいつも楽しそうに話していた事を思い出す。きっと自分達と同じように影の存在はとても大きいのだろうと思う。
「ホント影って何者なんだろう……」
「そうよね。影様って不思議なお方よね……。もし女王陛下を怒らせたのが影様じゃなかったら多分今頃魔法を使われていたか重刑を課していたはずよ」
「…………えっ? つまり魔法の発動を恐れて皆壁際に逃げてるんですか?」
「……えぇ。そうよ。一応教えておくと女王陛下は上級魔法まで使えるわ。それと、過去に影様との護身術修行を通して守護者とも正面から戦えるぐらいには強いわ」
それを聞いた、優美は苦笑いしかできなかった。
「あはは……」
何故、優莉達までもがこの場で逃げているのかがよくわかった気がした。
今も何かを言い合う……訂正して一方的に影に色々と言う女王陛下を見て。
「なんだ……。影が思っている以上に今でも仲いいんだ。いいなぁ~」
と呟いた。
いつか優美もあんな風に影と色々な事を言い合える仲になりたいという願望を胸に抱えて。
――――――――…………。
そのまま、激しくなる女王陛下と影の話し合いから逃げるように次々と兵士たちが退出していく。
「ほら、優美さんも今のうちに」
言われるがまま優美も優莉と杏奈に続いてその場を退出する。
そのまま一人になった優美は王宮の廊下を歩きながら叫ぶ。
「あああぁもおお、いらつく――――っ」
何処か影と親し気な雰囲気を醸(かも)し出した女王陛下に――ではなく。
その光景を見て、胸が締め付けられた自身に、イラついて叫び散らす。
「あぁぁもう何でこんなにモヤモヤした気持ちにならないといけないのよ。こんな気持ち初めてでどうしていいかわからない――もう、どうしたのよ私!」
優美は一人自分の気持ちと葛藤する。
「あんな、誰にでも優しい勘違い男好きになるんじゃなかった……。でも好きになったから色々と頑張れたし結果も残せた。何より、二人だけの時は死ぬほど幸せだし……」
――だが、優美は気付いていない。
あの日、影がいなければ間違いなく死んでいた。
恋の一度もしたことがなく、ただの令嬢として育てられた自分に生きる道をくれた影の背中はとても偉大でカッコよくて、誰よりもたくましくて大きかった。
そして、気付けば恋に落ちた自分がいた。
だからこうして影と再開し仲良くなれた事実に――。
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