第51話 影と魔人王の会話
ホッとするのも束の間で、一人の兵士が影達の前に姿を見せる。
「し、失礼します。お客様がお見えになられました」
兵士の言葉を無視するかのように後ろにいた者は影に向かって一歩、一歩ゆっくりと歩み寄ってくる。
……それに、この魔力反応は。
その顔と魔力反応。
見紛(みまが)うはずもない。
あの日――影が命懸けで――封印した――
「止まれ! 何故……お前がここにいる、魔人王!?」
ぞぅッ――――――と。
影の言葉を聞いた瞬間、空間の雰囲気が変わった。
人類史上最大の敵とされる魔人王が持つ影響力なのか?
影を除いた全員が言葉を失い、冷や汗を全身に流していた。
兵たちは顔が青ざめ、女王陛下と優美は今にもくずれそうに身体を震わせていた。
だが、そんな一同を気に留める様子もなく。
そして異変を察知し、駆けつけた優莉と杏奈すら無視して。
「まぁ、そうカリカリするな。今日はただの挨拶だ。本体の半分の力も出せないこの分身体ではどうあがいてもお前には絶対に勝てないからな」
「なるほど。確かにお前がその気ならここにいる大半の者が死んでいるか」
「あぁ。そしてそれはお前の逆鱗に触れ、俺の部下を全員殺されることも意味する」
魔人王の威圧に呑まれることなく落ち着いて口を開く影に。
その場の全員が生きた心地を感じられなかった。
――目の前にいるのは魔人の王。
気まぐれ一つでここにいる全員を殺す事が出来る力を持った者。
だが、そんな魔人王ですら警戒する人間もここにいる。
「まさか、巨大隕石から国を護り、黒の剣士を倒すとは見事だ」
「あぁ。それで?」
「実は今、人類が繁栄している地に俺の部下がそれぞれ挨拶に行っている」
それはつまり、此処だけじゃなくて他の場所にも魔人がいるという意味な訳で。
勘が良い女王陛下と優莉は影と同じことを思ったらしく。
とても苦い表情を浮かべる。
「つまり人間に対して宣戦布告ってわけか?」
「あぁ。流石に宣戦布告なしで全人類を敵に回せば俺の傘下ではない魔人からも狙われる。それは避けたいのでな」
「お前にしてはずいぶん弱気なんだな」
「俺を邪魔だと思っている魔人もいるからな。この座は魔人の頂点を意味する。そう考えれば無理もないと敵ではあるがわかって欲しいんだがな。幾ら魔人最大の戦力を持っているとは言え、お前とそいつらを纏めて相手にすれば俺の敗北はほぼ確実なものになる」
その男――魔人王は。
何処かめんどくさそうな表情を浮かべて。
「主砲、兵の数、後は司令官の数では大きく勝(まさ)っていた。だけど、今回黒の剣士は負けた。その事実から俺はお前を倒す為に手順を踏むことにした。ただそれだけだ」
「なら、忠告しておく。ゲーム感覚で兵を動かし戦争をさせていたら、いつか全て失うぞ」
「だろうな。だがこれは俺が高見に行くために必要な事でもある」
「んっ?」
「魔人の王となった俺を倒したお前を倒さなければ火星最強で終わってしまう。俺が欲しいのは宇宙最強の座。力が全ての時代に、敗北を知らなかった俺に、唯一黒星をつけた男を倒すまで俺は歩みを止めること等できぬ。人類最強ではないお前に負けた、それが俺にとっては最大の屈辱でしかなかった」
影と同じく魔術原書と呼ばれる者の中には影以上に強い者がいる。
魔人王も当然そのことを知っている。
どんな世界、どんな時代においても上には上がいる事を絶対に忘れてはならない。
「力を得る為に俺と人類最強と呼ばれている者を倒す。つまり全ての人間を纏めて相手にして倒せば理論上お前が火星と地球で一番強い事が証明されるわけか?」
「あぁ。その通りだ」
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