第14話 杏奈との再会

 影と優美が楽しくお話していると、影を呼ぶ声が遠くの方から聞こえてきた。声のする方向に影と優美が首を傾け確認すると一人の少女が走ってこちらに向かって来た。


「あの方は……確か……」

 優美の目が大きく見開かれる。


「でも……何で? あの方がこんな所に……いるの?」

「こうして直接お会いするのは三年振りですかね。お疲れ様です。影様こんな所で何をしているのですか?」


「そうだね、杏奈元気にしてた?」

 影が返事をすると、走って来た少女が会釈をする。

 影が杏奈と呼んだ少女は一瞬気になるのか優美を見るがすぐに視線を影に戻す。杏奈は身長百五十センチ前後、小柄で金髪ロング。容姿は少し身長のせいか幼く見えるがこれでも影より年上である。


「はい。それより今日は何故このような場所におられるのですか?」

「あぁ~それ? それはね、優美の修行の為かな。 広々と魔法を使える場所と言ったらここが一番家から近くて便利ってのも一応あるけど」


「そちらのお方が優美さんですか?」

 杏奈が首を傾げる。


 すると不思議そうに優美を見る。

「うん」

「どうしたの?」

「あっ……いえ。似たような名前の人を噂で知っていたので」

「似たような名前の人?」

「はい。影様はノーブルイヤン街統括の娘をご存知ですよね?」

「うん」

「その娘と同じ名前だったのでつい」


 影が戸惑う。


 杏奈が言っている優美とは恐らく影の膝の上で寝転んでいる優美で間違いなかった。杏奈は守護者で影の元部下である。総隊長、副隊長、守護者統括、守護者、隊長、副隊長と役職がある中で守護者以上の立場の者にはそれなりの情報網があり本来であれば一般人が知るよしのない案件ですら閲覧することが出来る。そんな杏奈の疑念の顔に影は少しばかり疑問を抱いた。


「ん? もしそうだとしたら何か問題があるの?」

「知らないのですか? ノーブルイヤン街、統括の娘と言うと若き天才少女と呼ばれ『白き剣星』の異名を持っています。その異名通り剣の腕前は一流で傭兵の中では一番強く私達守護者にも劣らない実力だと世間から噂されておりますが……、誰かと集団行動をしない事と我が儘娘な事でオルメス国それも王都ではかなり有名です……。まぁ噂になったのが影様が軍を離れてからなので知らなくても無理はないですが」


 いきなりよく分からない事を言う杏奈の言葉を聞いて試しに影が優美を見る。

 すると、優美が影の膝の上から起き上がり気まずそうに顔を見る。


「優美?」

 影の言葉に優美がふいに目を逸(そ)らす。


「杏奈の言ったこと本当なの?」

「……うん」

 気まずそうに優美が返事をする。


「本人が認めてる以上そうみたいだね。一応杏奈の言ってる優美は目の前にいる優美だよ」


 影の言葉に杏奈と優美が驚く。

「「えっ?」」

 二人の驚きの声が重なる。


「影様それだけですか? 普通何か裏があると思うじゃないですか?」


 金色の長い髪を揺らしながら杏奈が影に詰め寄る。影は何をそんなに慌ててるいのか分からなかったのでとりあえず近くに寄って来る杏奈に両手を使って静止するようにジェスチャーをする。


「だって、優美の昔はどうであれ優美は自分から俺のパートナーになると言った。ならそれでいいと思うけど。それに俺の近くにいたい理由も俺は知ってるからね」


 微笑みながらサラッと自分の意見を言う影に杏奈がため息を吐く。

「多分そう意味じゃないと思うよ? 私が思うにだけど、遠回しに少しは人を疑えって言ってるんだと思うけど?」


 楽観的な影に優美が影の耳元で杏奈が言いたかったであろう事をストレートに伝える。

 そんな優美の言葉に対して影が首を傾げる。

「そうなの?」


「うん。私が言うのもあれだけど流石に杏奈様が可哀想だよ」

「優美さん、ありがとう。後、様は付けなくていいわ。これからも影様のお側にいるのであればね」

「はぁ、これからも影の側にはいますが……。とりあえずわかりました」

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